北方の姫は氷の皇帝に牙を剥く


時が経つのはあっという間だ。

ヨミは紫玉園の中心にある池のほとりで、僅かに顔を出した朝日を見ながらそんな事を思う。

蒼龍国に来てから丁度一月。予定通り、正午からヨミと雹藍の婚姻式典が開かれる。

宮廷内はその準備で朝から宦官や女官達がばたばたと忙しなく働いており、後宮の他の姫達は嫉妬のあまり癇癪を起こす寸前だった。

今も後ろを振り向けば、大きな箱を二つ抱えて走って行く若い男が目に入る。

準備は滞りなく進んでいるようだ。ヨミの心を置き去りにして。

池の水面を見れば、飾り気のない薄桃の裳を纏った自分の姿が目に映る。その表情にはいまだに迷いの色が浮かんでいた。

数日前、雹藍に刃を向けた事もやはり不問となっていた。どうやら彼は、本気でヨミに命を委ねるつもりらしい。

あの夜、廟で「構わない」と言った雹藍の顔が脳裏に焼き付いて離れない。以来ヨミは今日まで彼と会うことを避けていた。

そんな中、昨晩再びバランがやってきて、兄からの言葉を伝えていった。

「まだ殺せていないのか。式典は明日だろう。ここまで来たら、式典の最中に殺すんだ。その混乱に乗じて、俺たちが攻撃を仕掛けるから」

追い打ちをかけるような兄の言葉を、ヨミはナパルと共に聞いていた。

心の波は、より一層高くなる。

殺したい。けれど殺せない。

自分と兄の事だけを考えれば、答えは当然決まっている。しかし雹藍の話を聞いても尚そうできる程、ヨミは自分本位になれなかった。

ナランの地も、ナランの民も愛していた。青空と草原に囲まれて、羊を抱きしめ、馬で地を駆け、精霊と遊ぶ、あの生活が好きだった。けれど同時に雹藍と見た、西城の店や人々、彼らの文化も、興味の対象になっていた。

その二つが、ヨミの選択次第で壊れてしまうことに気付いてしまった。

朝日は金の光を増しながら、地上へと上っていく。ナランの地ではいつも待ちわびていた輝きは、今のヨミにとっては眩しすぎた。

「そろそろ戻ろう。着付けとか、化粧とか、準備がたくさんあるって聞いてたし……」

ヨミは池に背を向け顔を上げると、そこには一人の人物が立っていた。

「雹藍……」

「久しぶり、だな」

いつからいたのか、雹藍は少し離れた場所に佇んで、静かにヨミを見つめていた。

着ているのは白に近い青の生地に、翡翠色の襟の衣。腰も襟と同じ色の帯で止めている。頭の飾りがついていない所を見ると、どうやら彼もまだ準備をする前らしい。

「こんなところでどうされたのですか? 式典の準備もあるのでしょう?」

「部屋から、君の姿が見えたから」

雹藍は相変わらずの無表情で静かに答えた。数日会わなかった間に、彼の表情の変化が再び分からなくなってしまったように感じる。

「……話し方、戻さなくてもよいというのに。あちらの方が君らしい」

「あの時が最後だからという約束でしたから。……結局、最後にはなりませんでしたが」

目を伏せ自嘲するヨミに、雹藍は一拍おいて口を開いた。

「君は、どうするつもりなのだ」

「どうするつもり、とはどういうことでしょうか」

「式典で、僕を殺せと言われたのだろう。……翡翠が調べていたらしい。その……、すまない」

雹藍はそう言って肩を下げる。しかしヨミは驚かなかった。むしろ今まで、監視されていなかった方がおかしかったのだ。

「……雹藍は、私の瞳が好きと言っていましたね。復讐に燃える暗い瞳が」

「あ、ああ」

突飛な質問に雹藍の声が揺れたが、構わずヨミは言葉を続けた。

「もしも私があなたを殺さない選択をすれば、あなたが好きになった私はいなくなることになりますよ」

「それは……」

明らかな混乱と戸惑いを滲ませる雹藍。何度も口を開閉し、その度に耳が赤く染まっていく。そして更に数秒後、ようやく雹藍は己の思いを口にした。

「それでも勿論……、君を好きでいるに決まっている……。それほど強い信念を持つ君が、隣にいてくれれば……きっと心強い……」

「そうですか」

「それに……初めはそうだったが、今はもうそれだけではないのだ……。共に過ごした時間……君の笑顔が、僕を幸せにしてくれた……。だから、これから先も……僕の側に、いて、欲しいと……」

消え入るような声で、雹藍は告げる。白い肌を真っ赤に上気させて俯く彼を、ヨミはじっと見つめた。

別の文化、別の考えを持つ者同士が和平を築くには、侵略し、争いの後、一方が他方を屈服させるしかない。

蒼龍国に来てから学んだ歴史からも、一つの国が他国を軍事力で制圧してこの国ができたと学んでいたし、ナランが広い土地を得る事ができたのも、他の民族をすべて力で取り込んだからだと物語で聞いている。

それを思えば、争わずしてナランの民と蒼龍国の和平を築くという雹藍の考えは幻想に過ぎないのだろう。

けれど、もしそんな事ができるなら。

ヨミが口を開こうとした、その時だった。

「陛下、こんな所にいたのですか! 早く来てください!!」

見ると渡り廊下から、臣下の一人が大声を上げて雹藍の事を呼んでいた。

「雹藍、呼ばれているみたいですね……」

「あ、ああ……。では、また後ほど……」

雹藍はくるりと踵を返し、急いで臣下の元に向かう。

ヨミはその背中が見えなくなるまで、じっと彼を見つめていた。
部屋に戻ると、ヨミが紫玉園に向かう前にはなかったものがたくさんそこに置かれていた。

大きな衣装掛けに掛かった上衣に裳、羽織。どれも真朱の生地を基調とし、金や緑で草花を模した刺繍が入っていた。そしてどこからか運ばれてきたであろう台座には、金の帯と薄桃の帯留め、そして花をあしらった髪飾りが置かれている。

眩しくて目を閉じてしまいそうになる程の煌びやかな衣装の数々。普段ででさえ豪華な衣装なのに、目の前のものはそれ以上だ。

「これ……あたしが着るの?」

「当たり前じゃないですか。その為にさっき部屋に運び込まれたのですよ。蒼龍国ではおめでたいことがある時はこんな服を着るのだと聞きました」

「おめでたいこと、ねぇ……」

微笑むナパルからヨミは僅かに目をそらし、そのまま両手を開いた。それを合図にナパルはヨミの服を脱がし始める。

「……ナパル、こんなすごい服、着付けできるの?」

「見た目は派手ですが、構造はいつもと同じですよ。だから大丈夫です。もうここに運ばれる荷物もないですし、しばらく誰も来ません」

「そっか……」

一枚、二枚と服を着て、前で襟を交差させ、下半身に裳を巻き付ける。そして裾の長い羽織を着せた後、ナパルは壁際の鏡台の前にヨミを促した。

「ねぇ、ナパル。あたし、どうしたら良いかな」

ヨミは髪を結い上げられながら、鏡を見つめてナパルに問う。鏡に映ったナパルは一瞬手を止めたが、すぐに小さく微笑んだ。

「自分のしたいようにすればいいですよ。ヨミさんにはそれができるのですから」

「ナパル……」

ヨミはそっと目を閉じる。

ナランの地でも蒼龍国に来てからも、彼女はずっと側にいてくれた。

不意に落とす影がヨミの行動を是とは思っていないことを示していたが、それでも自分を尊重してくれようとする彼女に、ヨミは心の中で感謝を送る。

そして、告げた。

「……ナパル、あたし、決めたよ」

目を開き、まっすぐに前を見つめる。鏡に映る自分の顔には、もう迷いの色は存在しなかった。

「ナパル。寝台の枕の下にあたしの短剣と笛がある。それを取ってくれない?」

「……はい」

髪を止め終わった彼女は寝台に向かい、ヨミの言葉通りに短剣と呼龍笛を取り出し持ってくる。

ヨミはそれらを受け取ると、笛はお守りとして腰帯に差し、そして短剣は目的のために懐に入れた。

「ありがとう、ナパル。どうなるかわかんないけど、迷惑かけたらごめん」

「いえ……」

ナパルは静かに俯いた。しばしの後、彼女は顔を上げて笑顔を見せた。

「私、準備が終わったと知らせてきますね」

「うん。分かった」

ヨミが頷くと、ナパルは足早に部屋を出て行った。

   ***

「翡翠さん」

ヨミの部屋を後にしたナパルは、麒麟殿から出てきた翡翠に声をかけた。

手に服や髪飾りを乗せているのを見ると、どうやら彼も主人の着付けをしていたらしい。

逆方向へ歩いて行こうとしていた翡翠は、ナパルの姿を認めると、踵を返して歩み寄ってきた。

「ナパルさん、お久しぶりですね。その……身体は、大丈夫ですか」

「……ああ、大丈夫ですよ。あれは一時的なものなので……」

ナパルは小さく微笑んだ後、言葉を続けた。

「ヨミさんの準備が終わったので知らせにきました。……それと、言いたいことがあって」

「昨夜の件ですか」

翡翠は静かにそう言った。その言葉には、動揺一つ見当たらない。

「知っていたのですね」

「私の方でも、少し探らせて貰いました。昨日の件は、雹藍様にもお伝えしています。……それに関して、ヨミ様の答えが出たのですか?」

「ええ、ヨミさんは短剣を持っています。私に言えるのは……これだけです」

俯きながら首を掻くナパル。その姿を翡翠は迷うような表情で見つめた。

「意思を遂げる、と。そういうことですか」

「おそらくは……」

「そうですか。しかし、何故あなたがそれを私教えてくださるのです?」

「それは……」

ナパルは首に手をあてがい、僅かに顔を歪めながら言葉を続ける。

「私、決めたのです。翡翠さんのお陰で、自分のやりたい事をやり遂げる覚悟ができたので。だから……」

「……」

何もいわない翡翠に、ナパルはにこりと微笑んだ。

「万が一の時は、ヨミさんをよろしくお願いしますね」
宮廷の敷地の中心にある龍水殿は、敷地内の中で最も大きな建物である。

重要な儀式や祭祀を行う建物内は、赤を基調とした派手な装飾で彩られていた。いくつ並ぶ扉を開くと、宮廷に仕える臣下たちが並ぶには十分すぎるほどの石畳の広場がある。今日、ヨミはこの場所で雹藍と婚姻を結ぶ事になるのだ。

龍水殿内部で婚約の儀を住ませた後、門から外に出て広場にいる臣下とナランからの客人達の前で皇后の位を賜り祝福を受ける。そういう段取りになっていた。

位の高い臣下が数人、ヨミと雹藍の従者の二人が殿内の儀式に参加している。周囲は衛兵で囲まれているが、その人数がやけに多いのは、この建物の広さ故だろうか。

「ヨミ。こちらへ」

長々とした口上を数十分二人並んで聞いた後、雹藍はヨミに手を差し伸べた。

「ありがとうございます」

ヨミは雹藍の手を取って、床に敷かれた赤い絨毯の上を、彼について歩いていく。扉から差し込む外の光が大きくなるごとに、心臓の鼓動が早くなった。

懐の短剣に手をあてがい、そっと雹藍を横目に見る。黒地に金の龍が刺繍施された豪奢な衣装は、いつも以上に彼の印象と不釣り合いだった。こんな時でなければきっとヨミは吹き出してしまっていたに違いない。

雹藍は、何を考えているのだろう。

彼も昨夜の事を知っていた。ならばこの門から外に出れば何かが起こることは予想できるのに、雹藍の表情は静かな水面のように動かない。

けれど、今は彼の心は関係ないと、ヨミは考えを頭の中から振り払う。

自分は自分が選んだ未来を切り開くだけ。

視線を映し、まっすぐ正面を見る。門の脇に控えて頭を下げているナパルと翡翠の横を通り抜け、二人は外へと足を踏み出した。

一瞬、光に目をくらませた。すぐに視界が戻ったヨミは、外の様子を見て目を見張る。

門から出て、数十段の階段の先。白い石造りの広場には、何百という人間、そして龍や麒麟、豹など、様々な姿をした精霊たちが座って頭を下げていた。服の様子を見るに、正面から右側にいるのが蒼龍国の臣下達、左側にいるのがナランの人間だろう。

「面を上げよ」

隣に立つ雹藍が、その場にいる人々全員に向かって命令する。さほど大きくはなかった筈なのに、その凜とした声は広場中に響いていった。

全員が顔を上げた後、雹藍は皇帝として言葉を発する。

「私はこれより、ナランの首長の妹であるヨミ・ウルを、正式に皇后として迎える事とする」

雹藍の宣言に、蒼龍国側もナラン側も、誰も口を開かなかった。

それも当然。自分達の長が争いあってきた相手の長と婚姻を結ぶのだ。手放しで祝福できる者などこの場にいる筈がない。

ヨミはちらりと広場の左側に目を向ける。最前列にはトキがいた。それ以外にも、並んでいるのは見知った顔ばかりだ。後ろの方にはジウォンの姿も見える。

雹藍が、小声でヨミに声をかけた。

「次は君の番だ」

「……そうでしたね」

雹藍の言葉に対し、謹んで受けるとヨミが宣言する。そこで、この式典は終了だ。

ヨミは雹藍の方に身体を向ける。雹藍もヨミに向かい合った。

しばしの間、視線を交える。それは男女の間で交わされる甘い類いのものではない。互いの意思を探り合い、確認しあう眼差しだ。

そして、次の瞬間。

「おおお……!!」

「なんということだ……!!」

広場の臣下達がどよめきをあげる。焦りと、困惑と、怒りが、一瞬でその場を支配した。

ヨミは懐から短剣を取り出し、雹藍に向かって大きく振り上げていたからだ。

翡翠は腰の長剣に手をかけて、ナパルはヨミの名を呼び彼女に駆け寄ろうとする。衛兵達が舞台に集まりヨミの身体を拘束しようとした。

しかし雹藍はすべてを制止し、ヨミの目をまっすぐ見つめる。

「ヨミ……」

雹藍が、ヨミの名を呼ぶ。悲しみも、怒りも、そこにはなかった。

「その選択をしたのか。私を……僕を殺すと」

皇帝から「雹藍」に戻って問いかける彼。

ヨミはそれには答えなかった。意思の籠もった瞳で雹藍を見つめ、勢いよく短剣を振り下ろす。

広場がどよめきと叫び声が沸き上がった。
 
しかし、雹藍の胸から鮮血が吹き出すことはなかった。

「ヨミ……?」

驚きに満ちた表情で、雹藍はヨミを見つめる。

振り下ろされたはずの短剣は横に倒され、雹藍へと差し出されている。そしてヨミは、彼の目の前に跪いていた。

「皇帝陛下」

戸惑う人々を差し置いて、ヨミは俯いたまま声を上げた。

「この短剣は、過去十年間、私と共にありました。必ず果たすと誓った強い思いが、この刃には込められています」

ヨミはそこで言葉を切り、顔を上げた。口元に浮かべられた笑みを見て、雹藍が目を丸くする。

「この剣を、あなたに預けましょう。過去は消える訳ではありませんが、それを乗り越えてより善き未来に歩まなければならない。私は陛下の行く道の先を、共に見てみたくなったのです」

「……いいのか?」

驚く雹藍に、ヨミは「ええ」と頷く。

「これが、私の選択。だから……」

ヨミが促すと、雹藍は微笑みながら短剣を受け取った。

ヨミは彼にもう一度頭を下げ、宣言する。

「ナランのヨミ・ウル、皇后の位、謹んでお受け致します」

喝采が上がった。

それは祝福よりも、安堵に近い。しかし皇帝がヨミを皇后とし、ヨミがそれを受け入れたことに対するものには違いなかった。

蒼龍国の臣下達の拍手や歓声が広場からも龍水殿の中からも聞こえてくる。

皆が式典の成功を祝っている、その時だった。

「どういうことだ!!」

雷のような怒号が、辺りに沈黙をもたらした。

ヨミは声のした方を振り返ると、鬼のような形相のトキが鋭い瞳でこちらを睨みつけていた。

「トキ兄……」

「ヨミ。お前、ここに来た目的はなんだ!? そいつは俺達の両親の仇。そしてナランに攻め入る侵略者だ! お前も必ず復讐すると言っていただろう! そこの男に絆されたのか!?」

「違うよ! あたしは自分の意思でこの選択をしたんだ! トキ兄も聞けばそう思うはず!!」

ヨミは舞台上からトキを説得しようとしたが、彼は一切聞き入れない。

「お前がやらないなら、俺がやる!」

トキは腰に差した長剣を鞘から抜き、雹藍に向かってまっすぐ構える。同時に、他のナランの民数人が剣を抜き、控えていた精霊達が戦闘態勢に入った。

「トキ兄、やめて!」

「全員、戦闘態勢にはいれ! 陛下をお守りするのだ!!」

ヨミの叫び声と共に蒼龍国の将軍の怒号が響く。蒼龍国の兵士達がトキ達に向かって走り出し、広場にいた臣下達は逃げ惑う。そしてすぐに、その場は戦場と化した。

「雹藍様、ヨミ様、早く中へ!」

龍水殿の中にいた翡翠が叫ぶ。雹藍はその声に従ったが、ヨミは足を進めることができなかった。

怒号、悲鳴、そして剣の打ち合う音。耳を塞ぎたくなるような音が広場中に響いていた。

トキを初めとするナランの民は、高原で鍛えた身のこなしで、鋭い剣技を繰り出していく。対する蒼龍国の兵士も、洗練された動きでナランの剣を打ち返していた。

両者の力は互角。しかしそれは、人間同士でだけであればの話だ。

「うぁあ!!」

「ひ、卑怯な!!」

悲鳴を上げ、倒れていく蒼龍国の兵士達。あるものは火炎に飲まれ、あるものは風に切り裂かれる。それらを操るのは、ナランの民が従える精霊たちだ。

彼らの操る自然の力の前に、何の対策もしていなかった蒼龍国の兵士達は、為す術もない。

階段を上らせまいと集まる兵士達も、一人、また一人と次第にその数を減らしていった。

そしてトキとナランの民は、じりじりと階段を進んで来る。

このままでは、雹藍はトキに殺される。そうなれば、雹藍が望んだ戦わずして和平を得る未来は、更に遠くなる。復讐の輪廻が、止まる事なく回り続けてしまう事になるのだ。

それは、絶対に避けなければ。

ヨミは必死に頭を巡らせた。どちらかが死に絶えるまでは終わらないこの戦いを、今すぐ止める方法を。

そしてふと、腰帯に差した呼龍笛の事を思い出す。

もし、本当に呼龍笛で精霊たちを操れるならば、彼らをナランの地に返すことができるかもしれない。

そうなれば、蒼龍国とナランの民の戦力は互角。失敗しても状況は何も変わらないだけ。やらないよりやった方が断然いい。

「ヨミ! 早くこっちに!」

雹藍はヨミに向かって叫ぶ。しかしヨミはそれを無視して、腰帯から呼龍笛を抜き、吹き口に唇をあてがった。

澄んだ、高らかな音が広場に響く。その場にいた者全員が戦いの手を止めヨミの方を振り向いた。

争っている精霊たちが戦いを止め、ナランの地へと帰ってほしいと。

精霊たちに思いが届くことを祈りながら、ヨミは笛の音を奏で続ける。

やがて、変化は起こった。

蒼龍国の兵士達に対峙していた精霊たちの瞳から、戦意の炎が消え失せた。そして一体、また一体とその姿が消えていく。混乱する人々の間を、龍の精霊が風に乗って通り過ぎ、その場のすべての武器を空へと巻き上げた。

そのままヨミの目の前までやってきたかと思うと、垂直に天へと昇り、北の方角、ナランの地へと去って行く。

その場に残された人間は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

「うまく、いった……」

ヨミは笛から口を離すと、小さく息をついた。そして後ろの雹藍に軽く微笑む。

そんなヨミを、トキは憎々しげな目で睨みつけた。

「ヨミ……! 邪魔をするな……!」

階段の中腹にいたトキは、いまだに呆然としている兵士達を押しのけ、まっすぐにヨミの――その後ろにいる雹藍の元へと走ってくる。

その手に光るものが握られている事に気付いたヨミは、雹藍が持つ短剣を素早く奪った。

がきぃん、と。

二つの刃が交わった。

「どうして意思を変えた!? ヨミ!!」

「この男を殺してあたしたちの復讐を遂げても、復讐の連鎖が続いていくだけだ! それを終わらせない限り、あたしたちみたいな思いをする民はいなくならない! だから復讐なんて駄目なんだよ!」

「笑わせるな! 奪うか奪われるかのこの世で、復讐など消せる訳がない! そんなこと戯れ言にすぎん!」

打ち合う度に、二人の思いがぶつかり合う。ナランの地で何度も繰り返してきた兄妹喧嘩とは違う、止められない争いがそこにはあった。

「ヨミ!」

「トキ兄!」

名前を叫び合い、再び眼前で刃が止まる。二人の全体重を受けた刃は、互いの身体を押しのけた。

双方の手から短剣がはじけ飛び、一つは遠く広場に落ちて、もう一つはナパルの目の前に転がって行く。

衝撃でトキとヨミは均衡を崩して倒れ込んだ。

「ナパル、殺せ!!」

トキは即座に身体を起こし、遅れたヨミの身体を押さえつけながらナパルに怒鳴る。

大丈夫。皆を思うナパルなら、兄の言う通りにはしないはず。

きっといつもみたいに、こんなことはやめろと怒ってくれる。

願いと信頼を込めた瞳で、ヨミはナパルの方に視線を向けた。

しかし。

ナパルは震える手で、その短剣を拾い上げたのだ。

「ナパル!?」

「ヨミさん……。翡翠様……。私は……」

ナパルは雹藍と向い合い、苦しげに顔を歪ませる。その首には、ぼう、と赤い紋様が浮かび上がっていた。

「その首……、トキ兄がやったの!?」

ヨミが頭上のトキに怒鳴ると、彼はヨミを拘束する手に力を加えながら答えた。

「俺じゃない。あれを施したのは初代首長だ。ウル家の初代首長はナランの民を護る為に、治癒の力を持つ精霊のナパルと協力関係を結んだが、その約束が違えられることのないように、呪具を使ってナパルを縛ったのさ。この鳳令輪でな」

言いつつトキは右手首に目を遣った。そこには金に光る腕輪がはめられている。

「だから……ナパルは鳳令輪を持つウル家の首長と共にあった……」

「そうだ。これは精霊を従わせる為の呪具。縛った相手の精霊が鳳令輪を持つ者の命令に反する意思を持つとその首を絞めて、最後には殺す。縛られた精霊は呼龍笛でも操ることは不可能だ」

だから、ナパルはここにいるのか。思えば呼龍笛を使った時、精霊であるにも関わらず彼女だけがこの場に残っていた事を不信に思うべきだった。

「さあ、ナパル。早くやれ」

「私は……」

ナパルは片手で首を掻きながら、絞り出すような声を上げた。

「私は……陛下を殺す為に短剣を取ったのではありません……。ナランの皆さんを救うため……トキさんに短剣を握らせない為に取ったのです……」

「何だと? 逆らうつもりか? 抵抗すれば、お前が死ぬんだぞ」

トキはナパルを鋭い眼光で睨みつけるが、彼女は怖じけず言葉を続ける。

「良いのです……。『主が間違った道へ進もうとしているのなら、命を賭してでも止める』……。それが仕える者としての役目だと、気付かせてくれた方がいましたから……。この命を失ったとしても、ヨミさんとトキさんを止めると決めたのです……」

ナパルはそこで強く咳き込むと、近くにいた翡翠に微笑んだ。彼は痛ましげな表情で彼女の視線を受け止める。

トキは咳き込みながらも辛うじて立っているナパルへ、憎々しげな目を向けた。

「ちっ。ナパルめ……」

「トキ兄、終わりだよ。もう諦めて」

ヨミはトキに押さえつけられたまま、彼に告げる。

しかしトキはその言葉に、にやりと唇を歪めた。

「誰が終わりと言った?」

「……!? どういうこと!?」

「鳳令輪の力は、契約した精霊の首を絞めるだけじゃないと言うことだ。」

それを聞いたナパルは、絶望の表情を浮かべた。

「そんな……!? 聞いた事がありません……!!」

「当たり前だ。代々首長だけに受け継がれてきた秘術だからな」

トキが言い終わると同時に、彼の手首にはめられた鳳令輪が怪しい光を放つ。それに呼応するかのように、ナパルの首の文様の輝きが増した。

「あああっ!」

ナパルが短剣を持ったまま、片手で頭を押さえて崩れ落ちる。

彼女は何かを振り払うように強く頭を振っていたが、やがてその動きはぴたりと止まった。

そしてゆらりと立ち上がり、雹藍の前で剣を振り上げる。

その瞳は、何者をも映していない。

「ナパル!?」

ヨミの叫びも彼女の耳には届かなかった。ヨミは身体の上のトキに問う。

「ナパルに何をしたの!?」

「鳳令輪は各代で一度だけ、精霊の意思に関わらず強制的に命令を聞かせることができる。とはいえこれまで一度も使われたこともなく、俺も本当は使わないつもりでいたんだが、こうなっては仕方ないからな」

トキはナパルに顔を向けて叫んだ。

「さあ、ナパル、『その短剣で目の前の奴を刺せ』!」

「ああああああ!!」

ナパルは悲痛な声を上げながら、我を失ったように短剣を振りかざす。

「ナパル! やめて!」

ヨミの制止も効果はなく、彼女は目の前の雹藍の胸に向かって短剣を勢いよく振り下ろした。

ざしゅ、と、刃が肉を貫く音がその場に響く。

鮮血が溢れ、ナパルの頬を返り血が濡らす。

正面から短剣を胸に刺され、その場に崩れ落ちたのは。

ナパルの目の前に飛び込んできた翡翠だった。

「翡翠!」

「翡翠さん!」

雹藍、そして命令を実行し正気に戻ったナパルが同時に叫ぶ。

彼女は瞳に涙をため、崩れ落ちる翡翠の肩を抱き起こした。

「どうして……! 陛下を守るなら、その腰の剣で私を刺して殺せば良かったのに……!」

「ふふ、確かに。どうして、でしょうね……」

翡翠は喘ぎながら微笑んで、ナパルの涙を指で拭う。

「精霊なんて、やっぱり憎い存在ですが……雹藍様だけでなく、あなたも助けたいと思ってしまったのです……。ねえ、傷を治して見せてくださいよ……。前に言っていたでしょう……? そうすれば、あなたの事をもっと知ることができそうな気がする……」

「でも、こんな傷、私の力では……!」

傷口からは血がとめどなく溢れ出し、ナパルの膝を濡らしていく。その傷の深さでは彼女の血でも防ぎきれるかは分からない。

しかし翡翠の信頼するような眼差しに気付き、ナパルは首を振る。

「……いえ、やらなくては」

翡翠の胸に刺さった短剣を引き抜き、自分の腕を傷つけた。

彼女の腕から流れ出した血が翡翠の胸に零れ落ちると、彼の傷口から溢れる血が僅かに止まる。

それを感じたのか微笑みながら気を失った翡翠。ナパルは彼を抱えたまま、自分の裳の裾を引き裂き手当を始めた。

その様子を見ていたトキは、ヨミの上で呟いた。

「そんな……、失敗だと……?」

「そうだよ!」

「うわっ!」

うろたえる彼の隙を見て、ヨミが拘束を振りほどき、形勢を逆転させる。身体の下にトキを組み敷き、その右腕から鳳令輪を奪い取って自分の腕にはめた。

「これでもうナパルを苦しめることはできない。今度こそ終わりだよ、トキ兄」

ヨミはトキの身体を解放しつつ静かに告げる。

トキは立ち上がってヨミ達と相対しながら「そのようだな」と吐き捨てた。そして踵を返し、大人しく階段を降りつつ言葉を発した。

「ヨミ。俺は、お前と縁を切る。もうお前は、俺と何の関係もない」

「トキ兄……」

「蒼龍国と和平など結ばない。俺はナランの地に帰って力を蓄え、そして必ず戻ってくる。皇帝を殺し、蒼龍国を奪うためにな」

そう言い残し、トキはナランの民を引き連れ宮廷の外へと消えていった。

「失敗、しちゃったかな。和平どころか、もっと溝が大きくなっちゃった……」

自分のことで頭がいっぱいだったが、兄を裏切ればこの結末は当たり前。やはり争いなしで和平を手に入れるのは無理なのだろうか。

「あたしがこの選択をした意味って……」

ヨミが俯いたその時。

「そうでもないよ」

聞き慣れた、懐かしい声が聞こえる。顔を上げると、いつの間にやってきたのか、ジウォンがこちらを向いて立っていた。

「ジウォン? みんなトキ兄と一緒に戻ったんじゃ……」

「ううん。よく見てよ、ヨミ」

ジウォンに促され、ヨミは広場の方に顔を向ける。

そして、目を見張った。

そこには、式典に来ていたナランの民の約半数が、遠くの方からこちらを向いて立っていたのだ。

「僕、ヨミが蒼龍国にいってから、君の為に何ができるか考えてたんだ。ナランにはまだ蒼龍国を恨んでいる人がたくさんいる。だから、蒼龍国について僕が取引で知った情報をみんなに話してまわったんだ。和平を結んで、互いに交流できるようになった時、すぐに打ち解けられるように。そして、意外にもみんな蒼龍国に興味を持ってくれたんだ」

君たちの計画は知らなかったけど、とジウォンは苦笑いをする。

「今日の式典への出立前、トキさんから話を聞かされて驚いた。蒼龍国は敵で、侵略すべき。トキさんはそう言って僕たちに剣をとるよう指示していたけど、式典の時の君の言葉を聞いて気付いたよ」

ジウォンはそこでヨミの手を取り微笑んだ。

「ヨミ。ここにいる以外にも、蒼龍国と和平を結びたいと考えている人はたくさんいるよ。そしてトキさんはその人達もヨミと同じようにナランから追い出そうとするかもしれない。だからそうなる前に僕はその人達をまとめて移動しようと思ってる。それで……僕たちだけでも蒼龍国と和平を結びたいんだ。……できるかな?」

「ジウォン……」

ジウォンの言葉に、ヨミは目を瞬かせる。そしてあることを思いつくと、ジウォンの手を離して雹藍の方を振り向き頭を下げた。

「皇帝陛下。皇后となるに際し、お願いがございます」

雹藍はヨミとジウォンを見比べた後、僅かに口を尖らせて呟いた。

「ヨミ。いい加減……、僕に対しても普通に話してくれないか」

「……そうだね」

ヨミは顔を上げ、雹藍に告げる。

「頼みたいことは二つ。一つ目は、蒼龍国との和平を願う彼らとの、交流の許可を。そしてもう一つは、ナランに関わることについて、当面あたしが請け負うことを許して欲しいの。ナランのことを分かってるあたしがやる方が、喧嘩にならなくてすむだろうし」

「……ああ。もちろんだ」

雹藍の答えに、ヨミは微笑む。雹藍も、ぎこちない笑みを見せた。

ナパルも翡翠を支えたまま、ヨミと雹藍の表情を見て口元を緩める。

向き合い笑う二人の笑顔には、輝かしい未来が浮かんでいた。
式典での騒動から数日後の夜、ヨミは自室の机の上に突っ伏してうめき声を上げていた。

「ナパル、あたしもう無理……」

机の上には資料の山。

式典の際トキが起こした騒動の始末をつけ終わり、宮廷内でのナランの悪評もようやく沈静化してきたばかりと言うのに、間を置かず別の仕事に取りかからなければならない状況なのである。

「あらあら。けれど、むしろやるべきことはこれからでしょう?」

人の姿を取ったナパルはくすくす笑いながらヨミに茶を差し出す。その手首には、金の腕輪がはめられていた。

「うう……ナパルも昨日牢から解放されたばっかりでしょ」

皇帝の殺害未遂と翡翠への傷害罪で、ナパルはしばらく牢に閉じ込められていた。

本来なら死刑になる所だったが、雹藍がナパル自身に罪はないと証言したこと、そして刺された本人である翡翠がナパルを牢から出せと激怒したことで、数日ぶりにヨミの元へ戻ってくる事ができたのだ。

「雹藍はともかく翡翠がそんなに怒るなんてね。仲が良いなとは思ってたけど、さすがにそこまでとは思ってなかったよ」

「本当に……。お二人には感謝しかありません」

ナパルは自分の分の茶を口に含み、ほう、と小さく息をついた。

「これから、いろんなことが変わっていくのでしょうね」

「そうだね……」

式典の後、ナランは南北二つに分裂した。

北はトキを始めとする蒼龍国を敵視する者達。南は蒼龍国と友好的な関係を望む者達。

まとめる者がいなかった南のナランの新たな首長となったのは、なんとあのジウォンである。

蒼龍国は彼と交渉し、南のナランと友好関係を結ぶ事を約束した。争いの発端となった土地の扱いについても、両国で話し合いながら決めていく予定だ。

そして式典での約束通り、ヨミはナランに関わる業務すべてを担うことになった。南ナランとの最初の交渉は雹藍にも同行して貰ったが、以後は一人で行うこととなる。

その為に今は外交の勉強中というわけだ。幼なじみのジウォンも頑張っているというのに、自分がここで折れる訳にはいかない。

勉強を始めた時はそう決意した。

しかし、である。

「でも、もう疲れたよ……。やりたくない……」

「けれどヨミさんがやると言ったのでしょう?」

「皇后に仕事が山ほどあるなんて知ってたらそんなに簡単に決めてなかったよ……。いままでみたいにちょっと勉強する以外は部屋でのんびりできると思ってたんだもん」

正式に皇后となったことで、外交に接待にと宮廷内の仕事が一気に増えた。

特に大変なのが後宮の事。

後宮の他の六人の姫達とも正式に顔合わせをし、後宮内の秩序を保つよう言われたが、彼女たちはいまだナラン出身で成り上がりの皇后が認められないらしく、文句や陰口、嫌がらせは止まらない。

更には女官達まで結託して何もやっていないと主張するので、ヨミは彼女たちを管理するのは無理だと半分諦めかけていた。

「こんなにやることがあるなら、最初から教えておいてくれたらよかったのに……」

机に顎を乗せたまま、ぶつぶつぼやくヨミ。

そこへ、部屋の扉が叩かれる。怠惰な声で「どうぞ」と声をかけると雹藍が中にはいってきた。

続いて後ろから翡翠もやってくる。どうやらもう歩いて問題ない程に回復しているらしい。

雹藍はヨミの横まで近づいてきて、机上の巻物に目を向ける。

「今日も、大変そうだな」

「あたしには、無理かもしれない……。けど、なんとか頑張るよ……」

「そうか。……ところで、今宵は月が綺麗だ。だから、その……散歩にでも、いかないか。……よければ、だが」

明後日の方向に目を向けながらもごもごと告げる彼。ここ最近、雹藍から散歩の誘いを受けるようになったが、いまだに誘い文句に慣れていないらしい。

そんな彼にヨミはくすりと笑って「いくよ」と答える。

「丁度勉強が辛くなってきた所だったんだよね。気晴らしによさそう」

椅子から立ち上がり、少しだけ背伸びをする。それから雹藍とともに、紫玉園へと向かった。その後ろを、ナパルと翡翠がついてくる。

外は既に暗く、大きな月が静かに世界を照らしていた。

ヨミたちは紫玉園に面した渡り廊下を、蝋燭の明かりを頼りに歩いて行く。あちこちから心地よい虫の音が響き、風にざわめく木々の向こうには、赤い柱と黄色い屋根の建物が僅かに見えていた。

「なんだか、あの時みたいだね」

ふと、ヨミが声を上げると、雹藍が首を傾げた。

「あの時、とは……?」

「あたしが雹藍を殺そうとしたとき」

「ああ……。そういえば、君とこの道を通るのはあれ以来だな」

雹藍はそう呟いて目を閉じる。そして、一言「よかったのか」とヨミに尋ねた。

「ん? どういうこと?」

「君は皇后になる選択をしたことで、トキ殿と仲違いをしてしまった。それに、今も職務が大変そうだ」

「あー……。それはそうだけど……」

ヨミは歩きながら月を見上げた。

確かに兄とは仲違いをしてしまった。けれど、ヨミが力を尽くして職務を行い、争うことなく南ナランとの関係を維持すれば、兄も分かってくれる気がしていた。

「あたしは、この選択が正しかったと信じてる。だから大丈夫だよ」

そう言って雹藍に笑いかけると、彼も安堵したような表情を浮かべた。しかし次の瞬間、何かを思い出したのか耳を赤くして目をそらす。

「どうしたの?」

「あ、いや……その……。まだ、聞いていないことがあったと……」

「そうなの? なに?」

首を傾げるヨミに、雹藍はしどろもどろになりながら問いかける。

「君は……皇后になってくれたわけだが……二つに一つだったから選んでくれただけだろう……? 故に、結局僕の事を、どう思っているのか、と……。君の気持ちは、聞いていなかったから……」

足を止めて俯く雹藍。蝋燭の明かりがゆらゆら揺れて、赤く染まった彼の顔を映し出す。

どう思っているのか、か。

その問いの意味が分からない自分ではない。ヨミは足を止めて、雹藍の顔をじっと見つめる。

世では氷帝と呼ばれる程、無口無表情無感情と思われている彼。しかし本当は感情豊かで、こんなにも様々な表情を見せる。そしてその心の中では、かつての戦いの事を憂い、誰も争わずして和平を手に入れる事を願っているのだ。

ヨミは雹藍から空に浮かぶ月に視線を移した。

その輝きは静かで冷たく、されど優しく地上を照らす。まるで隣に佇む彼のように。

「まだ、秘密」

困惑を浮かべる雹藍に、ヨミは意地悪っぽく微笑みながら心地良い月の光を感じていた。

(了)

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