赤い服の女 #1

 あれから数日が経過してもなお、
食欲は相変わらず起きずにいた。
彼の死因はまたも自殺で片付けられ、
第一発見者としてたくさんの質問を投げられた。
勿論の如く、我々にも容疑をかけられた。
何とか切り抜けて仕事に戻る。
 何をするにもあの景色、
彼の死に顔を思い起こし、吐き気を催している。
 やはり、呪いであるのか。呪いでないと
片付けられないほど、それと裏腹、
信憑性に満ちてきたのだ。
「大丈夫か」と声をかけてきたのは猪塚である。
それを気遣うように彼は缶コーヒーを差し出した。
遠慮しようにも気力がなかった為、礼を言った。
「感慨深い事件だったな」言葉を探る。
 追いやられた結果、すいませんと声を漏らす。
「少し仕事休んでもいいぞ?」
 彼の提案には乗れなかった。
 私が第一に考えていたことは、
これを記事に書いてもいいかということ。
 それを彼に投げかけた。
「それはいいんじゃねえの?俺たちのことが
好きで教えてくれたんだろ?形にするべきだと思うよ」
 私は頷いた。早速仕事に戻ろうとする。
何故なら投稿者がこの世から
消えているかもしれないという疑念を抱いたからだ。
「石神君は明日から来れるって」
 彼は自殺現場の衝撃のあまり
二日間仕事に来ていない。
再び送られてきた音声データを確認する。
以前絞ったものからそれを選んだ。
やはり東京都から送られてきたものを選んで。
他の多くはコンタクトを取って、いくつか作り話、
 所謂面白半分で送られてきたものが出てきた。
無事であるなら連絡を返してくださいと連絡を促した。本物であるのはこの二つではないかと。
そのうちの一つを見る。ひとりでに
パソコンの前に座る。
そうして気になる音声ファイルをクリックした。

 
  赤い服の女.m4a

えぇ、こんにちは。僕は武蔵野市に住む
ユーチューバーのJencyといいます。 
登録者数は20万人です。細やかながら
ユーチューバーをやらせてもらってます。
同業者として偶然お見かけしたので
連絡させてもらいました。
 私は普段、商品紹介や実験などを動画で
記録しており、THEユーチューバーって感じです。
そんな中ですね、表示されたんです。
しばらくお待ちくださいって。
 検索したのが確か、科学的要素のあることを
検索したんです。動画のための
下準備として練っていました。
 その時404エラーが表示されて、
すぐに戻るボタンを押そうとしたんです。
その前にしばらくお待ちくださいと表示されました。
 サイトが表示されるのかなと思いましたら、
急に真っ暗になって、喫茶店の映像が
流れ始めたんです。そんな古くない映像でした。
それで目に入ったんです。向かい側に座っている彼。
俳優の織本彌勒くんだったんです。
結構有名な俳優さんじゃないですか。
そういったWebCMかなんかだと思いました。
 何かを話しているんです。会話の内容は
忘れちゃったんですけど。そこで、
彼の後ろに赤いワンピースの女が現れました。
 恐ろしい風貌でした。リングシリーズの
貞子のように目を長い髪で隠し、
その場にただいるだけって感じなんですよ。
 浮いているような、呆然と立っているような。
それに気が付いてないんですよ。彌勒くんは。
そのまま画面は真っ暗になっていました。
フリーズされたようにパソコンは再起動を始めました。動画作成の途中でしたので、
まっさらになってしまいましたけどね。
 あと画面が暗くなった後に④と表示されてました。
 とにかく、あの赤い服の女の映像は
何だったのでしょう。調査よろしくお願いします!

Jencyと呼ばれる彼からの連絡は以上であった。様々な憶測がたてられる。もしかしたら
映像制作会社のキャンペーンである可能性が出てきた。安心するように肩をなでおろす。
そこで私は織本彌勒の動画をYouTubeで
検索をかける。それにしても彼の動画は多く、
探すのにも億劫になった。
追加の文字『カフェ』『心霊』という
文字を足してもなおその動画は見つからなかった。
興味本位で彼のWikipediaを開く。
彼の出演している作品の中に心霊系のものが
あるとするならばそれで解決する。
それらしきものをふたつメモに残す。


 ・呪いの木箱~禍の連鎖~
 ・心霊病棟


 思ったよりもすぐに解決するのではないかと
私は錯覚した。その二本の作品を近場の
レンタルショップで借りて確認することを計画だて、
ひとまずこの事件に関する謎を追求する。
 とりあえず連絡元のJencyにコンタクトを
取ろうと、彼を知るためにSNSアカウントで
彼の素性を知ろうとする。
 彼は頻繁に些細なものから動画の投稿まで
頻繁にSNSを活用していた。
 まず目に入ったのは、
今日の21時から何らかの形でライブ配信を
行うということだった。
彼を知るためにそれを見ようと思った。
 彼はやはり頻繁に更新するので、
メールのコンタクトは翌日でいいと後回しにした。
 彼のYouTubeの動画も何件か拝見した。
 それは初期YouTubeを連想するような
メントスコーラ実験や、
どちらかというと大人向けよりも
子供向けの内容だった。
 面白おかしく、時に科学を活用した
実験も多くあった。その中では我々にも通用する、
心霊関係のものも少なからずあった。



【科学的に霊がいるのか検証してみた】

【霊の声が聴ける?科学的に証明してみた】

【霊界通信!?
電波と霊の関わりって知ってる??】

 自宅に戻ってからこれらの動画を
確認しようと考えた。定時になり、
作業が落ち着いたこともあり
猪塚に「帰ります」と告げ、職場を出る。
猪塚の目は心配しているようにも見えた。

 最寄り駅のレンタルビデオショップで
織本彌勒の作品を探した。
建物の大きさでは考えられないほど
多くの作品があり、探し終えるのに時間を要した。
ようやく見つかったと思えば、
店に入って40分経過した頃であった。
 店を出るタイミングで一人の女性に声をかけられた。 
「あの」咄嗟に振り替える。
バケットハットをかぶる高身長の女性。
「なんでしょう」
「井の中 蛙さんですよね」
 彼女は私の顔を覗き込むように見た。
「私、動画拝見しています」
 私にもこういったファンがいるのかと喜んだ。
ありがとうございますという。
「先日の募集されていたあれ、どうですか?」
 彼女はSNSも拝見しているようだ。
 あれというのは謎のページの事であるのか。
 そうであれば話が早い。それにしても説明しがたい。
「私、芸能事務所で働いてまして」 
 その言葉に驚いた。彼女は華奢で端麗な
薄型をしている。モデルか?彼女はハットを外した。
「申し遅れました。私。モデルという職で
何とかやっています。美麗と申します」
 通りで見たことがあると思った。
気が付いた後にあぁ、と声を漏らす。
「私、ああいったオカルトのものが好きで
よく見させてもらってるんですよ」
「ありがとうございます」
「よろしかったら今度、
一緒にお仕事できたらいいなと思ってます」
 私は是非是非と頷いた。
「何かご協力できることがございましたら」
 偶然が呼んだ奇跡だ。私は生唾を呑み彼女に言った。
「織本彌勒くんとコンタクトを取りたくて」
 彼女は苦渋の表情を浮かべた後に、
頑張ってみますという。お願いしますと頭を下げる。
「また進展が在りましたらDMで連絡しますね」
彼女は笑みを浮かべる。彼女の後姿を見送った後に
自宅へ戻る。20時前という如何にも微妙な
時間帯であったため、
コンビニで買った夕食を食べながら、
倍速で織本の出演する呪いの木箱~禍の連鎖~を
倍速で流し見をした。そんな中でも連想させるシーンは一向に見つからなかった。
 先ほどのモデル美麗からもDMで挨拶の連絡が来た。ご飯を食べながら返信を打つ。
 
 もうじき21時になる。Jencyのライブ配信が
始まる。一通りの家事をこなした後に仕事椅子に
腰かける。しばしの間、目を瞑った。
長時間動画を眺めていた疲れもあり、
目を休めるように目を瞑る。彼のライブ配信が始まる。彼のアカウントへ飛ぶ。
 ライブ配信が行われているサイトに切り替わると、
動画で拝見している溌溂とした彼が映っていた。 
自撮りのようなスタイルで、
彼は自分のカメラに映る姿を念入りに確認している。




 【Jencyのライブ配信】

 ええ、始まりました。いつもの奴やる?
(咳払い)ようこそJencyの世界へ。
 今日も行ってみましょう!
ワウワウワウゥ!
(開き直るように)初見さんは驚くでしょう。
これは挨拶です。ブンブンハローみたいなもんです。あ、これ怒られちゃいそうだな(笑)
まあ気を取り直してやってみましょう。
最近寒くなってきましたね
(彼は横に流れる視聴者からのコメントを読む)
え、もう雪降ってんの?早いですね。
最近地球温暖化やばくないですか?
本当に氷河期が来ちゃいそうだよね。
(画面手前のグラスを持ち、それを呑む)
(コメントを見て)まあ沖縄はまだか(少し微笑む)
そしたらね、早速やってみましょう。
インスタグラムのストーリーでね募集しました質問を
答えていきたいと思います。 
本当にね多くの質問ありがとうございました。
丁寧に一つずつ答えていきたいと思いますよね。
まあ答えられる範囲だけど。
(スマートフォンを持つ)ええ、
『好きな食べ物は何ですか』
これね本当毎回入ってるからから恒例にしようよ。
だってね、陽によるでしょみんなも。
ね、まず最初に答えていこうよ。
きょうはね、きょうはカレーの気分。
まあカレーにもいろんな種類あるからな。
きょうは日本のカレーよりもインドカレーかな。
ナンがついてるやつ。
あれにラッシーがあったら最高よね。
ラッシー大好きだもん。
そんな感じで軽く答えていきますんで、
ゆっくりしてってね。
『彼女はいませんか?』これもね聞かれんの。
 これはさ、曖昧にするじゃんみんな。
俺は言うよ。いるよ彼女。
(コメント欄が荒れる様子を見る)
いやいやそんな炎上レベル?
いやいや人間だもん仕方ないよ。
 まあまあそんなこと言わないでよ。
 お、チップありがとうございます。
ワウワウワウゥ!
ね、慣れてくれたら普通になりますんで。
でもね、みんなが同じ立場になってみ、
恋愛もできなくなるのはちょっと嫌でしょ?
はい、次『仲がいいユーチューバ―は誰ですか?』
これね、一番仲がいいのはシシガシラTVの
毛利君だね。
あとはメルヘンブラザーズのケイくんかな。
そんな仲いい人がいないんだよね。
次、『最近起きた怖い話を教えてください』怖い話ね、なんかあるかな。あ、あった。そう、三日前くらいに
不思議な体験したの。
(手元のリモコンで電気を暗くする)雰囲気出てきたね。おれ、そう大学入るまで雰囲気の事、
"ふいんき"って言ってた(笑)
そうそう、その話ね、いつものようにパソコンで
作業してたの。(パソコンを使う素振り)そんで
調べ物をしようとあるサイトに飛んだら
しばらくお待ちくださいって表示されて、
喫茶店の場面に変わるのよ。
そしたら俳優の織本彌勒くんが映ってね、
その後ろに赤い服の女が映ってる。
それもじっと立っているだけ。気味悪いよね。
怖すぎる。
(コメントを見る)怖いっしょ、これ本当の話で、
いまオカルトの雑誌の人に調査してもらってるんだ。
怖すぎっしょ。マジで嫌になるよ。誰かいない?
情報お持ちの方。いたらマジで連絡してほしい。
困ってるのよ。
(電子音が鳴る)あ、ごめんお風呂沸いちゃった。
(彼が立ち上がると同時に何かが映る。
 赤い何か(布のようなもの)が彼の太もも辺りに)
ちょっと待ってね。
(彼の姿が画面から消えると姿があらわになった。
赤い服の女がいる。その姿はゆっくりと 
画面の右外に消えていく)
(物音もなく声もなく、ただひたすらに無音が続く。
一分が経過した、二分が経過した)
(その突如、ぐぎっと何かが折れる音がして
何かが倒れる音がした。配信はまだ続く。


 気が付けば椅子から立ち上がっている。
どうすることもできずに今やるべきことを探した。
あ、彼女だ。美麗なら顔も広い。
彼の家を特定することが出来るかもしれない。
 彼女のDMを開き、こう打ち込んだ。

 夜分遅くに失礼いたします。
 ユーチューバーのJencyさんの
ライブ配信見ましたか?彼もしかすると
亡くなっているかもしれないので、
どなたか知り合いで彼のことを知る方はいませんか?
返信お願いします。

 ものの数分で彼女からの連絡が来た。

 お疲れ様です。私も配信を見ていました。
X(Twitter)でもトレンドになってます。
そうですね。知り合いにユーチューバーは
数人いるんですけど彼の住所まではちょっと。
 投稿している皆さんの意見が割れていることも
驚きました。赤い服の女が、見える人と見えない人で
分かれているんですよ。本当に不思議です。
私でよければいつでも連絡してください。
多分こっちのほうが円滑に連絡しあえるので
LINEのID置いときますね。
             @mileee09

彼女の姿勢は目を見張るものがあった。
 私は即座に彼女がくれたLINEのIDを友達追加の
場面に入力する。そこにはmireiの文字。
 彼女に挨拶のLINEを送った。
もしかするとやはり呪いの仕業であるのか。

 ご無沙汰してます。
LINE追加させていただきました井の中 蛙です。 21:28

 蛙さん、美麗です。なんと進展がありました。
知り合いで彼の住所を知ってる人がいました。
もうすでに警察が動いているはずだとは思いますが、
緊急事態なので住所を添付させてもらいます。http://mansionueuronakano.co.jp
【リンク】
東京都中野区〇〇町マンションユーロポート8F 
808号室
 
 何よりも彼の命を優先するためです。
どうか、彼を救ってください   21:31

私は居てもたってもいられずに家の鍵を取り出した。それは駆け下りるようにマンションの階段を降りる。
幸い私の住む階が二階だったため、
すぐに地上にたどり着くことが出来た。
彼の住む中野坂上近辺まではおそらくに十分ほどで
着くだろう。私は駐輪場から自らの
自転車を取り出した。鍵を施錠し大きくペダルを漕ぐ。繁華街をひたすら走るのだ。
 住居侵入やその他諸々は頭に浮かばなかった。
とにかく今は、何よりも彼を救いたい。
その一心であった。 
 彼の住所近辺にたどり着いたところで、
自転車を路上駐車し、彼の住む部屋を確認するため、
スマートフォンを持ち、美麗とのトーク画面を開く。
 私は覚悟を決め階段に向かう。
エレベーターを使わなかったのは、少しの時間、
考える時間を要するためだ。二階、三階と階段を上る。
 少々息が荒くなったころには
彼の住む8階へたどり着いていた。
 彼の住む家へと迫る。こんなにも動悸がするのは
未だかつてなかった。悪いことを
しているわけではない、
しかしながら罪悪感に駆られる。どうするべきか、
悩んだ末には彼の部屋の目の前にいた。
 二回、ノックをする。夜遅い時間のため控えめに
音を鳴らした。しかしながら応答はない。
すると中から物音がする気がした。生唾を呑む。
彼は生きていた?
安心感に包まると出てきた人物は彼ではなかった。
 その表情は重たく硬い表情をしている。
 どうぞと、まるで自分の部屋かのように
部屋へと案内した。
何を思ったのか私は丸腰のまま部屋へと繰り出す。
 彼は一定時間の沈黙口を開いた。
 対するJencyは地べたで倒れている。
「何か知ってるんですか」
 私はなぜほぼ見知らぬ
彼の家に訪れたのかを説明した。
「私は彼とともに動画を制作しています。
陰ながらではありますが、
配信を見て駆け付けたんです」
 我々を埋めるように彼は倒れている。
「救急車は呼びました?」彼は呼んだと答える。
どうやら息もしていないらしい。
「あなたはなぜ?ここに」彼がこちらを向いて言う。
「私は東京オカルト怪異譚の井の中 蛙と言います」
「ああ、ライターさん」
 話が早いと少し感心した。
しかしながら次の言葉で彼はこういった。
「あなたがいれば事態は複雑になる。
のちに連絡をするのでかえっていただきたいと
彼は言った。私は彼にその場を託し、
緊張した面持ちで部屋を出た。彼の名を西原という。
 彼に念のため連絡先を渡し、
自宅に戻って美麗に連絡をした。
とはいえ遺体を見てしまったという
何とも言えない感情がまた私をかき乱す。
路駐した自転車のハンドルを掴み、中野の町を歩く。
四方からサイレンの音が聞こえてくる。
 彼は死んでいた。あの赤い服の女との関係性は
その瞬間を見ていない以上、
知りえることが出来なかった。
 その突如、私のもとに美麗からの着信があった。
もしもしとスマートフォンを近づける。
『もしもし、蛙さん。夜分遅くにすいません』 
「いえいえ、やはりJencyはなくなっていました」
『遅かったとかではなく、
彼はすでに亡くなっていたと思います』
「そこに西原という男性がいました。彼はJencyと一緒に動画を撮っていた仲間だそうです」
『はいはい、知ってます。
友人の死に際に駆け寄ることが出来て彼は幸運ですね』
 続けるように彼女は言う。
『で、ですね。先ほど連絡が来たんですよ』
「連絡というと?」
『織本君のマネージャーから。連絡とってみたんです。蛙さん、明後日って何かご予定は』
「二日後、大丈夫ですよ。どういったことですか」
『あ、本当ですか?直接、織本君が話したいって。
彼、蛙さん知ってましたよ』
「ええ、彼。好きなんですか?こういった部類の事」
『好きなんですって。私も同伴することになっちゃうんですけど。麻布十番のお店で
午後七時に待ち合わせをお願いします』
「本当ですか?急展開過ぎて、
追いつきませんがお願いします。
よく織本君受けてくれましたね」
『この一連の騒動、自分も関与しているのではないか?と彼は言ってました。その真相を追求したいと。
仕事をリスケしてまで蛙さんに会いたがってました』
「リスケしてまでですか!
自分自身も関与していると?」
『まあ、例の映像についてのことも話したいと』
『とにかく、明後日。よろしくお願いしますね。
あとでお店の住所送りますね』
「ありがとうございます」
『それじゃあ、おやすみなさい。
しっかり休んでくださいね』
「おやすみなさい」 
 通話が終わって、しばしの間呆然と歩いていた。
正面からパトカーが一台向かってくる。
そのパトカーは不自然に私の目の前で止まった。
通路をふさぐように。車両から一人の男が出てきた。
以前、GOTOの件でもあったことがある刑事だ。
「蛙さん、ですよね。すいませんがご同行を」
 私はそのまま自転車をその場に置いて、
後部座席のドアが開かれ、乗り込んだ。
「すいませんね」刑事は短絡的に私に聞いてきた。
「いえいえ」
「ここは蛙さんのままで行きましょう。
そうです、立て続けに現場で
目撃されてますので一応と」
 私はそうして訳を話した。
特に犯罪に加担していない。
私は以前と同じように全部を話したのだ。
「では、偶然重なったということですね」
「そうなんですよ、ページを開いた人物が
謎の不審死を遂げている。
そういったことで間違いないですね」
「間違いないです」
「一件目はゆりぴいという女性、
二件目は梁瀬さんという男性。
そして今回のJencyさん。
こうしてみていくと共通項は
全員武蔵野市であること、ですかね」
「もし、電波による何者かによる犯罪だとしても、
その可能性は低いと思います。
今回に関しましてはどうでしょう、赤い服の女?」
「赤い服の女?」
「ええ、ライブ配信で現れたんです。
それが見える人もいれば、見えない人もいる」
「そうしたらその、赤い服の女が犯人だと?」
 助手席に座る警察官の彼がいう。
「現場付近の監視カメラにはそのような人物は
見当たりませんでした」
「そうすると、自宅の中にいた可能性が」
「おかしいんですよでも、自分のもとに
連絡をくれた時には別の場所で女を目撃したそうです」
「別の場所?」
「サイトの中の映像です」
 私はそれからいくつかの質問に答え、
ようやく外に解放された。刑事の名は泉谷という。
 自転車を押しながらしばらく歩き続ける。
 謎が謎を呼ぶ。やはりあのサイトによるものなのか、呪いの効力は、凄まじいものなのか。
おそらく織本彌勒。彼が知っているはずだ。
彼との会話が実に有力な手掛かりかもしれない。
明後日が待ち遠しい限りである。
 これ以上の被害がないように。
この呪いを停めるように。
 そうだ、もう一枚の織本が出演する
心霊病棟の映像を確認しなければ。
自転車にまたがりペダルを漕いだ。
少しばかり遠回りをした後に自宅に戻り、
映像を確認した。
しかしながらそれは姿を見せなかった。
 美麗から店の住所を示すURLが届き、
翌朝に連絡をすることにした。
 風呂を即座に済ませ、寝床に就く準備をする。
あくびを一つして眠りについた。 

  *

 翌日、石神がようやく仕事に復帰した。
「おはようございます」と彼から
いつも以上に明るくあいさつをされたので驚いた。
「どうした?」
「ようやく気持ちが楽になりました」
 彼は頷きながら言う。私は彼に昨日の事、
昨晩のことについて説明した。
もちろん明日の織本とのことも。
「そんなことがあったんですか」
「まあ、割と大変だった」
「次はどこの誰かが狙われるんですかな」
「そんな、縁起でもない」
「とにかく早いうちに
他のも調べてみた方がいいですね」
 私たちはまた、新しい謎に踏み込むことになる。