「ほら、起きろ」
呆れたような声に起こされて、俺は目を覚ました。ぼやけた視界の中に、佳都の綺麗な顔が映る。
「あ、目開けた」
彼はそう言って微笑んだ。頬の一部が、どこかから漏れた日光に照らされた。というか、距離が近い。
「どういう顔してんの、赤ちゃんみたい」
「……うるさい」
俺は前髪を整えて起き上がった。周りを見るともう誰もいない。よく見ると佳都も着替えを終えていた。目もぱっちりとしていて、きっと相当前に起きたのだろう。
「ひどいね、全然起きてこないからこうして来てあげたのに、うるさいなんて」
「あ……」
俺は近くにあったスマホを覗く。午前八時過ぎだ。もう皆ご飯を食べているのだろう。
「そっか……、それは、ごめん」
「べつにいいけど。起こすのにはそんな手間取らなかったし」
「あ、そう……」
「うん」
佳都はニヤけたような表情をしている。わざとらしく唇を触って、もじもじとしていた。なんだその感じ。まさか、いやそんなことは。きっとまたからかってる。
「逆に一回で起きちゃうから残念。もっと大人しくしてれば可愛かったのに」
「……なにしたの」
「なにが?」
「知ってるでしょ」
「言葉にしなきゃ分かんない」
むかつく。どうせ何もしてないくせに、意味深な匂わせばっかりだ。俺は体を起こす。早く身支度をしないと、今日はお祭りの日だ。
「逃げるんだ?」
「冗談には付き合ってらんないからね」
「そう、ならさ」
扉に向かう俺の手を、佳都が掴んだ。自然とそこに目が向き、彼と顔を合わせる。
「僕がもし、ほんとにキスしたって言ったら?」
彼の目はとろんとしていた。たまに見せる、変に脱力した表情。ずるい。こっちは彼の言動に振り回されてばっかりなのに、佳都は平気でこんなことを言う。
「いや? それとも、嬉しい?」
いやなわけない。でも嬉しいなんて言えない。言ったら変になる。これまで目を逸らし続けてきたものと対面しなきゃいけなくなる。それが俺は怖い。怖いから、彼の手を離した。
「もう、ご飯食べなきゃだから」
扉を開き階段を下る。その時ふと、湊くんの言葉が脳裏によぎった。
一階に下りると、七咲先生と奥村さんが朝食を作ってくれた。簡単なものだったけど美味しかった。その後は洋服に着替えて、諸々の準備を終えた後、俺たちはリビングに集まる。これからの予定を七咲先生が話すのだ。
「祭りはだいたい……、三時時ごろから始まるらしいから、それまで絵でも描いていよう。名ばかりでも、一応画塾の合宿だからね」
そういうことで、時間を潰すことになる。俺たちはスケッチブックを持って近所の風景をスケッチしてきたり、疲れて家の中で談笑したりした。全体的に今日はあまり絵に身が入らなかったけど、それは仕方ないと思う。だって今日はお祭りの日だ。違う地域のものになんて参加したことがない。
「写真も撮っておくんだよ。そしたら、あっちに帰っても描ける」
七咲先生がそう言っていたので、俺はスマホでなるべく写真を撮るようにした。外でも中でも、物でも人でも。椿乃さんとは記念にツーショットを持ちかけられたけど、佳都とは撮らなかった。今朝のあれで変に気まずかったし、もしかしたら彼のほうもそうだったのかもしれない。適当に写真を撮って絵を描く。湊くんはというと当然、七咲先生の写真を撮っていた。
そうこうしていると、すぐに時間は経っていった。最初は三時から祭りのほうに行こうという予定だったけど、花火の時間を考慮してやめにした。大体六時ごろまで待って、ようやく外に出る。
空は幻想的な色をしていた。遠くから屋台の匂いがしてくる気もする。
呆れたような声に起こされて、俺は目を覚ました。ぼやけた視界の中に、佳都の綺麗な顔が映る。
「あ、目開けた」
彼はそう言って微笑んだ。頬の一部が、どこかから漏れた日光に照らされた。というか、距離が近い。
「どういう顔してんの、赤ちゃんみたい」
「……うるさい」
俺は前髪を整えて起き上がった。周りを見るともう誰もいない。よく見ると佳都も着替えを終えていた。目もぱっちりとしていて、きっと相当前に起きたのだろう。
「ひどいね、全然起きてこないからこうして来てあげたのに、うるさいなんて」
「あ……」
俺は近くにあったスマホを覗く。午前八時過ぎだ。もう皆ご飯を食べているのだろう。
「そっか……、それは、ごめん」
「べつにいいけど。起こすのにはそんな手間取らなかったし」
「あ、そう……」
「うん」
佳都はニヤけたような表情をしている。わざとらしく唇を触って、もじもじとしていた。なんだその感じ。まさか、いやそんなことは。きっとまたからかってる。
「逆に一回で起きちゃうから残念。もっと大人しくしてれば可愛かったのに」
「……なにしたの」
「なにが?」
「知ってるでしょ」
「言葉にしなきゃ分かんない」
むかつく。どうせ何もしてないくせに、意味深な匂わせばっかりだ。俺は体を起こす。早く身支度をしないと、今日はお祭りの日だ。
「逃げるんだ?」
「冗談には付き合ってらんないからね」
「そう、ならさ」
扉に向かう俺の手を、佳都が掴んだ。自然とそこに目が向き、彼と顔を合わせる。
「僕がもし、ほんとにキスしたって言ったら?」
彼の目はとろんとしていた。たまに見せる、変に脱力した表情。ずるい。こっちは彼の言動に振り回されてばっかりなのに、佳都は平気でこんなことを言う。
「いや? それとも、嬉しい?」
いやなわけない。でも嬉しいなんて言えない。言ったら変になる。これまで目を逸らし続けてきたものと対面しなきゃいけなくなる。それが俺は怖い。怖いから、彼の手を離した。
「もう、ご飯食べなきゃだから」
扉を開き階段を下る。その時ふと、湊くんの言葉が脳裏によぎった。
一階に下りると、七咲先生と奥村さんが朝食を作ってくれた。簡単なものだったけど美味しかった。その後は洋服に着替えて、諸々の準備を終えた後、俺たちはリビングに集まる。これからの予定を七咲先生が話すのだ。
「祭りはだいたい……、三時時ごろから始まるらしいから、それまで絵でも描いていよう。名ばかりでも、一応画塾の合宿だからね」
そういうことで、時間を潰すことになる。俺たちはスケッチブックを持って近所の風景をスケッチしてきたり、疲れて家の中で談笑したりした。全体的に今日はあまり絵に身が入らなかったけど、それは仕方ないと思う。だって今日はお祭りの日だ。違う地域のものになんて参加したことがない。
「写真も撮っておくんだよ。そしたら、あっちに帰っても描ける」
七咲先生がそう言っていたので、俺はスマホでなるべく写真を撮るようにした。外でも中でも、物でも人でも。椿乃さんとは記念にツーショットを持ちかけられたけど、佳都とは撮らなかった。今朝のあれで変に気まずかったし、もしかしたら彼のほうもそうだったのかもしれない。適当に写真を撮って絵を描く。湊くんはというと当然、七咲先生の写真を撮っていた。
そうこうしていると、すぐに時間は経っていった。最初は三時から祭りのほうに行こうという予定だったけど、花火の時間を考慮してやめにした。大体六時ごろまで待って、ようやく外に出る。
空は幻想的な色をしていた。遠くから屋台の匂いがしてくる気もする。
