私はこれまでフウセンガシラについて、あくまでも伝承に登場する妖怪の一種と考えた上で研究を進めてきた。しかし今回、信頼できる筋からフウセンガシラの実在を強く示唆する音声記録を入手したことで、私はこの考えを改める必要性を感じている。フウセンガシラとは妖怪や呪いの類ではなく、もっと現実的な存在なのではないだろうか。
入手した音声記録や伝承の情報のみからでは推測は難しいが、現在私は、このフウセンガシラとは恐らく奇形腫(テラトーマ)の一種ではないかと考えている。
奇形腫とはある種の腫瘍だが、通常の腫瘍とは異なり、まるで出来損ないの人間のように毛髪や歯、骨、筋肉といった様々な組織を含んでいる。手塚治虫の作品「ブラックジャック」においては、この奇形腫を本体から切り離して繋ぎ合わせることで作られた人間であるピノコが登場するが、現実世界において知られている奇形腫は様々な組織を含んでいるとはいっても複雑な人体構造をきちんと形成するということはなく、ピノコのような人体全体は言うまでもなく、頭部ですら形成するようなことはない。
しかしながら、シミュラクラ現象からも分かるように、たとえきっちりとした頭部の構造を形成していない奇形腫であったとしても、人間がそれを顔のついた頭部と認識することは十分に有り得るのではないだろうか。あるいは、本当に頭部の構造を形成するこれまでに知られていないタイプの奇形腫という可能性もある。
音声記録や伝承内で語られているところによれば、フウセンガシラが破裂する際に発する声を聞いてしまった者から次のフウセンガシラが生えてくるという。
しかしフウセンガシラが奇形腫だと仮定すると、ただ単に音声を聞いただけで感染するとは考えづらい。恐らく実際には『死に声』と呼ばれている音声それ自体とは関係なく、それが聞こえるほどの近接距離にいる人間に対して、破裂時に撒き散らされた飛沫を介して感染するのであろう。
一般に、インフルエンザや梅毒などとは異なり、腫瘍には感染する病気というイメージは無いが、タスマニアデビルが感染するデビル顔面腫瘍性疾患のように感染性の腫瘍も報告されている。あるいは、子宮頸がんにおけるヒトパピローマウイルスや胃がんにおけるヘリコバクター・ピロリのように、ウイルスや細菌ががんを引き起こす例も存在することから、もしかするとこの奇形腫もなんらかの微生物の感染によって引き起こされており、破裂時に周囲の人間に感染するのは腫瘍自体ではなくその原因となっている微生物だという可能性も否定できない。
フウセンガシラの正体と同じくらい興味深いのは、それが最初、どこから来たのかという点である。この地域の伝承通り、廃集落の井戸の底がどこかへ繋がっており、そこから来たのだろうか。地震の際に断層のずれや洞窟の崩落などによって井戸の底が天然の洞窟等と繋がるというのは考えられない話ではないが、その洞窟の先にあるのが実際に桃源郷または地獄というのは現実的な想定ではないだろう。
光る石を携えていたという情報から推測するに、洞窟の先に桃源郷があると言った者は、金の鉱脈あるいは水晶や紫水晶などが立ち並ぶ地下世界を見て、そう表現したのではないだろうか。
では、洞窟の先にあるのは化け物の住む地獄だと証言した方の男が見たものは、いったい何だったのだろうか。こちらも推測になるが、恐らくは、洞窟固有の生物群ではないかと思われる。
外界との出入りが困難な洞窟内には他では見られない生物が生息していることがあり、そうした生物は光の無い環境に適応して目が退化していたりと独特の進化を遂げている場合もある。その姿は、見慣れぬ者の目にとっては恐ろしい化け物のように映ってもおかしくはないだろう。
ここで着目したいのは、フウセンガシラを最初に集落にもたらしたのは、洞窟の先にあるのは化け物の住む地獄だと証言した方の男だという点である。ここから推察するに、この男は洞窟の固有生物群と接触し、その際にフウセンガシラ発症の原因となるウイルス等に感染したのではないだろうか。
こうした一連の仮説を検討するため、近日中に、この■ ■村へ現地調査に向かう予定である。私の仮説が正しければ、新たな生物群や病原体を発見することとなり、大きな研究成果をあげられることだろう。
入手した音声記録や伝承の情報のみからでは推測は難しいが、現在私は、このフウセンガシラとは恐らく奇形腫(テラトーマ)の一種ではないかと考えている。
奇形腫とはある種の腫瘍だが、通常の腫瘍とは異なり、まるで出来損ないの人間のように毛髪や歯、骨、筋肉といった様々な組織を含んでいる。手塚治虫の作品「ブラックジャック」においては、この奇形腫を本体から切り離して繋ぎ合わせることで作られた人間であるピノコが登場するが、現実世界において知られている奇形腫は様々な組織を含んでいるとはいっても複雑な人体構造をきちんと形成するということはなく、ピノコのような人体全体は言うまでもなく、頭部ですら形成するようなことはない。
しかしながら、シミュラクラ現象からも分かるように、たとえきっちりとした頭部の構造を形成していない奇形腫であったとしても、人間がそれを顔のついた頭部と認識することは十分に有り得るのではないだろうか。あるいは、本当に頭部の構造を形成するこれまでに知られていないタイプの奇形腫という可能性もある。
音声記録や伝承内で語られているところによれば、フウセンガシラが破裂する際に発する声を聞いてしまった者から次のフウセンガシラが生えてくるという。
しかしフウセンガシラが奇形腫だと仮定すると、ただ単に音声を聞いただけで感染するとは考えづらい。恐らく実際には『死に声』と呼ばれている音声それ自体とは関係なく、それが聞こえるほどの近接距離にいる人間に対して、破裂時に撒き散らされた飛沫を介して感染するのであろう。
一般に、インフルエンザや梅毒などとは異なり、腫瘍には感染する病気というイメージは無いが、タスマニアデビルが感染するデビル顔面腫瘍性疾患のように感染性の腫瘍も報告されている。あるいは、子宮頸がんにおけるヒトパピローマウイルスや胃がんにおけるヘリコバクター・ピロリのように、ウイルスや細菌ががんを引き起こす例も存在することから、もしかするとこの奇形腫もなんらかの微生物の感染によって引き起こされており、破裂時に周囲の人間に感染するのは腫瘍自体ではなくその原因となっている微生物だという可能性も否定できない。
フウセンガシラの正体と同じくらい興味深いのは、それが最初、どこから来たのかという点である。この地域の伝承通り、廃集落の井戸の底がどこかへ繋がっており、そこから来たのだろうか。地震の際に断層のずれや洞窟の崩落などによって井戸の底が天然の洞窟等と繋がるというのは考えられない話ではないが、その洞窟の先にあるのが実際に桃源郷または地獄というのは現実的な想定ではないだろう。
光る石を携えていたという情報から推測するに、洞窟の先に桃源郷があると言った者は、金の鉱脈あるいは水晶や紫水晶などが立ち並ぶ地下世界を見て、そう表現したのではないだろうか。
では、洞窟の先にあるのは化け物の住む地獄だと証言した方の男が見たものは、いったい何だったのだろうか。こちらも推測になるが、恐らくは、洞窟固有の生物群ではないかと思われる。
外界との出入りが困難な洞窟内には他では見られない生物が生息していることがあり、そうした生物は光の無い環境に適応して目が退化していたりと独特の進化を遂げている場合もある。その姿は、見慣れぬ者の目にとっては恐ろしい化け物のように映ってもおかしくはないだろう。
ここで着目したいのは、フウセンガシラを最初に集落にもたらしたのは、洞窟の先にあるのは化け物の住む地獄だと証言した方の男だという点である。ここから推察するに、この男は洞窟の固有生物群と接触し、その際にフウセンガシラ発症の原因となるウイルス等に感染したのではないだろうか。
こうした一連の仮説を検討するため、近日中に、この■ ■村へ現地調査に向かう予定である。私の仮説が正しければ、新たな生物群や病原体を発見することとなり、大きな研究成果をあげられることだろう。

