事の発端は東京都に構える我々の事務所、
『東京オカルト怪異譚』宛に
送られてきたあるメッセージであった。
都内に住む女性からのものである。

 東京オカルト怪異譚の皆様、
いつも動画拝見させてもらってます。
池の近くの祠の動画、怖すぎて何度も見返しています。
 ところで本題ですが、私の見た
とあるサイトについて調査を依頼したく、
メッセージを送らせていただきました。
 私は二か月前に念願の息子が誕生しました。
それはそれは喜ばしく、大変ではありますが、
育児の最中の息抜きとして、動画を見たりしています。
 育児のことについて知りたいことがあって
パソコンを使い、とあるサイトにアクセスしました。
 すると表示されたのは404エラーの文字。
育児の疲れもあり、私はしばらく
そのページのままその場で昼寝をしていました。
 すると画面が暗くなり、真っ暗な画面に
モノクロの映像で子供たちのはしゃぐ声がしたんです。私の息子はその時、眠っていました。
 ぶれたような映像は、
無人の遊具を映しているのです。
夜ではなかったと思います。
 その次の場面で、私はおかしいと、鳥肌が立ちました。知らない男の子が映っているんです。
男の子と言っても生後一年にも満たないような子が。
それも遊具で遊んでいるのではなく、
別撮りで撮った映像のように、こうなんて言うか
飛び出しているような印象を覚えました。
とにかく気味が悪かったです。
 そうこうしていると画面はフリーズするかの如く
再起動を始めました。なんだったのでしょう。
 最後になりますが、
これからも動画配信楽しみにしてます。
           東京都・ゆりぴい     

 
 このメールを発端に、
新しい動画制作を後回しにするほど、
興味を持ったのだ。
 私の名は
井の中 蛙というペンネームを使うライターだ。
主にオカルトと言われる怪異や怪談について
Web雑誌をまとめている。昨年に比べれば
売り上げは好調でいい風が吹いていた。
もっといい話題を、流行に乗っかった
最適なものをと考えていた最中の事だった。
 同じくライターの石神がそのことについて
言及したのは割と最近の事だった。

「先月の、サイトの件。 面白いですよねあの題材」
 彼は私の二個下の後輩である。
「蛙さんは、あれ、本当だと思います?」 
「俺は本当だと思うよ」
「どうして?」
「要は育児に疲れている
彼女の幻覚だと思うんだ」   
 石神はまあ、確かにと頷いた。
対する石神は否定的意見を述べた。
「この前の廃墟の物音の原因も野良猫の住処でしたり、心霊スポットもホームレスが住んでただけでしたし、
最近視聴者のメールは当てになんないんですよ」  
 私たちはweb雑誌を連載する傍ら、
心霊スポットを巡る動画配信等も行っている。
そのおかげか知名度は右肩上がりであり、
視聴者と呼ばれるファンも増えてきたのは事実だ。
「嘘は書きたくないしね」と蛙は言う。 
「そう、その通りなんですよ、何よりもリアリティ、
それが欲しいんですよ」
 もちろん私もそう思う、だが事実であると
知るのは文字上だけでなく現場に訪れて
ようやく知りえることが出来るのだ。
「蛙さんしかいないですよやっぱり、
ほかのライターは嘘でも何でも書くべきだって
いうんですよ、まったく信じられないですよね」
 私は話を変えるように彼に聞いた。
「その方とは連絡は」
「いえ、取ってないです」
「近況というか、詳細を聞いてみたい」
 彼は笑みを浮かべ小さなガッツポーズをした。
「編集長に聞いて動き始めましょう」
 彼はやる気に満ち溢れていた。早速承諾を得て、
彼が送り相手である女性に連絡をした。
 
 次の日も、また次の日も彼女からの応答はなかった。不思議なことにSNS上のやり取りで彼女の投稿は
ぴたりと止まっているようだ。
 かなり頻繁に育児の悩みや愚痴を
零していたにも関わらず不自然に投稿は止まっていた。
「なんか本当に怪しいですよね」
「育児で疲れているんだろう、仕方がない」
 そのあとに彼はこんなことを言った。
「仮に、仮にですよ。それが呪いであって効力が
強すぎるあまりに彼女が死んでしまったということは」
 そんなことありえるわけがないと思った。
「だってそうでしょ、不自然なんだもの」
「そんな不謹慎な。呪いなんて」
 彼は身を乗り出して言う。
「だって、そうでしょ。あまりにも」
 その言葉をのどに詰まらせて彼は言った。
「現に呪いはいくつもありますよ、
実在する陰陽道とか呪物とか、そりゃ創作物ですけど、呪いのビデオとかいろいろあるじゃないですか。
その一部だと僕は思います」
 彼は決死の表情を浮かべて言ってきた。
「まだ返信は」
「来てないです」
 凡そいつかが経過したときのことである。
彼女からの連絡がより一層遠くに
見えていたころのことである。
「ねえ蛙さん」
 駆け寄るように彼はやってきた。「どうした」
「これ見てくださいよ」
 以前送られたメッセージである。
「前のメッセージ?」
「そうなんですけどそうじゃないんです、
ここ見てください」彼が指をさした場所に
音源ファイルがあった。
「音源ファイル?」
 うんうんと彼は頷く。
「そうなんですよ、完全に見落としていました」
確かに分かりずらい場所にそれはあった。
 彼はイヤフォンのステレオミニジャックを
パソコンの端子に挿入する。
「おそらく彼女は見たものを音声として
残そうとしていたんです」
「音声として?」
「その方が手っ取り早いじゃないですか?まあ、
これで何かがわかるはずです」
 準備は万端と私の目を見る彼。
それに続くようにイヤホンを片耳、L側を耳にはめた。
「それじゃあ行きますよ」
 と彼の言葉を聞いた後にこんな内容の
音声が残されていた。