それから七咲先生が帰ってきて、皆は車を出た。不思議と涼しい感じがする。海が近いというのを意識しているからかも知れない。
 「さ、ここだよ」
 そうして、噂の別荘と御対面を果たした。すごく大きい。和風な建築で、昔の小説家が住んでいるような雰囲気だ。家は二階建て。
 「入っていいですか!」
 椿乃さんがそう言って玄関に向かう。俺も佳都もそれに続いた。ワクワクする。七咲先生がすでに玄関を開けていたらしく、三人は家の中になだれ込む。
 「わ、旅館みたいだね。木の匂いがする」
 椿乃さんは喜んで、丁寧に靴を並べたあと奥に入っていった。俺と佳都も靴を脱ぐ。
 「すごい、けどそれよりお腹へった」彼はお腹の辺りを触っている。
 「七咲先生、ご飯どうするんだろう。『心配するな』って自信満々そうだったけど」
 「もしかしたら何か作ってくれるのかも、てか先生料理できんの」
 「見た目はできそう」
 「カップラーメンなんじゃない?」
 佳都が馬鹿にするように笑っていると、後ろから足音がした。先生だ。横にはべったり湊くんがくっついてる。
 「カップラーメンがいいならそうするけど」
 七咲先生は薄く笑う。俺たちは靴を並べて室内に逃げ込んだ。それからの時間は早い。

 大体別荘内を冒険し終えて、すぐ夕食になった。長いドライブでもうそんな時間だ。気になるのはメニューだったけど、カレーだった。七咲先生は材料なんて持ってきていなさそうだったし、実際持ってきていなかったのだけど、それは奥村さんが解決してくれた。彼女は先生に頼まれてきたボランティアで、俺たちが着いてから追って到着した。無口な人で、彼女も先生の友人であるらしい。
 そしてご飯を食べ終えたら、順にお風呂に入った。これも和風な感じのもので、中もすごく綺麗だった。何もしてないけど疲れがとれる。最初は佳都が一緒に入ろうとかどうとか言っていたけど、無視した。まあ本気かどうかは知らなかったけど。
 パジャマに着替えたら、皆でリビングっぽいところに集まった。「一応画塾という体なので」という七咲先生の指示で、絵を描くことになった。各々スケッチブックを持って、デッサンの人は鉛筆、絵の具を使いたい人は用意して、今日の風景を振り返った。それには奥村さんも参加していて、見てみるとすごく上手い。先生らの関係が掴めた気がした。
 二時間くらいそうして、それぞれ完成した。俺は一瞬、あの寝顔が頭に浮かんできたけど、やめた。窓の外の風景を描いた。七咲先生に見せに行くと、湊くんと一緒にスケッチブックを見ていた。先生が真面目そうに教えていて、湊くんはちょっと微笑んでいた。彼のそんな表情は見たことなかった。
 そうしてあっという間に寝る時間になる。そもそも、一日目は特にすることがないのだ。でもこんな非日常的な空間で、友達や先生と何かをするのはワクワクした。男女に部屋で分かれて、俺たちは寝布団をひいて寝転がる。いつか決められたか、俺、佳都、先生、湊くんという順で寝ることになって、すぐに電気が消えた。
 楽しい事はすぐ過ぎていく。