「とりか駅」にはどのようにすればたどり着くのだろうか。
「とりか駅」に行くことによって、カナミの身に何が起きたのかを明らかにできるのではないだろうか。
わたしはカナミが利用していた地下鉄■■線に乗り、とりか駅の捜索を試みた。
まず「とりか駅」という名称の認知度を確かめるため、カナミが最後に乗り換えに利用していたと思われる■■■駅において、聞き取り調査を実施した。■■■駅は五つの路線が入っており、その一日の平均利用者数は合計で約■■万人に及ぶ。
実施期間は二〇■■年六月一日から七日の一週間を設定した。時刻は十八時から二十二時である。
調査対象は未成年男性、未成年女性、成人男性(二十から六十歳)、成人女性(二十から六十歳)、高齢男性(六十一歳以上)、高齢女性(六十一歳以上)、各年代ごとに三十名を歩行者からランダムに抽出した。
質問内容は「とりか駅という駅を聞いたことがありますか」とし、知っていた場合「どこで聞きましたか。行ったことはありますか」とする。
「とりか駅という駅を着たことがありますか」の問いに対する結果は以下である。(単位/人)
未成年男性 〇
未成年女性 〇
成人男性 一
成人女性 〇
高齢男性 〇
高齢女性 〇
合計一八〇名中、「とりか駅」を聞いたことがあると答えたのは成人男性一名という結果となった。「とりか駅」の知名度は相当に低いことは明らかである。「とりか駅」を知らないと答えた人の回答を一部紹介する。
「聞いたことないですね。でも電車にそれほど詳しくないので、知らないだけかもしれないです」(十代男性)
「■■線と■■■線通学で使ってますけど、とりか駅は知らないです。でもいつも乗らない路線にならあるかもしれないです」(十代女性)
「存じ上げませんね。■■線の取■駅ならわかりますけど、違うんですよね」(三十代男性)
「とりか駅ですか……知らないです。普段使う区間のことしかよくわからないですし」(四十代女性)
「昔あった駅とかですか? わたしは知らないですね」(八十代男性)
「いろんな場所に旅行行ったけど、ちょっと知らないです」(七十代女性)
このように、聞き覚えのない駅に対しては「自分が使用する路線や駅以外のことはわからない」と説明することが多かった。■■線の取■駅ではないのかと答えた人は三十八名いたが、「とりか駅」で間違いがないことを再度説明すると「わからない」という回答を得られた。(※1)
次に「とりか駅」を聞いたことがあると答えた成人男性一名の回答である。
「とりか駅、聞いたことがありますよ。あのー、書いた人の名前は忘れたんですけど、本で読んだことあります。女の人に切符みたいなの渡されそうになるっていう。あれですよね、『■■■■駅』の派生版みたいなやつ。そういうの好きなのでたまに読むんですよ」
この回答ののちにわたしが滝沢美紀の著書を見せると、男性は確かにこの本を読んで知ったと答えた。ただし信憑性は低く、創作物として捉えているようだ。男性から「本当にあると思いますか?」と問い返された。わたしが肯定的に捉えていることを知ると、「創作でしょう」と懐疑的な態度を明らかにしていた。(※2)
以上の結果から、「とりか駅」の知名度は著しく低く、また聞いたとしても滝沢の著書による知識でしかないことがわかる。「とりか駅」に迷い込んだという体験者も発見できなかった。またカナミと滝沢のように電車内で「目に鮮やかなカラフルな人物」と遭遇したという話を聞くこともなかった。
「とりか駅」にたどり着く方法はあるのだろうか。(※3)
わたしは二〇■■年十一月二十八日、地下鉄■■線■■駅において、カナミが乗車した電車と同時間帯の車両に乗り「とりか駅」を目指した。カナミが乗車した正確な時刻が不明な上、時刻表も改正されていたため再現度は下がってしまうが誤差の範囲を目標とした。乗車したのは■■駅十五時三十三分発■■■駅行きの各駅停車である。
カナミは最後尾に乗車していたため、同様に最後尾に乗った。学生の下校時間帯であるが、空席も目立ち比較的空いている印象であった。滝沢が座席に座っていたと示していたことから、わたしも席に座り観察を続けた。■■■駅は五駅先である。途中停車するたびに乗客は増えた。降車する客よりも、乗りこむ客が多いようだ。
カナミは■■■駅より前に「カラフルな人」を目撃している。そしてそれは自分自身だと推定できる風体だと考えられる。よって、わたしは自分と背格好の似ている女性を注意深く観察していた。乗車中似ている女性は複数確認できたが、いずれも「カラフル」とも「目に鮮やか」とも感じられなかった。
結果的にこの日■■■駅に到着するまでに、「カラフルな人」を発見することはできなかった。それが原因かは断定できないものの、「とりか駅」にたどり着くこともできなかった。(※4)
同年十二月十日、再度乗車を試みた。カナミと滝沢の体験談は時期に違いがあり、月や日付にはとらわれない可能性を踏まえた。ただし時刻は両者共に夕刻であるため、十五時から十九時までの間に絞っている。乗車駅は前回と同じであるが、今回は乗り換え駅である■■■駅に到着しても「とりか駅」でなかった場合、乗車駅である■■駅まで戻り再度■■■駅を目指すこととした。
片道約十五分かかるため、ホーム間の移動を含め往復で約三十分となる。実施日に大きな遅延や運転中止はなく、約四時間の間に実際に乗車できたのは八度である。
一度目(十五時三十三分発)
前回と同じ時刻の車両である。乗客数に大きな変化はない。座席に座り様子を窺うも、「カラフルな人」の発見には至らなかった。■■■駅到着後変化は見られず、反対方向に向かう車両に乗り換えた。(※5)
二度目(十六時八分発)
乗客数は増えた印象だ。空席はあまり見られず、扉の横に立っている乗客も複数確認できる。今回は「カラフルな人」を探すため、カナミが移動した隣の車両までを観察範囲とした。結果は両車両で発見に至らず、「とりか駅」にたどり着けなかった。引き返すこととする。(※6)
三度目(十六時三十五分発)
乗車が駆け込みとなるが、カナミも来た電車に乗ったとメールしている。彼女も駆け込み乗車となった可能性が高い。あきらかに乗客数が増えており、「カラフルな人」が仮にいたとしても発見は困難だろう。二度目同様隣の車両も捜索したが発見できなかった。引き返すこととする。(※7)
四度目(十七時五分発)
ついに空席は見られなくなった。座席前に立つ乗客が散見される。今回は車両を移動せずに観察をしたが、「カラフルな人」に出会うことはできなかった。何か別の要因や条件があるのだろうか。引き返すこととする。(※8)
五度目(十七時三十八分発)
多くの乗客が確認できる。今回は隣の車両に限らずすべての移動しながら観察をした。■両ある中で、乗り換えの際利便性の高い車両は混雑が見られるが、それ以外の車両については比較的空いていることを確認した。「とりか駅」に至らなかったため、引き返すこととする。(※9)
六度目(十八時十三分発)
今回は最後尾ではなく、空いていた■両目に乗車した。カナミも滝沢も車内が混雑した状況下ではなかったことが理由である。観察はしやすくなったが、「カラフルな人」には出会えず引き返すこととする。(※10)
七度目(十八時四十四分発)
六度目同様に空いている車両に乗り込む。カナミと滝沢が携帯電話を操作していたことから、乗車中メール画面に文章を打つ作業をしていたが「カラフルな人」を見ることはなかった。引き返すこととする。(※11)
八度目(十九時十七分発)
空いている車両に乗り込む。乗客数に大きな変化は見られない。携帯電話も使用し、今回は父にメールを送る変化も加えた。しかし「カラフルな人」は発見できなかった。引き返すことはせず、■■■駅で通常どおり乗り換え帰路についた。無事帰宅に成功した。(※12)
八度の挑戦すべてで、「目に鮮やかなカラフルな人物」を発見することができなかった。「とりか駅」への切符を持つその人物に出会えなければ、駅に入ることもできないのだろう。
滝沢とカナミの共通点は、乗車したのが夕刻であること、車両が比較的空いていること、携帯電話を使用していたこと、乗り換え駅を目指していたこと、そして女性であることの五点だと考えられる。わたしはその条件すべてを揃えたが、「とりか駅」にたどり着くことはできなかった。
つまりこれらの条件を満たしたとしても、「カラフルな人」に出会うことも「とりか駅」に行くこともできないのだと考えられる。佐々木が定義したように、条件などはなくひたすらに巻き込まれるだけであり、わたしたちの側からは操作できないものなのかもしれない。(※13)
■■■駅における実地調査は以上となる。
次はインターネット上で確認されている、異世界に行く方法には何があるのかを調査した結果を記す。
※1 普通はそうね。
※2 普通の人。
※3 ある。
※4 会えないなら行けない。
※5 ざんねん。
※6 まちがってる。
※7 探せばいたかもね。
※8 探されてないから。
※9 ざんねん。
※10 簡単じゃないの。
※11 探すといない。
※12 探すからいない。
※13 せいかい。



