プロローグ


「島が見えるよ!」

ザサン、ザザンと響く海の波音の中に聞こえる彼の声に僕は振り向く。
そこには空で光る太陽に負けない笑顔で笑う彼がいる。

「ほんとに?」

期待を胸に首に掛けていた双眼鏡を持ち上げ、彼の指がさす方へとレンズを向けると、確かに山のようなこんもりとしたものが海に浮かんでいる。

この旅に終わりはない。

2人で行く旅にはたくさんの困難が待ち受けている。

それでも私たちはこの船に乗って今日という日を生きていく。

レンズの中では、2羽のカモメが肩を並べながら飛んでいる。




あたりまえ


物心ついた時には親が離婚していた。

母親に引き取られたものの彼女はすぐに再婚し、私が高校に上がったのをきっかけに新しい夫の家へと引っ越していった。

ただ、中学卒業まで面倒を見てくれたというわけでもなく、小学3年生の頃には家に誰もいないというのが普通だった。

今は母親から毎月10万円が入った茶封筒が月初めに家のポストに放り込まれていて、それとバイト代で家賃や食費をやりくりしている。