皆さんはじめまして、菊池ジョニーといいます。私は趣味で本を書いていて、よく小説のネタ探しと趣味の散歩を兼ねて東京をぶらつくことがあります。
最近、秋葉原で不思議な体験をしました。また同じような目に会ってしまうように感じられ、この事を話すのは気が引けるのですが、この不可解な体験をどなたかに聞いていただきたいと思い今回筆を取りました。
この日、私は地下鉄に乗って好きな作家さんの同人誌を買おうと思い、秋葉原に来ていました。私は秋葉原の電気とオタクに溢れたエネルギッシュで喧騒感溢れる街並みに一度来てから心奪われ、それ以降ここ秋葉原を贔屓にしていたのです。
末広町駅近くの行きつけの油そばの店で昼食をとり、秋葉原まで歩くのが私のルーティンとなっていました。この日も昼食を取り、一駅隣りの同人誌ショップで待っている一冊一冊に思いを馳せ、居ても立っても居られずに早速歩き出しました。食事直後に歩くとお腹が痛くなる時もありますが、今日のような楽しみが向こうに待っている時はちっとも痛くならないのは不思議やな、と思いつつヘッドホンで好きな曲を聴きながら歩いて行きました。最初は軽快に足を進めていたのですが、しばらくするとあれ、と思いました。というのも、普段なら10分かからずに着く距離のはずなのにすでに店を出てから15分程経過しており、しかも全く見知らぬ路地に入り込んでしまっていたのです。でも、そこまで焦ってはいませんでした。何故ならお恥ずかしながら、私は地図を読むのが苦手でして、度々迷うことがあったのです。その上持ち前の能天気とヘッドホンから流れてくる明るい曲も相まって「まぁ、気のせいだろ、なんとかなるべぇさ」という明るいマインドでいました。
しばらく歩いて行くと、路地を抜け通りに出ました。すると流石の私でもおかしいことに気がついたんです。行った日は土曜日。休日の秋葉原なんてどんな通りにも最低でも2、3人は人がいるはず。しかし人影が一つもないのです。いよいよおかしいなぁ…と思って辺りを見渡していると、看板がひとつも何もないことに気づきました。秋葉原ですよ?ラーメン屋やら同人ショップやら雀荘やら電気屋やら色々な看板がひしめく秋葉原――都内のそれなりの人のいる通りに人っ子一人、看板1つ無いんです。しかもその通りの見た雰囲気は、知ってるいつもの通りにも見えるんです。やっぱり変だ、そう思いました。
自身に危険が迫ったら対応できるようにヘッドホンから音を消すと、カサカサって何かが動いた気がしました。でも、虫では無いんです。よくゴキブリだとかの動きをカサカサって表現するけど、全く違うものなんです。もっと大きな、それこそ人間大のもの…。この時私は「まさか、人間大のGか⁉︎出てきたらびっくりだなぁ。これが本当のG○ョック」というしょーもないことを考える余裕を少し残していました。ヘッドホンをはずす。するとゴニョゴニョ声みたいなものが聞こえました。と言ってもセリフに起こす方法を私は知りません。言葉として成立しているのか怪しいように聞こえました。
「あ、ここにいたらヤバいな」私の中の野生の本能は感じ取っていたようです。体は自然と後ろを向いて戻って行きました。すると、さっきのカサカサという雰囲気が追って来てるんですよ。でも早くはないんです。いや、もしかしたらヤツが本気を出したらすぐ捕まえられるから、本気を出していないだけなのかも、と競走馬に鞭打つジョッキーの如くに迫る怖さを自分自身で煽って走る糧にしていました。さっきの路地目指して競歩のように進み、路地に入りました。すると、急にカサカサって気配が速くなったんです。カサカサカサカサって。私は怖くなって足を速めました。するとカサカサカサカサカサカサカサカサ。もっと速くするとカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ…。足を遅める勇気はありませんでした。私は足を速めた自分を恨みました。道は平坦でしたが、長い時間小走りを続けていると足にこたえてきました。
だんだんキツくなってゆく中、私は気配が速くなると、例のゴニョゴニョ声の話す速度も速くなっていることに気づきました。もう怖くって怖くって、いい歳して泣きそうでしたよ。何回も転びそうになりながら、昼ごはんを戻しそうになりながら走りました。路地はさっきよりも入り組んでいるようでした。スッとオレンジ色のカーブミラーが整然と並んで群生しているエリアに辿り着きました。正直に言うと、もう助からないと思いました。何故なら、この道に入る時にこんなミラーの並んだ場所なんて通っていなかったからです。迷宮に迷い込んだ気分ですね。すると、ミラーに写って、見えちゃったんです。追ってきてるヤツが。嫌でも見えますよ。走り疲れて息が切れそうで天を仰ぐとき、目の前にピカピカに磨かれた(よく考えると、そんなミラーって都内はおろか地方でも見たことありません)カーブミラーが整列しているんですもん。
見て、後悔しました。昼食後走って吐きそうなところに、あんなもの見ちゃったんですから。人でした。でも、人じゃなかったんです。人の身体に長い長い手、いや脚、脚です。足じゃなくて脚が生えてるんです。トイレットペーパーの芯ぐらいの細さのカニのような脚が、四肢のない人間の胴体から生えているんです。そして顔は…真っ白でした。それ以外はわからなかったですね。なんといいますか、マネキンといいますか。年齢も性別も分からない、そもそも目や口が開いてるのか、付いているのかすら分からないような顔でした。ただ、眼だけは真っ赤でした。ドス黒く変色しかけている人血みたいな、吐き気を催す、冒涜的な色でした。
そいつがブツブツと低い声で何か言いながら追いかけてくるんです。足が小中高校の頃から遅い方だった私は恐怖と疲労でもう何も考えられなくなっていました。そんな私を追い詰めるように相手は6本脚でカサカサカサカサ追ってきていました。すると幸運なことに例のカーブミラーゾーンを抜けると、ジグザグと折り曲がった細い小道に入りました。相手は細いところでは小回りが効かないようで、少し気配が遠くなるのを感じました。すると、別の声が…いや音、音です!聞こえてきました!あの、秋葉原の雑踏の音です。広告車や流れるアイドルやアニメの歌、ああ、懐かしのアキバ、いや人間のいるところ!路地の向こうには、人がいます。スーツ姿だったり、いかにもオタクという雰囲気を醸し出す者、また道行く人にビラを配る者…。
しかし、最後の路地は急に直線になりました。人が見えてホッとして気が抜けたせいか、ジグザグの路地を利用して約3メートルほど引き離したヤツがどんどん近づいてくるのを感じました。ああ、ヤバい…間に合ってくれッ…!
ゴドッ
転びました。痛い。ああ…痛い…。夢ではないと実感しまs…カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
耳元でヤツがこう言っていました。
「待テッてバァ」
ハァハァハァハァ…。肩で息をしていました。天井。病院ではない、見慣れた部屋の天井。夢…か…。窓の外は少しづつ、白んで来ているのがカーテンから漏れる光で分かりました。よく見る私の部屋。そう、夢だったのです。よ、よかった…。
「捕マェタゾォ」
気絶していました。
どのくらい経ったのか、目を覚ますと部屋の中に明るく温かい日差しに満ちていました。私はそんなことよりも部屋の中にヤツがいるのではないかと不安で不安で、念入りに探しました。しかし見つけることはできませんでした。最も見つけたところで何もできないわけですが。後で親に言っても、私の参加してる同人サークルのメンバーに言っても信じてもらえませんでした。
皆さん、「なんだ、こうゆうオチかよwよくあるヤツじゃあねーか」って思っているでしょ?違うんです。まだ続きがあるんです。
しばらくすると、私は個人的な用事でこの事をわすれるぐらい忙しくなりました。そして約2、3ヶ月は過ぎた頃、用事が落ち着いた私は秋葉原にいました。この日は先に買い物を済ませ、例の行きつけの油そばの店を目指してヘッドホンで曲を聴きながら向かっている最中でした。5、6人の人がいる秋葉原の普通の通り。ふと横に目をやると変な路地がありました。最初の数メートルほどは真っ直ぐなんですが、急に直角に近いカーブになっていました。見ていると、あのときの夢を思い出しました。と言いますか、そっくりなんです。あの夢のあの路地だと確信しました。嫌だなぁと思っていると、カサカサ!あっ!と思って足元を見るとゴキブリでした。な、なんだぁ…ま、まぁ夢だもんな…
「ホン当ニ夢だッたカタシかメテみよウか?」
ゾワッとしました。まさか、耳元で聞こえるなんて…ヘッドホンのノイキャン、オンにしていたのに。
ちなみに、ヤツの声はこれを書いている今も聞こえています。正直、3ヶ月もこうやって私にへばりついて耳元で囁かれていると人間、慣れてしまうものですね。
最近、秋葉原で不思議な体験をしました。また同じような目に会ってしまうように感じられ、この事を話すのは気が引けるのですが、この不可解な体験をどなたかに聞いていただきたいと思い今回筆を取りました。
この日、私は地下鉄に乗って好きな作家さんの同人誌を買おうと思い、秋葉原に来ていました。私は秋葉原の電気とオタクに溢れたエネルギッシュで喧騒感溢れる街並みに一度来てから心奪われ、それ以降ここ秋葉原を贔屓にしていたのです。
末広町駅近くの行きつけの油そばの店で昼食をとり、秋葉原まで歩くのが私のルーティンとなっていました。この日も昼食を取り、一駅隣りの同人誌ショップで待っている一冊一冊に思いを馳せ、居ても立っても居られずに早速歩き出しました。食事直後に歩くとお腹が痛くなる時もありますが、今日のような楽しみが向こうに待っている時はちっとも痛くならないのは不思議やな、と思いつつヘッドホンで好きな曲を聴きながら歩いて行きました。最初は軽快に足を進めていたのですが、しばらくするとあれ、と思いました。というのも、普段なら10分かからずに着く距離のはずなのにすでに店を出てから15分程経過しており、しかも全く見知らぬ路地に入り込んでしまっていたのです。でも、そこまで焦ってはいませんでした。何故ならお恥ずかしながら、私は地図を読むのが苦手でして、度々迷うことがあったのです。その上持ち前の能天気とヘッドホンから流れてくる明るい曲も相まって「まぁ、気のせいだろ、なんとかなるべぇさ」という明るいマインドでいました。
しばらく歩いて行くと、路地を抜け通りに出ました。すると流石の私でもおかしいことに気がついたんです。行った日は土曜日。休日の秋葉原なんてどんな通りにも最低でも2、3人は人がいるはず。しかし人影が一つもないのです。いよいよおかしいなぁ…と思って辺りを見渡していると、看板がひとつも何もないことに気づきました。秋葉原ですよ?ラーメン屋やら同人ショップやら雀荘やら電気屋やら色々な看板がひしめく秋葉原――都内のそれなりの人のいる通りに人っ子一人、看板1つ無いんです。しかもその通りの見た雰囲気は、知ってるいつもの通りにも見えるんです。やっぱり変だ、そう思いました。
自身に危険が迫ったら対応できるようにヘッドホンから音を消すと、カサカサって何かが動いた気がしました。でも、虫では無いんです。よくゴキブリだとかの動きをカサカサって表現するけど、全く違うものなんです。もっと大きな、それこそ人間大のもの…。この時私は「まさか、人間大のGか⁉︎出てきたらびっくりだなぁ。これが本当のG○ョック」というしょーもないことを考える余裕を少し残していました。ヘッドホンをはずす。するとゴニョゴニョ声みたいなものが聞こえました。と言ってもセリフに起こす方法を私は知りません。言葉として成立しているのか怪しいように聞こえました。
「あ、ここにいたらヤバいな」私の中の野生の本能は感じ取っていたようです。体は自然と後ろを向いて戻って行きました。すると、さっきのカサカサという雰囲気が追って来てるんですよ。でも早くはないんです。いや、もしかしたらヤツが本気を出したらすぐ捕まえられるから、本気を出していないだけなのかも、と競走馬に鞭打つジョッキーの如くに迫る怖さを自分自身で煽って走る糧にしていました。さっきの路地目指して競歩のように進み、路地に入りました。すると、急にカサカサって気配が速くなったんです。カサカサカサカサって。私は怖くなって足を速めました。するとカサカサカサカサカサカサカサカサ。もっと速くするとカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ…。足を遅める勇気はありませんでした。私は足を速めた自分を恨みました。道は平坦でしたが、長い時間小走りを続けていると足にこたえてきました。
だんだんキツくなってゆく中、私は気配が速くなると、例のゴニョゴニョ声の話す速度も速くなっていることに気づきました。もう怖くって怖くって、いい歳して泣きそうでしたよ。何回も転びそうになりながら、昼ごはんを戻しそうになりながら走りました。路地はさっきよりも入り組んでいるようでした。スッとオレンジ色のカーブミラーが整然と並んで群生しているエリアに辿り着きました。正直に言うと、もう助からないと思いました。何故なら、この道に入る時にこんなミラーの並んだ場所なんて通っていなかったからです。迷宮に迷い込んだ気分ですね。すると、ミラーに写って、見えちゃったんです。追ってきてるヤツが。嫌でも見えますよ。走り疲れて息が切れそうで天を仰ぐとき、目の前にピカピカに磨かれた(よく考えると、そんなミラーって都内はおろか地方でも見たことありません)カーブミラーが整列しているんですもん。
見て、後悔しました。昼食後走って吐きそうなところに、あんなもの見ちゃったんですから。人でした。でも、人じゃなかったんです。人の身体に長い長い手、いや脚、脚です。足じゃなくて脚が生えてるんです。トイレットペーパーの芯ぐらいの細さのカニのような脚が、四肢のない人間の胴体から生えているんです。そして顔は…真っ白でした。それ以外はわからなかったですね。なんといいますか、マネキンといいますか。年齢も性別も分からない、そもそも目や口が開いてるのか、付いているのかすら分からないような顔でした。ただ、眼だけは真っ赤でした。ドス黒く変色しかけている人血みたいな、吐き気を催す、冒涜的な色でした。
そいつがブツブツと低い声で何か言いながら追いかけてくるんです。足が小中高校の頃から遅い方だった私は恐怖と疲労でもう何も考えられなくなっていました。そんな私を追い詰めるように相手は6本脚でカサカサカサカサ追ってきていました。すると幸運なことに例のカーブミラーゾーンを抜けると、ジグザグと折り曲がった細い小道に入りました。相手は細いところでは小回りが効かないようで、少し気配が遠くなるのを感じました。すると、別の声が…いや音、音です!聞こえてきました!あの、秋葉原の雑踏の音です。広告車や流れるアイドルやアニメの歌、ああ、懐かしのアキバ、いや人間のいるところ!路地の向こうには、人がいます。スーツ姿だったり、いかにもオタクという雰囲気を醸し出す者、また道行く人にビラを配る者…。
しかし、最後の路地は急に直線になりました。人が見えてホッとして気が抜けたせいか、ジグザグの路地を利用して約3メートルほど引き離したヤツがどんどん近づいてくるのを感じました。ああ、ヤバい…間に合ってくれッ…!
ゴドッ
転びました。痛い。ああ…痛い…。夢ではないと実感しまs…カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
耳元でヤツがこう言っていました。
「待テッてバァ」
ハァハァハァハァ…。肩で息をしていました。天井。病院ではない、見慣れた部屋の天井。夢…か…。窓の外は少しづつ、白んで来ているのがカーテンから漏れる光で分かりました。よく見る私の部屋。そう、夢だったのです。よ、よかった…。
「捕マェタゾォ」
気絶していました。
どのくらい経ったのか、目を覚ますと部屋の中に明るく温かい日差しに満ちていました。私はそんなことよりも部屋の中にヤツがいるのではないかと不安で不安で、念入りに探しました。しかし見つけることはできませんでした。最も見つけたところで何もできないわけですが。後で親に言っても、私の参加してる同人サークルのメンバーに言っても信じてもらえませんでした。
皆さん、「なんだ、こうゆうオチかよwよくあるヤツじゃあねーか」って思っているでしょ?違うんです。まだ続きがあるんです。
しばらくすると、私は個人的な用事でこの事をわすれるぐらい忙しくなりました。そして約2、3ヶ月は過ぎた頃、用事が落ち着いた私は秋葉原にいました。この日は先に買い物を済ませ、例の行きつけの油そばの店を目指してヘッドホンで曲を聴きながら向かっている最中でした。5、6人の人がいる秋葉原の普通の通り。ふと横に目をやると変な路地がありました。最初の数メートルほどは真っ直ぐなんですが、急に直角に近いカーブになっていました。見ていると、あのときの夢を思い出しました。と言いますか、そっくりなんです。あの夢のあの路地だと確信しました。嫌だなぁと思っていると、カサカサ!あっ!と思って足元を見るとゴキブリでした。な、なんだぁ…ま、まぁ夢だもんな…
「ホン当ニ夢だッたカタシかメテみよウか?」
ゾワッとしました。まさか、耳元で聞こえるなんて…ヘッドホンのノイキャン、オンにしていたのに。
ちなみに、ヤツの声はこれを書いている今も聞こえています。正直、3ヶ月もこうやって私にへばりついて耳元で囁かれていると人間、慣れてしまうものですね。


