みなさんは、『カイヌキ』というものを知っていますか? おそらくは大半の方が知らないと思います。仮に知っていたとしても、おそらく知らないふりをしていることだと思います。

まずは簡単に説明しますと、カイヌキとはある儀式のことを指します。ただし、本当にあの儀式のことをカイヌキと呼ぶのかはわかりません。ひょっとしたら、正式な名称が別にあるかもしれませんし、地域によっては違う呼び方をしている可能性もあります。ただ、私が関わった時には『カイヌキ』と呼ばれていましたので、ここではカイヌキという呼称を使わせていただきます。

さて、本題のカイヌキですが、これだけではなんのことかわからないと思います。表記もカタカナですから、いろんなあて字ができてしまうだけに誤解を与えるかもしれません。

なので、一度表記を漢字にしてみます。そうすると、カイヌキは『階抜き』になります。階を抜くと書いてカイヌキ。いや、よけいにわからなくなったと思われる方もいらっしゃると思いますので、先に儀式の一部を説明したいと思います。

まず、カイヌキはとある儀式です。そして、その儀式行う場所には条件がいくつかあり、ここでは三つ紹介します。

一つ目、三階建て以上の建物であること。
二つ目、エレベーターがあること(※エレベーターがあれば必ず非常階段がありますが、非常階段についても一部条件があります)。
三つ目、その建物は不特定多数の人が利用していること。

こうした条件をシビアに満たすことが、カイヌキには重要になってきます。これらの条件を満たす建物となると、駅ビルや商業施設などがあります。実際、カイヌキの大半が商業施設関係の建物で行われているという話もありますし、私が関わったカイヌキも、とあるショッピングセンターで行われていました。

こうした条件が揃った建物が決まれば、次に行うのが階抜きになります。この作業が儀式において最も重要なため、この作業から儀式の呼称が『階抜き』になったとも言われていました。

余談はさておき、階抜きの内容を説明していきます。まず、階抜きは一階と屋上階以外のフロアで行われます。大半が二階になるそうですが、場合によっては違う階が選ばれることもあるそうです。

行うフロアが決まると、その階に通じるエスカレーターや階段、非常口、バックヤードの出入り口等を全て封鎖します。ご存知の方もいるかと思いますが、ショッピングセンターは火事になった時に備えて防火シャッターが下りるようになっています。また、非常階段にも防火扉というものが設置してありますので、これらの設備を使えば封鎖は簡単に行うことができます(バックヤードの出入り口につきましては、スイングドアを特殊なロープで縛って開かないようにしていました)。

こうして全ての封鎖を行うと、最後にエレベーターの設定を行います。ご存知の方もいるかと思いますが、エレベーターは設定を行うことで特定の階に止まらないようにすることができます。その設定を行うと、他の階は行けるのに特定の階だけ行くことができなくなります。つまり、この特定の階を分離する作業のことを、階を抜くという意味で階抜きと呼んでいたのです。

こうして準備が終わりますと、存在するのにたどり着けない、いわば存在するのに存在しないフロアが誕生することになります。

この曖昧で特殊な空間こそが、儀式に必要になり
ます。この世であってこの世ではない、そんな空間で行われるのがカイヌキという儀式になります。

事前説明は以上になります。ここからは、実際にカイヌキを行ったときのことをお伝えしていきます。

※最初にお断りしておきますが、カイヌキは非常に危険な儀式になっており、公表することで関係各所並びに関係者に多大な被害を生じる恐れがあります。そのため、全ての登場人物を仮の設定にさせていただきます。中には存在そのものを公にできない方もいらっしゃいますので、その方につきましては職業そのものも伏せさせていただきます。