人間が失踪した場合、特に成人の場合最も考えられるのが「自分の意思」での失踪だ。平たく言えば「ただの家出」である。幼い子供であればまず疑われるのが「迷子」であり、次点で「誘拐」だろう。一方成人の場合、たとえ突然姿を消したとしても、大人であるならば自分の意思で帰ることもできるだろうと考えられる。
高校生であったカナミは子供である一方で、自分の力で物事を調べ、行動を起こすことができる年齢でもある。加えて中学生のころから電車通学をし、友人と遠出をすることもあったのだ。電車を使うことに慣れており、一人で遠くへ出かけていくことも可能なのである。毎月の小遣いやお年玉を貯金しており、金銭面での制限はあっても当面の移動にかかる資金は持っていたと考えられる。仮に友人の家に泊まったとすれば宿泊代金もかからない。
それでもわたしはカナミは自ら望んでいなくなったわけではないと考えている。姉という立場上、そう信じたいだけなのだろうと思われるかもしれない。だが彼女には自らいなくなる理由がないのだ。以下にその根拠を挙げていく。
カナミには肝心の「家出をする理由」がないと考えられる。未成年の家出の理由として最も多いとされるのは家族関係の悪化であるが、先述したとおり大きな問題のない家庭だ。少なくともいなくなった時点において、カナミとわたしや両親との関係は良好であり、気がかりな点は見当たらない。(※1)
学校においても、カナミには特筆すべき事情や悩みがなかったと考えられる。わたし自身彼女と同じ高校に通っていたが、比較的穏やかな校風であり、問題行動をする生徒は身の回りにはいなかった。カナミ本人に問題行動があるという連絡が来た形跡もない。カナミと親しい友人であるマイさんとユキさんへ聞き取り調査をしたところ、カナミの様子は「いつもと変わらなかった」ことが読み取れる(資料1参照)。(※2)
隣家の北川アケミさんへの聞き取り調査においては、「高校生になっておしゃれを気にするようになった」ことがカナミの変化として挙げられている。それ以外の点については「もともと顔を合わせる機会が少ない」ことを考慮の上で、「変わったところは特に思いつかない」と答えた(資料2参照)。(※3)
聞き取り調査の結果、二〇■■年十一月二十八日より以前にカナミに姿を消すほどの理由はないと考えられる。突発的な理由でいなくなる可能性も否定はしないが、これについてもわたしは考慮に値しないと受け止めている。
カナミはそこにいるからだ。(※4)
※1 この家の問題はすべて姉を起因としている。
※2 変わらず存在しているのだから当然である。
※3 近所に迷惑をかけないでほしい。
※4 そうだよ。



