あなたには家族がいますか。
 
 家族とはどのような関係ですか。仲は良いですか。顔も見たくありませんか。幼い頃はどうですか。学生の頃はいかがですか。大人になってから変わったことはありますか。きょうだいはいますか。いませんか。そこにいますか。


◇ ◇ ◇ ◇


 わたしには妹がいる。名前はカナミだ。
 
 そのわたしの妹がいなくなってから、二〇■■年で早くも十四年という月日が経過した。(※1)
 
 最後に見た妹の姿は、いってきますと手を振って玄関を出ていく後ろ姿だ。いつもと変わらない金曜日の朝、彼女は高校に向かい、そのまま帰らなかった(※2)。ブレザーを着た背中を今でもよく覚えている。まさかこの日の朝がカナミと過ごす最後の朝になるとは、このときのわたしには思いもよらなかった。

 その日以来、わたしはずっとカナミを探している。未成年の行方不明者ということもあり、警察も当初は真剣にわたしの話に耳を傾けてくれていた。が、何の手がかりも得られなかった。今はもう警察は何もしてくれないだろう。これにかんして、わたしにも責任の一端はある。

 警察に対し、わたしは不躾であり無遠慮であり、決して善良な市民ではなかったであろう。妹を思っての言動だとしても、相手方の都合や心証を考慮できなかったわたしの不手際であり、遅きに失するとしても反省せざるをえない。(※3)

 やがて、親類知人たちもカナミの心配よりも、わたしの心配をし始めた。おそらく彼ら彼女らにとってのカナミの存在は、わたしにとってのカナミの存在と大きな隔たりがあるのだ。まさしく価値観の違いであり、共に成長し多くの時を過ごした姉であるわたしにしかわからない部分が多分にあるのだ。

 よって、わたしは自分の力でカナミを探すと決めた。親類はもちろん、妹の交友関係を辿り、心当たりのある人や場所には実際に足を向けて調査した。大学生であったわたしが社会人となってからも、折を見ては探し続けた。

 しかしカナミの消息はこの十四年間、まったくわからないままである。

 この手記は、わたしが今日まで集めてきたカナミの情報をまとめたものだ。擱筆ののちは、関係各所への提出も考えている。おそらくわたしだけでなく、カナミを思うすべての人々にとって有益な文書となるだろう。十四年間の集大成と位置づけている。

 しかし手記を残すと決めた端緒は、カナミの情報をわたしなりに整理したい、という個人的なものだ。こうして文字にすれば、客観的に精査できるかもしれないと期待を込めている。

 本手記の構成は以下である。
 
 第一章ではカナミの人となりについて簡単に紹介する。彼女がどのような人物であるのか、その交友関係、また失踪当日の行動についても説明する。

 第二章ではカナミが姿を消した原因について考察する。自らの意思による失踪、事件性の有無、怪異性の有無にも言及する。

 第三章では第二章で至った結論について、さらなる推論と検証を展開する。本手記で核となる部分である。これを読んだ人には、ぜひ身近な問題として捉えてほしい。他人事ではないからだ。

 そして第四章では「とりか駅」にたどり着くために、異世界に行く方法を実験していく。

 また資料としてインタビューの文字起こしを巻末に入れた。


 本手記によって妹が帰ってくることを心より願っている。

 再会のときを、二〇■■年から先の未来まで、いつまでも待っている。


 二〇■■年 十一月二十六日 高橋ナツミ(※4)



 
 ※1 虚偽である。
 ※2 筆者は現在も両親と同居している。
 ※3 姉の言動は常軌を逸していた。当然の帰結だ。
 ※4 姉は既に死亡している。