[前略]

──では、「世界で一番幽霊に近い君」を書こうと思った理由を教えていただきたいです。

miso/NA: わかりました。正直遥か昔のことのようで、あんまり覚えてないんですけど(笑)。

──意外です。他作品はかなり計算して書いているとおっしゃっていたので。

miso/NA: 「ヨキミ」は唯一、プロとして書いた作品ではないので。他の作品と違って、目的なく書いてしまっているんですよね。読み返すのもちょっと恥ずかしいです。

昔から都市伝説とか幽霊みたいなオカルトは好きで、積極的に調べていたんですよ。で、掲示板とかで"洒落怖"なんかを読むうちに、私も何か新しいオカルトを書けないかな、と思って出来たのがあの作品です。

──掲示板ですか。それにしてはホラーというより青春小説の毛色が強い気がしますね。

miso/NA: 当時仲が良かった後輩がそういうの好きで、読まされてたんですよ。主人公のモデルもその後輩ですし。これを言うとヒロインのモデルが私なこともあって、ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)

園田優は、当時の私にとって理想でした。彼女の病弱設定も、私が高校はサボりがちで週一くらいしか授業受けてないのを、後輩の彼にイジられたからですし。

──後輩さんと仲が良かったんですね。

miso/NA: とても! 「ヨキミ」のための資料集めと言い張って、いろんな心霊スポットに連れ回したりしました。オカルトなんて信じない、みたいなこと言って全然行きたがらないんですけど、無理やり。

で、よくないことが起きると「俺は行きたくないって言ったからな!」って叫ぶの。面白かったなぁ。

──その後輩さんとは、今どのような関係なんですか?

miso/NA: 何も。私も色々あって忙しくなっちゃいましたし、高校を卒業してから何度かは会いましたけど、ここ数年は一度も会ってないです。

あの二年間は、もちろん楽しかったけど。楽しかったでおしまいにしたい関係って、誰にでもあると思いませんか?

──そうですね。miso/NAさんは特に、多くの業界に友人がいらっしゃることでも知られていますし、全ての関係を同じように維持するのは人一倍難しいでしょうし。

miso/NA: あはは。みんなが私のこと、友達だと思ってるかはわかりませんけどね。

[後略]



「書籍化するんだけど、いいかな」

卒業式の前日に、彼女は俺に聞いてきた。強引な割に、変なところでいつも律儀だ。

もうその作品はあんたのものなんだから、俺に断る理由もない。なのに、あんまりにも深刻そうに聞いてくるもんだから、本当に首を縦に振っていいのか一瞬迷った。

結局俺はゴーサインを出して、そしてその翌日、彼女のLINEは消えていた。

出た書籍のペンネームはmiso/NA。旧名の後ろに付いていたUは消えていて、該当なしを意味する「N/A」が代わりを成していた。

そんなことすれば、俺が追わなくなるとでも思ったのか。