異世界に行く方法とされるものはいくつかある。「とりか」駅が現在わたしたちが暮らす世界と異なる世界だとすれば、異世界に行くことにより「とりか駅」にたどり着くことも可能なのではないだろうか。

 そこで、異世界に行く方法について聞き取り調査を行うことにした。
 
 実施期間は二〇■■年七月一日から三日を設定した。時刻は十七時半から二十時までとする。
 調査場所は自宅最寄り駅である■■■駅付近とする。
 調査対象は駅の利用者二十五名、通行人二十五名をランダムに抽出した。
 質問内容は「異世界に行く方法を知っていますか。人から聞いたものでも、インターネット上で見聞きしたものでも構いません」とする。

 では回答数が多い順に記載する。カッコ内は回答者数であり、複数回答した場合もそれぞれの回答者数としてカウントしている。
 
 ・正方形の紙に赤いペンで「■■■」と書いて眠る。(十三名)(※1)
 ・エレベーターを利用する。(十二名)(※2)
 ・電車を使う。(十名)(※3)
 ・明晰夢を使う。(九名)(※4)
 ・合わせ鏡を使う。(七名)(※5)
 ・「■■様」に会う。(七名)(※6)
 ・神社(■■県■市■■神社/■■府■■区■■■■神社など)に参拝する。(五名)(※7)
 ・学校のライン引きで校庭に丸を書く。(一名)(※8)
 ・放課後の教室でこっくりさんにお願いをする。(一名)(※10)
 ・音楽室で一人で「■■■■■■」を歌い、最後に「■■■■■」と唱える。(一名)(※11)
 ・月に向かって行きたい世界を唱える。(一名)(※12)
 ・お守りの中に「■■■■」と書いた紙を入れ、常に持ち歩く。(一名)(※13)
 ・行きたい世界を書いた紙を指輪状にして指にはめる。(一名)(※14)
 ・「■■■■■■」と手首に描いて眠る。(一名)(※15)
 
 以上の結果となった。なお、最も多かったのは、「異世界に行く方法を知らない」と答えた二十三名である。回答者の中で一名「■■様」に会う方法を実行したそうだが、失敗したとのことだ。他の回答者は知ってはいるものの実行した者はいなかった。

 最も回答者数が多いのが、紙に■■■を描き、中央に「■■■」と書いて眠る方法である。二〇■■年■月五日、インターネット上の掲示板に書き込まれたのが初出と考えられる。下準備が少なく手軽な方法であるが、危険を伴うともされているようだ。(※16)

 次に多かったのがエレベーターを利用する方法だ。二〇■■年春にはインターネット上の掲示板に書き込まれているのが確認されている。具体的な方法は、■階以上ある建物のエレベーターに一人で乗り込み、■、■、■、■、■階に移動する。この際別に誰かが乗り込んだ場合やり直すこととなる。■階に着いたら乗ったまま■階■■■■■。■階では女性が乗ってくるが、彼女には話しかけずに■階■■■■■■。■階に着いたら乗ったまま■階に■■■。■■■に別の階で止まると失敗とみなされる。■階を過ぎれば成功とされている。

 ただし女性が乗ってくる階数にかんしては、回答者によって変わる場合もあった。インターネット上の転載ではなく口によって伝播する内に、内容に若干のゆれが現れた可能性が高いだろう。(※17)

 電車を使うという方法も存在しているようだ。二〇■■年■月十一日にインターネット上の掲示板に書き込みがあったとされている。また、正確には異世界ではなく「■■■■■方法」として伝わっているようだ。具体的な方法は以下である。■■■駅から■■■線に乗り■■■駅で下車したのち、■■■方面の■■■■■に置かれている盛り塩を蹴散らす。その後■■線に乗り換え■■■■駅で降り、■■■■線乗り換え方面にある■■■■■の盛り塩を蹴散らす。次に■■線に乗り■■■駅で降り、■■出口にある■■■■に米を■粒撒く。■■■線に乗り換え■■駅で下車し、■■■■■方面の■■■■■の塩を同様に蹴散らす。■■■線に乗り目を閉じ、一番の望みを考えながら■■■■電車を乗り続けることで、■■■■■とされている。

 こちらは乗車駅や利用路線に変化は見られなかったが、撒く米粒の数について異なる回答が得られた。工程がやや複雑とはいえ地名といった固有名詞にゆれがなく、米粒の数にだけゆれが生じたようだ。手順の中で唐突に現れた米粒の存在は印象深く感じられるものの、数の記憶が曖昧になるのは工程を確認することに注意が向くためかもしれない。(※18)

 明晰夢を利用する方法も多かった回答だ。明晰夢とは夢の中でそれが夢だと気づくことで、その内容を自由に操作できる人もいるという。明晰夢の中の世界に入り込むことで、今いる世界から別の夢の中の世界へと転移するようだ。その場所が異世界であるという回答と、自分自身の過去の世界という回答の大きく二種類の結果を得られた。後者の場合でも以前の世界とは異なる点があるとされているため、同一ではない一種の異世界であるともいえるだろう。(※19)
 
 その他の回答も興味深いが、いわゆる「学校の怪談」に分類される方法も見られた。実際に試したという回答者がいた「■■様」は二〇■■年からインターネット上で見られるようだが、初出は確認できなかった。

 異世界に行く方法は多数認知されていることがわかる。しかし、知らない回答者が最も多かったことも事実である。(※20)

 これらの回答から、上位四つと手順が簡単だと思われるものを実際に試すこととした。



 ※1 おしい。
 ※2 おしい。
 ※3 うそ。
 ※4 半分うそ。
 ※5 うそ。
 ※6 可愛いうそ。
 ※7 少しちがう。
 ※8 うそ。
 ※9 少しちがう。
 ※10 別のもの。違う場所に行くんじゃない。
 ※11 別のもの。違うものを呼ぶ方法。
 ※12 うそ。
 ※13 別のもの。違うものから逃れる方法。
 ※14 おしい。
 ※15 びっくり。がんばって。
 ※16 書き足すとあぶなくない。
 ※17 あと少し下りればいいのにね。おすすめは地下。
 ※18 それは白米?
 ※19 夢ってね、夢なんだ。
 ※20 普通の人はわざわざ行こうって思わないよ、この世を去るほうが確実で早いもの。