突然すみません。
 このようなチラシを投函されて不気味に思ったことでしょう。
 しかしこれはイタズラなどではありません。
 真剣なお願いなのです。

 ██市にある私の家を貰っていただけないでしょうか。
 お金はいりません。
 ご希望なら差し上げます。
 百万円くらいなら用意できます。
 だから家を引き取ってくれませんか。

 私はもう限界です。
 五年前までは夢のマイホームでした。
 ローンもあり、決して裕福な暮らしとは言えませんでしたが、間違いなく幸せでした。

 家族があんな目に遭わなければ、今もそう思っていたことでしょう。

 最初に死んだのは息子の竜太です。
 竜太はスニーカーが喉に詰まって死んでいました。
 眼球の隙間からはみ出た靴紐を見た時、私は気を失ってしまいました。

 次に死んだのは妻の奈々です。
 奈々は冷蔵庫に首を挟んで死んでいました。
 痙攣する手足が床を鳴らす音……まだ耳に残っています。

 最後に死んだのは娘の宇海です。
 宇海は押し入れで干からびて死んでいました。
 数時間前までテレビを観ていたはずなのに、そんなことになりました。

 これは天罰でしょうか。
 私が何をしたというのですか。
 罰にしても、あまりに惨すぎる。
 理不尽極まりないことです。

 私は家を手放したい。
 あそこに暮らしていると気が狂いそうになる。
 だからお願いです。
 家を貰ってください。








 玄関にはヒラサカマリがいます。
 廊下にもいました。
 トイレにも潜んでいる時があります。
 リビングと台所にもヒラサカマリはいます。
 戸棚や床下収納も気を付けてください。

 警戒してれば、きっと、おそらく、大丈夫でしょう。
 まったく絶対に問題ありません。
 どうぞ、お気軽に。

 連絡先
 ███-████-████


 お待ちしてます。


※この訃報はフィクションです。