春江さんへの取材を終えた時点で、わたしはこれまでに得た情報を整理することにした。
一九七〇年代
Yアパート:下水の臭い。家鳴りがひどい(太い木の枝をへし折るような音)。アパートの部屋の天井から水が漏れている。この水を飲んだ直美さんは翌日に抗うつ薬の離脱症状に似た発作に見舞われた。このアパートで発見された寝たきりの老婆が元気だったのは、この水を飲んでいたから?
一九八〇年代
春江さんの祖母宅:禿頭の男が訪ねてくる。水に引き込まれる夢。無数の生首。男が訪ねてきたあと、春江さんの祖母と父親は立て続けに亡くなった。おそらく禿頭の男は相沢家に恨みを持っているのではないかと思われる。春江さんの祖父は、相沢家の祖先が犯した何らかの罪を償うために仏像を彫っていた?
一九九〇年代
S施設:穴を掘る夢。小屋の周囲を回る不審な影と引きずる音。壁の亀裂から滴る水。S教から渡されたペットボトルの水(これは壁から滴っていた水がいくらか入っていたのではないかと思われる)。
二〇〇〇年代
N家:蛾が大量発生している。水音が聞こえる奇妙な留守電。何かを引きずる影。
スナックR:水が腐ったような臭い。蛾の死骸がよく落ちている。ガラス棚を滴る水(これがYアパートやS施設のものと同じ水かどうかはわからない)。人間を引きずる白い着物の男。トイレに出た禿頭の男(春江さんを探していた?)。
まとめてみてわかったことは二つあった。
ひとつ目は、すべての怪異に水が関連していること。これに関しては説明する必要はないだろう。
そしてふたつ目は、春江さんの体験だけが異質であること。
春江さん以外の人の体験談、たとえば直美さんは向井先輩に誘われてYアパートに行ったことで奇妙な体験をしているし、田代さんはS施設のアルバイトに誘われて怖い体験をしている。N一家も偶然、蛾ハウスに引っ越してきたことで家族の運命が変わった。スナックRで働いていた女の子たちも、Nさんが店に来るようになったせいで怖い目に遭った。
みんな偶然巻き込まれる形で怪異に見舞われているのだ。
しかし春江さんの体験談だけは違う。
怪異側が明確な意思を持って春江さんにアプローチしている。
そして春江さんを含め、彼女の祖母や両親が水に関する亡くなり方をしていることを考えると、この一連の怪異は春江さんの家系にまつわるものではないかと思われる。
しかし中部地方で代々続いていた春江さんの父方の家系と、関西地方のT町との間にどんなつながりがあるのだろうか。
わたしは春江さんに父方の家系について尋ねてみたが、江戸時代から代々医者を輩出する家系だった、ということ以外知らないという答えが返ってきた。彼女の親戚にも聞いてもらったが、結果は同じだった。彼女の家系の人間は水にまつわる死に方をする人間が多いが、その理由も誰も知らないらしい。
一九七〇年代
Yアパート:下水の臭い。家鳴りがひどい(太い木の枝をへし折るような音)。アパートの部屋の天井から水が漏れている。この水を飲んだ直美さんは翌日に抗うつ薬の離脱症状に似た発作に見舞われた。このアパートで発見された寝たきりの老婆が元気だったのは、この水を飲んでいたから?
一九八〇年代
春江さんの祖母宅:禿頭の男が訪ねてくる。水に引き込まれる夢。無数の生首。男が訪ねてきたあと、春江さんの祖母と父親は立て続けに亡くなった。おそらく禿頭の男は相沢家に恨みを持っているのではないかと思われる。春江さんの祖父は、相沢家の祖先が犯した何らかの罪を償うために仏像を彫っていた?
一九九〇年代
S施設:穴を掘る夢。小屋の周囲を回る不審な影と引きずる音。壁の亀裂から滴る水。S教から渡されたペットボトルの水(これは壁から滴っていた水がいくらか入っていたのではないかと思われる)。
二〇〇〇年代
N家:蛾が大量発生している。水音が聞こえる奇妙な留守電。何かを引きずる影。
スナックR:水が腐ったような臭い。蛾の死骸がよく落ちている。ガラス棚を滴る水(これがYアパートやS施設のものと同じ水かどうかはわからない)。人間を引きずる白い着物の男。トイレに出た禿頭の男(春江さんを探していた?)。
まとめてみてわかったことは二つあった。
ひとつ目は、すべての怪異に水が関連していること。これに関しては説明する必要はないだろう。
そしてふたつ目は、春江さんの体験だけが異質であること。
春江さん以外の人の体験談、たとえば直美さんは向井先輩に誘われてYアパートに行ったことで奇妙な体験をしているし、田代さんはS施設のアルバイトに誘われて怖い体験をしている。N一家も偶然、蛾ハウスに引っ越してきたことで家族の運命が変わった。スナックRで働いていた女の子たちも、Nさんが店に来るようになったせいで怖い目に遭った。
みんな偶然巻き込まれる形で怪異に見舞われているのだ。
しかし春江さんの体験談だけは違う。
怪異側が明確な意思を持って春江さんにアプローチしている。
そして春江さんを含め、彼女の祖母や両親が水に関する亡くなり方をしていることを考えると、この一連の怪異は春江さんの家系にまつわるものではないかと思われる。
しかし中部地方で代々続いていた春江さんの父方の家系と、関西地方のT町との間にどんなつながりがあるのだろうか。
わたしは春江さんに父方の家系について尋ねてみたが、江戸時代から代々医者を輩出する家系だった、ということ以外知らないという答えが返ってきた。彼女の親戚にも聞いてもらったが、結果は同じだった。彼女の家系の人間は水にまつわる死に方をする人間が多いが、その理由も誰も知らないらしい。
