翌日、私は指定された店へ出向き、
美麗と4人掛けのテーブルに並んで座り、
織本彌勒を待った。
しばらくするとマネージャー『𠮷岡』
とともに彼が訪れた。飲み物を頼む。
「お待たせいたしました」と𠮷岡の後に、
初めまして織本彌勒です」と立ち上がる
私たちに握手を求めた。その手を交し合い、
一斉に座った。
「美麗さんも久しぶりですね」
「はい、以前イベントでお会いしたぶりですよね」
私はその間に𠮷岡と目を合わせ軽く会釈した。
そのあとに織本の目はこちらに向いた。
「よく見てますよ、あの動く人形の映像、
怖すぎて何回も見ました。あれ、
作りものじゃないですよね」と彼は笑う。
私は首を振って違いますよと言った。
「いやいや、本当に疑ってしまうほどの映像でした。
そういうものとても好きなんですよ」
「私もです、怪奇的なこと、大好物です」
何故か褒められたように感じて私は
ありがとうございますと言った。
頼んだ飲み物が届き、私たちは乾杯の音頭をとる。
織本を筆頭に乾杯と。
「それで本題です。増沢弘嗣について」
彼のその一声で場の雰囲気が変わった。
「一から話してもいいですか?」
彼が私の目を見て問いかけた。頷く。
「自分が彼と出会ったのはとある短編映画の
企画でした。それもインスタのDMで彼からの
コンタクトが来ました。映画を撮りたいから
出てくれないか?って。その当時は仕事を
選べる立場でもなかったので、快くお受けしました。
それがですね。彼と喫茶店で談笑している姿を
撮るだけでいいっていうんです。
それに映像を重ねるって。まあ、
力入れた演技なんてしなくてもいいので、
軽い気持ちで受けたんですよね。それもそのはず、
彼がなくなってこのテープの在処が
分からなかったので気になっていたんです。
親族や彼の知り合いが遺品整理に訪れた際、
こんなものが見つかったんです」
「それは、どんなものですか?」
「人を呪う映画をこの世のどこかに残した、
そういった旨の遺書です」
私は彼に思わず口を開いた。
「彼はどんな恨みを持っていたのでしょう」
思い当たる節、と彼は思ったのであろう。
彼はこういった。
「見てみます?彼の遺書」
咄嗟の発言に戸惑いを覚えた。
「え、あるんですか?」と美麗は言う。
「ありますよ」淡々と織本は言った。
その拍子に𠮷岡の身体が彼の持つ鞄の方へ動いた。
何かを取り出した。おそらく遺書だ。
彼がそっと手をさし伸ばす。
くしゃくしゃな状態の布切れのような
紙の中にはこんな言葉の羅列が並べられていた。
私の最後の作品を
目にしたものは死に至る。
必ず、必ず。
*
「なんですかこれ」
美麗が慄く。私も同じように言葉にならない
言葉を出す。怨念のこもったそれは
確かに私たちを刺激した。
「本当に彼はこんなことを?」
「親族からお借りしました。家族と言えど、
これを持っているのは怖いと」
「確かに怖いですね」
もうすでに四人亡くなっている。
「それでいうとほかの皆様は」
彼は再び疑問を抱く。
「動画ってあったりしますか?ほかの」
「それが」
「それが?」
美麗がかき消すようにこんなことを言った。
「実は何らかのつながりがあるんじゃないですか?」
「というと?」𠮷岡が問う。
「例えばですよ、通っていた学校が一緒とか」
「要するに関わりが少しでもあるということですよね」織本は言う。
私は織本に聞いた。昨晩体験した、
というよりも近頃体験し続ける不可解な死について。
「お知り合いにヨガ教室を
やってらっしゃる方はいらっしゃいました?」
織本は少し考えた。
「あ、橋元久美ですかね。はい、知ってます」
まさか。
「どういうご関係ですか」
彼はすぐに答えた。
「知り合いです」
知り合い、まさかの返答に驚く。
「それじゃ、石神も知ってますか?」
「石神というと石神健司ですか」
石神だ、石神で間違いない。
「自分の本名、掛川慎太郎といいます、
もしかしてオカルト怪異譚にいるんですか」
「そうです。一緒に行動することが多いんです」
「ああ、やっぱり。僕も動画で拝見した時に
気づかかなかったな」
「石神に明日会うので詳しく聞いてみます」
あ、と織本は声を漏らす。
「増沢についてもう一つ思い出したことがありました」
「というと」
「俺には未来が見えると」
突発的な彼の言葉に戸惑いを覚える。
「なんていうんでしょうか、
呪いを極めたとか言ってましたね、
冗談かよと思いましたけど。
小学校の頃から言ってましたね。
早めの中二病かななんて思ったんですけど。
昔から変な奴でした」
彼は鼻で笑うように言う。
「小学校からの知り合いなんですか?」
はい、と彼が言う。
「いや、んまあそういってもいいんですかね。
他の人はどうかなとは思うんですけど」
「それはどういったことですか?」
「ひみつきちです」
その場に現れたのは沈黙だった。
「ひみつきち?」
美麗が言った。続くように私も頷いた。
「地元が一緒なんです。白カバ公園、
名前は存じ上げないんですが、
そこに少し空間が開いた茂みがあるんです。
子供が何人か入れるくらいの」
「よくある話ですよね」と𠮷岡が言う。
「私も小さいころよく遊びましたね、
そういったところで」
私はうん十年前のことを思い返した。
静かに彼は言った。
「地元は一緒ですけど、小学校が違うんです」
「小学校が違う?」
「はい、僕は南小出身で、増沢が西小学校出身です。
他の人がどうかは分からないんですけど」
「全員が一緒ではないんですね」と美麗は言う。
「同い年ではありますけど」
「全員が関わりを持っているわけではない?」
*
時間が過ぎていく。気が付けば日付を越していた。
掃けるように店から出ると溺れるように
玄関で眠りについていた。
翌日、早速石神に昨夜のことを問うた。
「ようやく気が付いてくれたんですね、掛川君」
彼はそこかしこに喜びを散らばせる
「そう、彼も会いたがってたよ」
「ほんとうですか?これと言って
関わりはないんですけど。
やっぱり、本名じゃないとわからないもんですね」
うむうむと頷いた。
「彼の身に危険は」
「とりあえずは大丈夫だそうだ」
「良かった」
石神が不自然なタイミングで咳払いをした。
それと並走するように鼻歌を歌い始めた。
不自然である。
「ろじとーを、ちのいー」
まるで何かにとりつかれているかのようだ」
「せろこいーろのでれこ」
「ろじとーを、ちのいー」
それを反復する。彼は何を言っているのか。
「せろこいーろのでれこ」
周りの目線が徐々にこちらへ向けられる。
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
おい、石神。彼ははっきりとこういった。
「いのちーをとじろー」
*
「どうした?どうしたんだ石神」
疑問を投げかけたのは猪塚であった。
ようやく正気を取り戻した石神は大きな息を吐く。
ハッと飛び起きて平然と、
「何かあったんですか?」ととう。
一同唖然。
「変なことを言っていた」
と仲間内である東山が言った。
「変なこと?」
首をかしげる石神は記憶を失っていたようだ。
「命を閉じろって言ってました」
最年少の崎原が言う。確かにそれを聞いていた。
「命を閉じる」
猪塚がそれに気が付いた。
「おい、蛙くん」
横目で見たそれはパソコンの表示だった。
「何ですかねこれ」
白くフリーズしているようなその場面は、
どこかの町のどこかの家が映し出されていた。
「どこだ?とりあえず写真写真」
猪塚が催促する。
「エラーですかね」石神がつぶやく
私は鳥肌が立つほど慄いた。
暗くなった画面上に②と表示されている。
これで①から⑤がそろってしまった。
それと同時にその映像を見てしまったという後悔が
臓物を煮るかの如くその恐ろしさにやられた。
今現在この部屋にいる人間は六人。
私をはじめ石神と、猪塚。その他に東山、
崎原、ちょうど喫煙室から出てきた大村が
それの目撃者、餌食となった。
「全員死ぬんですか?」焦りだす大村、
動けずに立ち尽くす一同。
「ということは、⑤までということですよね、ねえ」
正気を保たせるには時間を要するようだ。
「次があるとしたら」
ショートしているような画面が続いたのち、
やがて画面に映された砂嵐は勢いを失った。
失ったというよりかは、途切れた。
「ん?なんですかね」
疑問を画面に投げかける。
やがて褐色になる画面。それは幾たびか色を変え、
やがてモノクロからカラーになった。
画面に一人の男が現れる。
「こいつは」息を漏らすように猪塚が言う。
「ついに現れたか、増沢弘嗣」
美麗と4人掛けのテーブルに並んで座り、
織本彌勒を待った。
しばらくするとマネージャー『𠮷岡』
とともに彼が訪れた。飲み物を頼む。
「お待たせいたしました」と𠮷岡の後に、
初めまして織本彌勒です」と立ち上がる
私たちに握手を求めた。その手を交し合い、
一斉に座った。
「美麗さんも久しぶりですね」
「はい、以前イベントでお会いしたぶりですよね」
私はその間に𠮷岡と目を合わせ軽く会釈した。
そのあとに織本の目はこちらに向いた。
「よく見てますよ、あの動く人形の映像、
怖すぎて何回も見ました。あれ、
作りものじゃないですよね」と彼は笑う。
私は首を振って違いますよと言った。
「いやいや、本当に疑ってしまうほどの映像でした。
そういうものとても好きなんですよ」
「私もです、怪奇的なこと、大好物です」
何故か褒められたように感じて私は
ありがとうございますと言った。
頼んだ飲み物が届き、私たちは乾杯の音頭をとる。
織本を筆頭に乾杯と。
「それで本題です。増沢弘嗣について」
彼のその一声で場の雰囲気が変わった。
「一から話してもいいですか?」
彼が私の目を見て問いかけた。頷く。
「自分が彼と出会ったのはとある短編映画の
企画でした。それもインスタのDMで彼からの
コンタクトが来ました。映画を撮りたいから
出てくれないか?って。その当時は仕事を
選べる立場でもなかったので、快くお受けしました。
それがですね。彼と喫茶店で談笑している姿を
撮るだけでいいっていうんです。
それに映像を重ねるって。まあ、
力入れた演技なんてしなくてもいいので、
軽い気持ちで受けたんですよね。それもそのはず、
彼がなくなってこのテープの在処が
分からなかったので気になっていたんです。
親族や彼の知り合いが遺品整理に訪れた際、
こんなものが見つかったんです」
「それは、どんなものですか?」
「人を呪う映画をこの世のどこかに残した、
そういった旨の遺書です」
私は彼に思わず口を開いた。
「彼はどんな恨みを持っていたのでしょう」
思い当たる節、と彼は思ったのであろう。
彼はこういった。
「見てみます?彼の遺書」
咄嗟の発言に戸惑いを覚えた。
「え、あるんですか?」と美麗は言う。
「ありますよ」淡々と織本は言った。
その拍子に𠮷岡の身体が彼の持つ鞄の方へ動いた。
何かを取り出した。おそらく遺書だ。
彼がそっと手をさし伸ばす。
くしゃくしゃな状態の布切れのような
紙の中にはこんな言葉の羅列が並べられていた。
私の最後の作品を
目にしたものは死に至る。
必ず、必ず。
*
「なんですかこれ」
美麗が慄く。私も同じように言葉にならない
言葉を出す。怨念のこもったそれは
確かに私たちを刺激した。
「本当に彼はこんなことを?」
「親族からお借りしました。家族と言えど、
これを持っているのは怖いと」
「確かに怖いですね」
もうすでに四人亡くなっている。
「それでいうとほかの皆様は」
彼は再び疑問を抱く。
「動画ってあったりしますか?ほかの」
「それが」
「それが?」
美麗がかき消すようにこんなことを言った。
「実は何らかのつながりがあるんじゃないですか?」
「というと?」𠮷岡が問う。
「例えばですよ、通っていた学校が一緒とか」
「要するに関わりが少しでもあるということですよね」織本は言う。
私は織本に聞いた。昨晩体験した、
というよりも近頃体験し続ける不可解な死について。
「お知り合いにヨガ教室を
やってらっしゃる方はいらっしゃいました?」
織本は少し考えた。
「あ、橋元久美ですかね。はい、知ってます」
まさか。
「どういうご関係ですか」
彼はすぐに答えた。
「知り合いです」
知り合い、まさかの返答に驚く。
「それじゃ、石神も知ってますか?」
「石神というと石神健司ですか」
石神だ、石神で間違いない。
「自分の本名、掛川慎太郎といいます、
もしかしてオカルト怪異譚にいるんですか」
「そうです。一緒に行動することが多いんです」
「ああ、やっぱり。僕も動画で拝見した時に
気づかかなかったな」
「石神に明日会うので詳しく聞いてみます」
あ、と織本は声を漏らす。
「増沢についてもう一つ思い出したことがありました」
「というと」
「俺には未来が見えると」
突発的な彼の言葉に戸惑いを覚える。
「なんていうんでしょうか、
呪いを極めたとか言ってましたね、
冗談かよと思いましたけど。
小学校の頃から言ってましたね。
早めの中二病かななんて思ったんですけど。
昔から変な奴でした」
彼は鼻で笑うように言う。
「小学校からの知り合いなんですか?」
はい、と彼が言う。
「いや、んまあそういってもいいんですかね。
他の人はどうかなとは思うんですけど」
「それはどういったことですか?」
「ひみつきちです」
その場に現れたのは沈黙だった。
「ひみつきち?」
美麗が言った。続くように私も頷いた。
「地元が一緒なんです。白カバ公園、
名前は存じ上げないんですが、
そこに少し空間が開いた茂みがあるんです。
子供が何人か入れるくらいの」
「よくある話ですよね」と𠮷岡が言う。
「私も小さいころよく遊びましたね、
そういったところで」
私はうん十年前のことを思い返した。
静かに彼は言った。
「地元は一緒ですけど、小学校が違うんです」
「小学校が違う?」
「はい、僕は南小出身で、増沢が西小学校出身です。
他の人がどうかは分からないんですけど」
「全員が一緒ではないんですね」と美麗は言う。
「同い年ではありますけど」
「全員が関わりを持っているわけではない?」
*
時間が過ぎていく。気が付けば日付を越していた。
掃けるように店から出ると溺れるように
玄関で眠りについていた。
翌日、早速石神に昨夜のことを問うた。
「ようやく気が付いてくれたんですね、掛川君」
彼はそこかしこに喜びを散らばせる
「そう、彼も会いたがってたよ」
「ほんとうですか?これと言って
関わりはないんですけど。
やっぱり、本名じゃないとわからないもんですね」
うむうむと頷いた。
「彼の身に危険は」
「とりあえずは大丈夫だそうだ」
「良かった」
石神が不自然なタイミングで咳払いをした。
それと並走するように鼻歌を歌い始めた。
不自然である。
「ろじとーを、ちのいー」
まるで何かにとりつかれているかのようだ」
「せろこいーろのでれこ」
「ろじとーを、ちのいー」
それを反復する。彼は何を言っているのか。
「せろこいーろのでれこ」
周りの目線が徐々にこちらへ向けられる。
「ろじとーを、ちのいー」
「ろじとーを、ちのいー」
おい、石神。彼ははっきりとこういった。
「いのちーをとじろー」
*
「どうした?どうしたんだ石神」
疑問を投げかけたのは猪塚であった。
ようやく正気を取り戻した石神は大きな息を吐く。
ハッと飛び起きて平然と、
「何かあったんですか?」ととう。
一同唖然。
「変なことを言っていた」
と仲間内である東山が言った。
「変なこと?」
首をかしげる石神は記憶を失っていたようだ。
「命を閉じろって言ってました」
最年少の崎原が言う。確かにそれを聞いていた。
「命を閉じる」
猪塚がそれに気が付いた。
「おい、蛙くん」
横目で見たそれはパソコンの表示だった。
「何ですかねこれ」
白くフリーズしているようなその場面は、
どこかの町のどこかの家が映し出されていた。
「どこだ?とりあえず写真写真」
猪塚が催促する。
「エラーですかね」石神がつぶやく
私は鳥肌が立つほど慄いた。
暗くなった画面上に②と表示されている。
これで①から⑤がそろってしまった。
それと同時にその映像を見てしまったという後悔が
臓物を煮るかの如くその恐ろしさにやられた。
今現在この部屋にいる人間は六人。
私をはじめ石神と、猪塚。その他に東山、
崎原、ちょうど喫煙室から出てきた大村が
それの目撃者、餌食となった。
「全員死ぬんですか?」焦りだす大村、
動けずに立ち尽くす一同。
「ということは、⑤までということですよね、ねえ」
正気を保たせるには時間を要するようだ。
「次があるとしたら」
ショートしているような画面が続いたのち、
やがて画面に映された砂嵐は勢いを失った。
失ったというよりかは、途切れた。
「ん?なんですかね」
疑問を画面に投げかける。
やがて褐色になる画面。それは幾たびか色を変え、
やがてモノクロからカラーになった。
画面に一人の男が現れる。
「こいつは」息を漏らすように猪塚が言う。
「ついに現れたか、増沢弘嗣」

