【やべえ、話題のアレ、見ちまったよ】
【映画館でも流れるなんて絶望だ。
不可避だろ】
【やべやべやべえwwマジであかんやつ】
【何だっけ、ろじとー?】
【ちのいー?変なのw】
【これって本当に現実なの?
お姉ちゃんの彼氏も自殺したし】
*
「ですから無関係ですって。何にも知らないんですよ。そのことについては一切関わりがないんですよ」
「ですが、ここに東京オカルト倶楽部って」
「私は知りません」
「人が死んでいるんです」
「ですが」
「井の中 蛙」
「知りません」
「本当に?」
「ええ」
「嘘をついてませんか?」
「井の中 蛙なんて知りません」
「何も知らないんですね?」
「それは映画の中の話だろ?」
*
「今です、今姿を現しました、あれが、
増沢博嗣でしょうか、カメラ、カメラを
あちらに向けることはできますか。
彼です。彼が現れました。あの台詞を唱えています。あ、人が落ちました。(ばちんという音)
無事なんでしょうか。今、この東京で、
何が起きているんでしょうか。
今、今何者かがこのビルの上から彼に
話しかけています。何を話しかけているんでしょうか。カメラ、寄れますか」
*
思い出した。あの目、憎たらしい、
憎い憎い憎い、お前に。お前に殺されたんだ。
ああ、ろじとー、ちのいー。ほら、ろじとー、
ちのいー。効かない。効かないだと。
そんなことあり得るわけがない。そんなわけが無い。
巫山戯るな。
ろじとー、ちのいー。
まさかこんな場所で、彼は一歩、足を踏み出した。
絶対に、ここで終わらせる。必ず、終わらせる。
いやだ、いやだ、思い出したく無い。
場所も違うはずなのに、何でこんなに鮮明に。
声だ声が聞こえてくる。母だ、母上の声がする。
相之助、相之助。その声だけがその場を蹂躙する。
確かにその男の姿を捉えた。殺してやる。殺してやる。もしも、私が先に死すなら呪い殺してやる。
私の骨に怨念を込めて。そうだ。ただただ呪うんだ。
呪いだ。やめろ、やめろ、うるせえ、邪魔すんな。
どうしてもその記憶が過ぎる。
遠ざかっていたものが鮮明に。やめろ、やめろやめろ。
両の目から涙が溢れる。ただただ溢れる。
それはやがて限界値を超えた。ぽたりぽたりと
溢れんばかりの其れが私を憂う。
彼の姿が蜃気楼のように映された。その記憶を、
あの場所へ、あの場所へ飛ばせ。そして報い、
私を生かせ。邪魔をするな、ほら、邪魔をするな。
その記憶を思い起こさせるな。
【菊、お鈴、十朗。おい目を覚ませ、なんとかなる。
俺らは、生きるんだ。こんなところで
くたばってたまるか。あいつと目が合う。
鞘をこさえ、妙な笑い声を上げる。
高笑いのような蔑むような声。泣くな、皆。
まだ諦め無い。縛られた腕を見る。そして踠く、
足掻く。一人の家来がこちらに寄る。
先の尖る槍を私の身体に向けた。まさかまさか。
騒ぐのではない。その刃は私の身体を貫いた。
痛みと同時に憤りが私の身体を包んだ。
その他に二度ほど痛みを感じられた。
同じような痛みである。その彼の目を見た。
現実と過去がただ交錯する。ただただ交錯する。
あいつだ。あいつだ。瓜二つの彼だ。名前を確か、
こう呼んだ。淀川啓介。別の名称は井の中、蛙。
眼下の景色に戻る。憎い、憎い相手が目の前にいる。目の前にいるこいつが私を埋めた。
「今度こそは」何を言ってる、何を言っているんだ。
「今度こそは、今度こそは」
うるさいうるさいうるさい。黙れ黙れ黙れ。
「今度こそは救いたい」
私は満ち溢れた光に包まれ。くそ、まだだまだだ。
それまで耐えられるか、耐えるんだ。
再び意識が朦朧とする。その記憶、記憶。
「そんなことは、させない」
【映画館でも流れるなんて絶望だ。
不可避だろ】
【やべやべやべえwwマジであかんやつ】
【何だっけ、ろじとー?】
【ちのいー?変なのw】
【これって本当に現実なの?
お姉ちゃんの彼氏も自殺したし】
*
「ですから無関係ですって。何にも知らないんですよ。そのことについては一切関わりがないんですよ」
「ですが、ここに東京オカルト倶楽部って」
「私は知りません」
「人が死んでいるんです」
「ですが」
「井の中 蛙」
「知りません」
「本当に?」
「ええ」
「嘘をついてませんか?」
「井の中 蛙なんて知りません」
「何も知らないんですね?」
「それは映画の中の話だろ?」
*
「今です、今姿を現しました、あれが、
増沢博嗣でしょうか、カメラ、カメラを
あちらに向けることはできますか。
彼です。彼が現れました。あの台詞を唱えています。あ、人が落ちました。(ばちんという音)
無事なんでしょうか。今、この東京で、
何が起きているんでしょうか。
今、今何者かがこのビルの上から彼に
話しかけています。何を話しかけているんでしょうか。カメラ、寄れますか」
*
思い出した。あの目、憎たらしい、
憎い憎い憎い、お前に。お前に殺されたんだ。
ああ、ろじとー、ちのいー。ほら、ろじとー、
ちのいー。効かない。効かないだと。
そんなことあり得るわけがない。そんなわけが無い。
巫山戯るな。
ろじとー、ちのいー。
まさかこんな場所で、彼は一歩、足を踏み出した。
絶対に、ここで終わらせる。必ず、終わらせる。
いやだ、いやだ、思い出したく無い。
場所も違うはずなのに、何でこんなに鮮明に。
声だ声が聞こえてくる。母だ、母上の声がする。
相之助、相之助。その声だけがその場を蹂躙する。
確かにその男の姿を捉えた。殺してやる。殺してやる。もしも、私が先に死すなら呪い殺してやる。
私の骨に怨念を込めて。そうだ。ただただ呪うんだ。
呪いだ。やめろ、やめろ、うるせえ、邪魔すんな。
どうしてもその記憶が過ぎる。
遠ざかっていたものが鮮明に。やめろ、やめろやめろ。
両の目から涙が溢れる。ただただ溢れる。
それはやがて限界値を超えた。ぽたりぽたりと
溢れんばかりの其れが私を憂う。
彼の姿が蜃気楼のように映された。その記憶を、
あの場所へ、あの場所へ飛ばせ。そして報い、
私を生かせ。邪魔をするな、ほら、邪魔をするな。
その記憶を思い起こさせるな。
【菊、お鈴、十朗。おい目を覚ませ、なんとかなる。
俺らは、生きるんだ。こんなところで
くたばってたまるか。あいつと目が合う。
鞘をこさえ、妙な笑い声を上げる。
高笑いのような蔑むような声。泣くな、皆。
まだ諦め無い。縛られた腕を見る。そして踠く、
足掻く。一人の家来がこちらに寄る。
先の尖る槍を私の身体に向けた。まさかまさか。
騒ぐのではない。その刃は私の身体を貫いた。
痛みと同時に憤りが私の身体を包んだ。
その他に二度ほど痛みを感じられた。
同じような痛みである。その彼の目を見た。
現実と過去がただ交錯する。ただただ交錯する。
あいつだ。あいつだ。瓜二つの彼だ。名前を確か、
こう呼んだ。淀川啓介。別の名称は井の中、蛙。
眼下の景色に戻る。憎い、憎い相手が目の前にいる。目の前にいるこいつが私を埋めた。
「今度こそは」何を言ってる、何を言っているんだ。
「今度こそは、今度こそは」
うるさいうるさいうるさい。黙れ黙れ黙れ。
「今度こそは救いたい」
私は満ち溢れた光に包まれ。くそ、まだだまだだ。
それまで耐えられるか、耐えるんだ。
再び意識が朦朧とする。その記憶、記憶。
「そんなことは、させない」

