『昼休みの校内放送って基本的にはCDとか流れることが多いみたいだけど、うちの学校って結構バラエティ豊かで。四月は部活の勧誘アナウンスとか、文化祭前には出し物の宣伝とか。それ以外にもイベントの度にいろいろ流れたりしてたんですけど。そういうのを取り仕切ってるのが放送部でした。音楽を選んだり、集めた原稿を読み上げたり。企画を立てて番組を作ったりもしていて、多少は人気もありました。だから裏を返せば、放送部の部員ならどんな放送でも出来たんです。
 本当に変な内容だったんですよ。まぁそれは、後から思い返せば、って話なんだけど。どんなんだったっけかな。
 ……あなたは今日、どんな夢を見ましたか。う忘れられないな悪夢を見たことはありませんか。どんな夢を見たくないですか。その悪夢、皆で共有しませんか。
 とかそんな感じ。内容的には、怖い夢を見たら教えてね、みたいなやつでしたね。放送室で投稿待ってます。みたいな。何ていうかな。最初はヒーリングなんちゃらみたいなことなのかな、なんて思ったんですよ。もしくは、皆が見た変な夢を紹介して笑いとばそう、的な? その割には悪夢に偏ってんな、って気にはなったけど、まぁ言葉選びの問題かな、なんて。視聴者投稿みたいな企画って結構斬新だったし、行ってみる? なんて友達とふざけてみたりして。
 でもその日の放課後には、放送部の同級生の間で結構騒ぎになってたみたいですよ。私が知ったのは翌日でしたけど。  
 あれ、軽い「放送室をジャック」状態だったらしいんですよ。
 ……もう時効かな。後から先輩経由で聞いたんですけど、あの放送をしたのはとある三年生だったんですが、その人はあまり周囲と打ち解けてなくて、部の三年生の中でも割と浮いてたらしいんですよね。周りと壁作ってる奴ってクラスに一人二人はいるじゃないですか。あんな感じだったそうです。引退前の三年生の間で特別企画みたいなのが企画されていて、でもその人はうっすらハブられてたみたいなんですよ。とはいえそんな堂々とではなくて。最低限の担当は割り振ってあるけど、それ以上はなし、練習も形だけ、メインでやりたいことは別で……っていうのは放送部の友達の話ですけど。
 本当はその一週間くらい三年生だけで放送を回す予定だったのが、一人だけで放送室を陣取って、あの放送をしてたらしいです。部内ではえらい揉めたそうですよー。翌日には、昨日の不適切な放送のお詫び、みたいなのも流れて。一応卒業企画に名前は載ったけど、即日出禁になったみたいですね。
 まぁ、仲間外れなんて子供みたいなことしたせいだろって外野としては思っちゃうけど。それにしても、復讐目的なのはいいとしてもなんでそんな、悪夢募集なんてよくわからないことやったのかはわかんないですね。それに、放送室ジャックでお便り募集したところで、翌日には妨害されることくらい予想できますよね? 紹介なんてできるはずがないのに。受験前のストレスか、それとも……。
 ……え、いや、結局行ってないですよ。あぁでも、放送の翌日に面白半分で行ってみた、って子は意外と多くて。行った友人の話だと、放送室の前で手帳を持った先輩が待ち構えてて、すっごく楽しそうに、
「怖かった?」
って駆け寄って来たそうです。その時点で怖くなって逃げたって言ってました。追いかけられてないかな、ってその日ずっと周りを気にしてて、ビビりすぎってその時は笑ったけど、数日後の朝、友人が手帳をもった先輩に待ち伏せされてるところに出くわしたんですよ。それで、あぁホントにヤバい奴だったんだって。割って入った私も取材? されたから、無理くり子供の頃に見た悪夢の記憶を引っ張り出して、帰ってもらいました。何がしたかったんだろうって未だに不思議です。
 こういう変な奴が、数年たったら都市伝説になるんでしょうね』