場所 駅前 ファミリ―レストラン「■■■■■■■」
日時 二〇■■年二月二十七日
対象 北川アケミさん(仮名)
北川さんとは顔を合わせれば挨拶をする程度の間柄である。が、幼い頃わたしやカナミが家の鍵を忘れて困っているところを家にあげてくれたこともあり、互いの家族構成も知っている良好な関係である。
わたし「今日はお時間をいただきありがとうございます」
北川「いいえ、大丈夫。こういうの初めてだよね。本当にお茶ごちそうになってもいいの?」
わたし「はい。少しお聞きしたいことがありまして。カナミのことなんですけど」
北川「カナミちゃん? あ、ああ……(視線を下に向けて)そのことね」
わたし「カナミに変わったこととか、気がついたこととかありませんか?」
北川「あー……うーん。わたしもそんなにしょっちゅう顔を合わせるわけじゃないから。変わったところね……(窺うようにこちらを見る)」
わたし「何か心当たりがありますか?」
北川「あ、そのね(笑って)カナミちゃん、高校生になってからおしゃれに目覚めたのかなって思ってたの。前に学校帰りのカナミちゃんに会ったら、お友達とメイク道具見に行ってたって聞いて。あんなに小さかったのに、もうお化粧かってびっくりするやらでね。子供って本当に早いよねえ。カナミちゃん、昔はぽやっとしてて、おしゃれとか興味なかったでしょ? 大人になってるんだなあって」
わたし「そうですね。他に気になることはありませんか? カナミのことだけではなく、他のこととか……最近変わった人を見たとかでも」
北川「不審者ってこと? この辺りはそういうのめったに聞かないけどなあ」
わたし「たとえばなんですけど、カラフルな人とか見たことありますか? 近隣でなくとも、出かけた先で見たとかありますか? 特に電車の中で……」
北川「カラフルって、服装がってこと? 雰囲気? んーでも、そんなカラフルだなあって思う人見たことはないかな?」
わたし「そうですか……」
北川「(冗談めかすような口ぶりで)気になるのはカナミちゃんよりも、ナツミちゃんなんだけどね」
わたし「というと?」
北川「カナミちゃんのことが心配なのはよくわかるんだよ。でもね、ナツミちゃんのこともこっちから見てると心配っていうか……。悩みとか心配事があるなら」
わたし「わたしはカナミのことについて伺っているんです。わたしのことは、気にしないでください」
北川「うーん、でも……」
わたし「今日はありがとうございました。このあとも調べる予定があるので、これで失礼します。あ、お茶代はわたしが支払いますので……」
北川「あ、待って。このことナツミちゃんのお母さんにも……ねえナツミちゃん……」(※1)
以上が聞き取った内容である。
カナミは気安い間柄でなければ踏み込んだ話はしないが、北川さんは話好きで人当たりがいいこともあり、個人的な話もしていたことが窺える。また、北川さんは塾講師もしており十代の子供の対応にも慣れている。その北川さんの目にもカナミの異変を悟ることができていないのだ。(※2)
やはり姉妹でなければわからないことがあるのだろうか。(※3)
※1 姉の奇行を北川さんはもう知っていて、後日母にこの聞き取り内容について聞いてきた。
※2 第三者が見てもその異常性が目立っていたんだろうね、北川さんは心配するよりも怖かったみたい。
※3 どのような関係性でもね、自分以外の人間にわからないことがあるのは自然なんだよ。



