増沢は画面をのぞくようにこちらを見た。
その無精ひげは何とも言えない今日習慣を漂わせる。
「ええ、聞こえますか」
 彼はこちらに問いかける。
「どうも、ようこそ。呪いの映像へ。
私、増沢弘嗣と申します」短絡的な自己紹介をする。
 どこかのビルの上にいるのか。カメラをあちら側
(反対側)に向ける。彼の姿は映っていない。
「それではですね、呪いで人を殺したいと、
思いますー。それの実験映像です。
ほら、じゃあそこのロータリーを歩く
紺色のコートの女性、あの方にしましょうか」
 彼は言葉を停めることなくそれを言い続ける。
「ほら見ててくださいね」
 画面右側に彼が映る。片手の指を立てるように
自分の目の前に出し、目をゆっくり瞑った。
「ろじとーを、ちのいー」その言葉を連呼する。


「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
すると彼女の姿は消えていた。
きれいさっぱり消去しているかのように。


「ちょっといいですか」呼びかけたのは崎原であった。
「今の画面の奥見ましたか?なんか見えましたよ」 
 皆が皆、凝視する。
「何ですか?」
 石神がそれに気が付いた。
「これ、白カバ公園の近くです。 
私の実家の近くなんです」
 何かと何かがつながった。 
いや確かに何かがつながったのだ。
「君、武蔵野出身なのか」
 猪塚が彼に言う。
「そうなんですよ」
 その隙を見て東山は自らの
スマートフォンであることを調べた。
「え」
 周りを置き去りにするかの如く彼は言う。
「どうした?」
「石神さん、知ってました?白カバ公園で 
白骨遺体が発見されたこと」
 石神も我々も驚いた。
「白骨遺体?」と聞き返すかの如く聞く。
 何かに括り付けられるような感覚に陥る。 
「まさか」
 声を大にして彼が言う。
「あそこで拾ったもの、まさか人骨だなんて」

  *
 
「え?拾った?」
 石神は深く考えてから言った。
「何だろうって思っていました。
子供ながらですよ、石だ。なんてそれをですよ、
仲間の証なんて言って持ち歩いていたんですよ」
 本人たちもさぞかし驚いたのであろう。 
そう問題は、誰の遺骨であるのかということ」
「それは誰だったんですか」東山が問うた。
 石神が唾を飲み込みこういった。
「増沢弘嗣の母親です。おそらく」
 一同に衝撃が走る。考えるだけで鳥肌が立つ。
「増沢の母親の遺骨をその場にいた面々が
所持していたってことだよな」猪塚が言う。
「そうなります」
 その時、私のスマートフォンが鳴った。
 着信元は美麗であった。
「すいません、電話でます」
と断りを入れて電話に出る。
『蛙さん、すいません今お忙しいですか?』 
「はい、大丈夫ですけど」
『私も急で驚いているんですけど、𠮷岡さんから』
 織本のマネージャーだ。 
 彼が、彼がどうかしたのか?
『織本さんが音信不通になったと』 
 それを思わず口に出していた。
「音信不通?」
 周りの目がこちらへ向けられる。
『昨日の夜から連絡がつかないらしいです。
今日も現場に現れずに彼の自宅に向かうと
留守だったようです』
 もちろん私も彼の行く先を知らない。
『無事ですかね、私心配で』
「落ち着いてみよう」と私は彼女に言った。  
 意外と簡単な解決策、彼の居場所は単純に
白カバ公園であるかもしれない。
「美麗さん」 
『はい』
「今日の14時、白カバ公園に来れる?」
 猪塚等の視線を気にしながら私は言う。
 猪塚も頷いた。私たちは映像を目にした為、
その打開策を練らなければならないのだ。
 
  *
 
 私と石神はそのまま駆け出すように事務所を出た。
その他の人物たちにはただただ
祈っていてくれと声をかけて。
「で、僕たち本当に死なないんですよね」 
 そう、確かに見てしまったのだ。彼の作った、
見たら死ぬ映像を。
 車を走らせ数十分。例のあの場所、
白カバ公園が見えてきた。
 
  *
 
 市営公園の中では大きく、芝生、遊具、 
アスレチックなど子供が喜ぶラインナップであった。
大体どのくらいの大きさであろうか。
 池や噴水等もある。平日にも関わらず、
いろいろな人々がそこにいた。絵を描く人、
談笑している人、駆け回る人。
 美麗は到着しておらず、その周辺を歩き回る。
そんな中あるものを見つけた。
意外にもそれを見つけてきたのは石神であった。
「蛙さん、あれ見てくださいよ」
 彼が指さすもの、それを一目見て私はまたも驚いた。
「あのシーソー、もしかして」
 そう、映っていたものとは最初の被害者、
ゆりぴいが見たとされる黄色のシーソー。
 もしかすると違う公園のものかもしれない。
しかしながら核心を覚えたのは、
その近くにあるベンチの後ろだ。
 花が添えてある。しかしそれがゆりぴいの見た
赤ん坊ではないのは窺えた。
この場所で亡くなるとは考えづらい。
 しかしながらその可能性も捨てきれない。
 迷惑を被るのは承知だが、この公園を
管理しているという武蔵野市の
管理課へと電話をかけた。
 しかしながら応答はノーであった。
その直後、市役所の人間であるだろう
服を着た男性を見つける。目が遭った。
私は恐る恐る近づいた。
「あ、私東京オカルト怪異譚の井の中蛙と申します。
この公園についてお聞きしたいことが」
 彼はなぜか驚いている。
「え?蛙さんですか?蛙さんなんですね」
 彼は私を知っているようだ。
単なる偶然であろうか、
意外にも順調に解決することができそうだ。
「取材でこちらの公園を知りました。その中でですね、謎の映像が撮れたようです」
 しかしながら彼の顔はしぶしぶであった。
「そうですね、私共では答えかねないですね、
すいません」
「それでは、どのようなことがあったのかだけでも」
「そうですね、答えかねませんね」
「小さい赤ん坊、」
「え、どうしてそのことを」
「やはり、そういった事例が」
「(こそこそと)本当に蛙さんなんですか?」
「はい、そうです」
「実は大ファンなんです。東京オカルト怪異譚さん。
動画も配信も見ています」
「ありがとうございます。おこせがましいですが、
何か知っていることがあれば、ご協力をお願いします」
「そうですね、内密ですよ。実は、あの場所。
赤ん坊が埋められていた場所なんです。
厳密にいえば埋められたというより、
置いてあった場所なんです」
「置いてあった?とは」
「俗にいう、置き去りっていう」
 それと彼のことを重ねた。
 しかしながらこれと言って結びつけるものはない。

「蛙さん、あのう」
「どうしたんですか」
「すごいバズってますよ、切り抜きで使われていたり」
「いやいやそんな、あり得ないですって」
「あの、何でしたっけ、モデルの」
「美麗ですか?」
「あ、そうですそうです」
「バズってるというのは」
「一連の配信を繋げてみると、
ある音声が聞こえてくるって」
 彼はズボンの右ポケットから
そのスマートフォンを取り出して、
SNSに投稿された誰かの切り抜き映像を再生した。
 私が映る画面録画された映像が、
連続して四つ流れている。
それを凝視していると、こんな声が聞こえてきた。
 震えたような低い声で、”すなばにある”
そう聞こえた気がしたのだ。
 言葉にならない不快感が過る。
目の前にあるあの砂場に、間違いなく
あの砂場であるのだろうか?
私は取り憑かれたように近づいていく。
「蛙さん、蛙さん」
 彼女の声に呼び止められた。美麗である。
 以前に反して彼女は鼠色のパーカーを羽織り、
化粧も薄い。
「だめです、砂場に近づいちゃ」
彼女の言葉を理解する猶予なんてなかった。
「何がだめなんだ?」と私は彼女にいう。
 彼女は何か知っている?
「砂場、君もSNSをみたのか?」
彼女は俯いているかのよう、
目元が暗く、いつもとは違う印象を受けた。
 彼女の唇が少し動いた。
「だめなんですって」
何がいけない?何がいけないんだ?
煽動するように役所の彼は言った。
「何か知っているんですか?
知っているのなら答えてくださいよ」
彼女の反感を買ったようだ。
「誰なのあなた」
状況的には悪い。かなり悪い状況下にいる。
「ただのファンですけど」
「ただのファンが何よ、前に出てこないで」
賑わう公園で嫌な視線を多く感じる。
 まあまあ、と声を掛けようにも
その隙間を埋めることができない。
周りの人々が「見たことある」「あれ、美麗だよね」
という声を片耳に挟んでいるからだ。
 急にその言葉が頭に浮かぶ。
 死という言葉だ。
 今まで遠くにあった言葉がこんなにも
身近になってきたとは。それよりも彼女だ。
彼女は何を知っている。この砂場に、
この砂場に何があるんだ。私は彼女にそれを問うた。
「何を知ってるんですか」
 あえて丁寧に、丁重にそれを問うた。
彼女は改めてため息をひとつつく。
 その息が途絶えた後に彼女はこんなことを言った。
「私その場所で、見たことがあるんです」
 見たことがある、どういうことだ。
彼女は関係がないはず。年齢も彼らと異なり、
生まれた場所も違うはずだ。何を見たんだ?
彼女は何を見たんだ?束の間に彼女はこういう。
「人が死んでいたのを見たんです。というか、
今も見えています」
どちらから聞くべきかを少し悩んだ。
彼女も悩んでいる様子であったが、
意外にも早く彼女はいう。
「今も倒れているの何人も」
 予想外の発言であった。何人も、
という言葉に喉を詰まらせる。
 彼女の目には何が見えているのだろうか。
何を目に映しているのか。
「男も女も、ほら、ほら」
その姿は彼女の姿ではなかった。
 その目は紅く充血しており、首を小刻みに揺らす。
私はそんな最中あることを思う。
石神は、石神はどこだ。



「これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー
 これでのろいーころせー」




 何処かから気味の悪い声が聞こえた。何というか、禍々しい人形がかたかたと動き出すような、
そういった訳のわからない、
説明のつかないものが目に映る。
 人の顔、顔、顔。顔がただただ。
 笑っている人、怒りを浮かべるもの、大きな顔、
小さな顔。こんなにも人の顔が恐ろしく映るなんて、
突如その空間に支配されていた。支配されていた。
 暗闇に蠢くその幻影に私は叫び声を上げる。
 これは、この映像は何なんだろう。
 私は記憶の四隅から抜け出すことができずにいる。
何が現実で?何が虚構であるのか。
益々記憶の境目が分からなくなる。
しどろもどろに頭を抱える。知らない顔に包まれて、
その声はずっと続いている。
絶え間なく、鼓動を刻むようにただただずっ

   「

5/ハリさはら

ゆわ

     Gtm5たや

 な






   らあ







            はほ