(物音)
はじめまして、ゆりぴいと申します。
文章だけでなくもう本当に怖かったので音声として
残そうと思いました。参考ほどにお付き合いください。(椅子を引く音)私は武蔵野市で子供と夫と
三人暮らしをしています。とにかく夫は仕事が
繁忙期になってしまい、
相談することもできなかったので、
話をぜひとも聞いてください。
追われ追われて、窮地に追い込まれた時の話です。
その日は一段と息子の柊太が言うことを
聞いてくれませんでした。
そりゃあまだ一歳なので子供に非が
あるわけではないですが。
とにかくもういっぱいいっぱいだったんです。
限界を超えたというか。そうですね、
最初は普段使わないパソコンを開いて
ネトフリかなんかを見ていたんです。
映画を流し見しながら寝かしつけました。
そのあとに、思ったんです。ひたすらにひたすらに。こんな事みっともないんですけど、
検索窓に、子育て辞めたいって。
柊太は本当に何も悪くないんです。
そのあとに私は驚きました。
一番上に出てきたサイトにもかかわらず、
しばらくお待ちくださいと表示された後に
404 not foundって。
可笑しいなと思いました。だって一番上ですよ、
小学校や中学校のパソコンじゃないんですから。
それからどうも、椅子に深々と
座ってしまったこともあり、
私はふと眠りについてしまいました。
連日の疲れもありまして。
そうして三十分ほど寝ていました。
そしたらパソコンが真っ暗になっていたんです。
一見、自動で一定時間動かさないと画面が
消えてしまうのはみなさんご存じでしょうが、
そうではなかったんです。
うすらうすらそれを確認してみると、
見覚えのある広い公園がありました。
それがメッセージで書くのを忘れちゃったんですけど、自宅の近くで。しかもモノクロなんですよ。
気持ち悪いと思ってしまいました。最初はストーカー?なのかなと思いましたがそれも違う。
その直後に赤ん坊の動いている映像が流れたんです。柊太でもないんです。見ず知らずの赤ん坊が、
映像を二重重ねにしているような感じで
動いているんです。いやがらせにもほどが
あると思いました。私は言葉さえ出ませんでした。
音楽が薄ら薄ら流れているんですよ、鉄琴のような、木琴のような映像なしで聴けばかわいいと思える音
なんですが、映像と一緒だとなんだか不気味で。
鳥肌が立ちました。
しばらくすると赤ん坊が消えて、
公園の映像だけが流れていました。
黄色のシーソーが映ってましたね。
そして最後に⑤と右下に文字が出てきたんです。
何の数字なんだろうと思っていたら、ばちんと電源が切れました。本当に不気味でした。
それがトラウマでもう二度とあのサイトを
開けなくなってしまいました。
これは翌日の記憶がまだ鮮明な時に録音しています。私の話は事実です。
最後になりましたが、ありがとうございました。
育児も、より一層頑張ります。
いつもいつもありがとうございます
こうして録音は終わっていた。
しばらくの沈黙した後に石神が言う。
「すごくなんていうか複雑な気分ですね」
「割とリアルな人の声だったな」
嘘ではないことは確かだった。
「武蔵野市の公園ですね、回ってみますか」
と彼は提案する。
「それよりも」
「はい」
「まずは検索をかけてみよう」
「なんでしたっけ」
「子育て辞めたい」
私はインターネットの検索窓に
『子育て辞めたい』と打った。
エンターキーを押して検索がかかる。
「お、これか」
彼女の言っていた一番上に表示されたサイトだ。
それを開いてみる。
しかしながら結果は普通に出て来る。
いたって普通の公式サイトのまとめである。
「彼女相当思いやられていたんですかね」
「やっぱり幻覚かと?」
彼は恐る恐る頷いた。そうでなかったら
合致が付かないというか、
説の立証には至らないと思いますよ」
確かにそうだ、しかしながら記事にするにも
動画にするにも材料が足りない。
「これははっきりさせないとですね」
「もちろんそうだ、あれだったら、
彼女が近くに住んでいるかもしれない」
「そりゃそうですけど、迷惑じゃ」
「困っていたんだからきっと投稿したんだろう」
「そりゃそうですけど」
石神はパソコンであるものを調べている。「蛙さん」
「どうした?」
「武蔵野市だけで公園は290か所もあります」
そう言われるとそうだ、
一つの町にしたって公園は多い。
「あ」
「どうした?」
「シーソ―」
これだけで確かに絞ることが出来る。
いい案だと思った。何よりも彼女に感謝だと。
またもインターネットで検索し、
それらしき場所をひたすらに探した。
「広い公園って言っていたよな」
「ああ、確かに言ってました」
「それじゃあ、おそらくこのどれかだな」
メモ用紙にいくつか候補の公園を書き写した。
編集長に承諾をもらいにいった。
編集長の名前は猪塚という。
「なんだいこれは」
「以前、メールが送られてきまして」
「メール?」
「そうなんです。サイトに映った奇妙なものです。
依頼人の方から連絡が来なくなって」
「それで?」
「武蔵野近辺の公園を探りに」
ふう、と猪塚はため息のような息を漏らした。
「車を貸してほしいってことだな」
「要はそういうことです」
猪塚は軽く二回ほど頷いて
そういうことなら仕方がないと言った。
「ただし」
そのあとの言葉に備え唾をのんだ。
「必ず上回る結果を遺すこといいね?」
若干ながら停滞気味であったことを
再び身に沁みさせられた。
私はただただ俯きながら頑張りますとだけ言った。
会社の車を拝借し、新宿から武蔵野市まで走らせる。
夜は駐車が面倒であるので
早く帰ろうとまたも助手席に座るのは石神だ。
「この件、ほかの人も体験していたら割と
すごくないですか?」と石神は言う。
確かに彼女だけではなくほかの誰かが
そういった現象に巻き込まれているとすれば、
記事の幅が広がる。要は上手い話なのだ。
「ですよね。そうだ、アンケートっていうか、
募集掛けてみませんか?サイトがフリーズして
奇妙なものが出てきたとか。
そしたら結構面白いことになりますよ。ねえ」
確かにそのとおりである。しかしながら
彼女だけが言っているという話であればそれは嘘、
タイミングや出し方によって、
嘘であることが分かれば雑誌にとって
マイナスなことを起こしかねない。
「それじゃあ、彼女の件がうまく
畳み掛けたらSNSで募集をかけよう」
しばらく車を走らせて武蔵野市に入った。
あまりなじみのない町であったが、
順調に訪れることが出来た。まずは一つ目、二つ目。
シーソーがあるにもかかわらず、
人っ子一人もいない公園だ。
「ここではなさそうですね」
何をもってそうであるのかは分からないが、
違うと思ったのだ。
「ここですかね」
図づけて三件目、四件目と回っていく中で、
一人の高齢女性とコンタクトをとることが出来た。
「あなたたち、テレビの人?」
はじめに石神が答える。
「いえいえ、そんなものでは」
私はそれに続いていった。
「あることについて取材しているんです」
「あること?」
説明しがたいものであったが
短絡的にそれを説明する。
「あらそう、そんなことがあったんですね」
「なにか知っていることは」
そうね、と声を出したのちに、
身に覚えがあるような事例があると言った。
「いつもスーツで現れる人がいるね、
公園なのに休憩してるわけでもなさそうだし」
その人物はおそらく夫であろうと、
以外にもすぐに気が付くことが出来た。
「その人物は何時ごろ現れますか?」
「そうね、だいたい夕方頃だわ」
あそこ、私の家なのと彼女は指をさす。
「だから、いつも見えるのよ。
居間が公園の方向いているからね」
現在は15時、時間にしては割とすぐのタイミングで現れるだろう。しかしながら
彼が現れるという保証もなく、不安であったが、
近くの喫茶店があったので
そこで時間をつぶすことにした。
女性の力を借りて、
彼が訪れるタイミングで石神のもとへ電話が訪れる。
しばらく談笑した後に電話が来た。時刻は18時前。
犯人を待つ警察のように足早に公園まで向かう。
その場所にはスーツ姿の男性がいた。
「すいません」と声をかけた。
彼は振り返り、こちらを向く。
「あることについて調査を行っていまして」
はい、と彼は声を出す。
「失礼ですが、何故この公園に」
彼は間髪入れずに言う。
「あなたたちは」
「申し遅れました、東京オカルト怪異譚という
web雑誌のライターをしています。
井の中 蛙と申します」
「ライターさん?」
そうですと石神が言う。彼はメモを取り始めた。
「ご存じなんですか?」
と逆に男性から訊かれた。
話が早い。そのあとに出た彼の言葉に絶句した。
「妻は死にました」
「何が起きたんですか」と直球を投げかける。
「変なものを見たって言ってました」
「変なものというと」
「映像と言っていました」
あの映像なのか。
「赤ん坊の映像ですか」
びくりと反応したのがうかがえた。
「そうです、何故」
「私たちのもとに彼女からメッセージが」
「メッセージ?」
「はい、おそらく内容は一緒だと」
「パソコンのですよね」
「そうです」
「なにかご存じで」
「いや、そうですね。
関係するかはわからないんですけど彼女」
のどに詰まっているように彼は口を開いた。
「一人目を堕胎しているんです」
帰りの車内の中で石神と会話をまとめる。
「ということは水子の霊が映っているってことですか」
「その可能性がある」極めて危険な状況だ。
「これまとめ上げていいんですかね」
私は微かな希望を見出した。
大きな題材になるかもしれない。
そう考えていたのが間違いだった。
例の一件、赤子の霊が映るあの映像のことについて
私たちは簡潔に説明する動画を撮った。
その反響はかなりのもので
多くのコメントが寄せられている。
彼女の夫からその夜、こんなメールが訪れた。
宛先:Tokyooccultclub@icrowd.com
Cc/Bcc 差出人:dhfdhf@icrowd.com
件名:取材の件に関しまして
妻の死の真相にようやく答えを見出せそうで。どうか、謎を解き明かしてください。よろしくお願いします。
【速報】
JR武蔵野駅のロータリーで女性がいなくなった、
という事例が目撃される。
情報協力をお願いしたい。

