『あそこの学校、校門の前に古い公衆電話があるでしょう。使われてるの見たことがないくらいオンボロのやつ。ひょっとしたら今の子はかけ方知らないんじゃない? うちの2階から校門が見えるんだけど、前にとっても気味悪いことがあったの。
 夜の八時くらいだったかしら、キャーって若い子の声がしたの。どうしたんだろうってベランダに出てみたら、その古い公衆電話に生徒が集まってるのよ。しかも一人二人じゃなくて五人くらい。時間も時間だし気になっちゃってね。つい眺めてたのよ。
 一人が公衆電話に入って、それを外から皆が眺めてるって感じだった。友達の一人が忘れ物か何かして、電話をかけるのに付き添ってるのかしら、なんて最初は思ったけど、誰一人携帯電話を持ってないなんておかしいじゃない。
 よく見ると、外から眺めてる子たちは壁のガラスに手を付けて、なぞるみたいな動きをしてるみたいだった。中に入ってる子に話しかけてるのかしら、って。ちょうどその時、お母さん何してるの、ってうちの息子が近くに来てね。あの子たち何してるんだと思う? って何の気なしに聞いてみたの。息子の方が視力がいいから。どれどれってベランダに来て。そうしたら、数秒間公衆電話の方を眺めたと思ったら、悲鳴を上げて怯え始めたの。それからしばらくベランダの方に近づこうともしないくらいトラウマになっちゃって。悪いことしたわ。
 私にはぼんやりしてて見えなかったけど、息子が言うには、一人を公衆電話に閉じ込めて、周りは虫やら野良猫の死体やら、おぞましいものをガラス越しになすりつけてたらしいのよ。中の子が泣き叫んで悲鳴を上げてたって。いじめにしても度が過ぎてるじゃない。息子はそれきり引っ込んじゃったけど、せめて注意でもできないかしらと思って、もう一回ベランダに出て電話の方を見たの。
 ちょうど中から女の子が出てきたところだった。ヒーヒーって息遣いが私にも届くくらい。でもその後すぐ、皆でじゃんけんし始めたのね。今まで閉じ込められてた子も含めて。そして、今度はさっきとは別の子が電話ボックスに……じゃんけんで勝った子だった。
 最近の子の笑い声と悲鳴ってよく似てるわよねぇ』