『私の通ってた高校で、集団ヒステリー事件があったんです。自殺しちゃった子もいて、当時は結構騒がれました。流石に今はもう……っていいたいところですけど、ついこの間、その中心だった生徒たちについて熱心に調べてるって女が、私に話を聞いてきたんです。
 接点なかったから初対面かと思ったけど、元同級生みたいで。卒業アルバムに載っていたので間違いないですよ。物腰だけは丁寧でした。ただ、質問の内容が……。大ごとになる前に話したことはあるか、とか、その頃から奇行とか、変なこと言ったりしてませんでしたか、とか。ゴシップ誌みたいにずけずけしたものばかりで。
 私、そのヒステリー事件に関わってた生徒とそこそこ仲良かったんですよ。でも、少なくとも私の前では楽しそうにしてたので、別に何も、って答えたらつまんなそうにしてました。まるでおかしくなっててほしかったみたいに。さすがにカチンと来て、言い返そうかと思ったんですけど、結局何も言い返せませんでした。彼女、その後すぐに、
「大丈夫です大丈夫です、怖かったことにすればいいだけなんで」
って笑ったんですよ。調べる動機も言葉の意味も全然分からなくて。だから私にとっては、事件以上にあの女の方が怖いんです。
 後輩に連絡取ってみたら、やっぱり不審者がいるって噂になってました。下校時刻に話しかけられた、SNSでメッセージが来た、冊子が道に落ちていた……。中には、明らかに高校生じゃない大人が制服を着て校内に立っていた、なんて話もあるみたいです。ここまでくると人間なんだかも怪しいレベルですけど。
 そいつが語るのが、例の事件なんですって。私の学校の怪談、っていう体で。内容も不謹慎にあれこれ脚色したものばっかり。もう当時の生徒はみんな卒業してるから、事件自体を知らない子もいるでしょう。だからただの都市伝説として信じちゃったり、また噂話として他の誰かに広めちゃったりするんですよね。先生からも不審な相手に気をつけなさいってたびたび注意されるって。
 その不審者が、私の所に来た女と同一人物なのかはわかりません。気になって、こちらから連絡を取ろうとしたんですが音信不通です。でもなんでそんな、治りかけた瘡蓋をむりやり剥がすみたいな真似するんでしょうね。良くも悪くも思春期って、いろいろ不安定になる、そういう時期じゃないですか。多感な時期の子にあることないこと吹き込むなんて、亡くなった生徒や関係者にだって失礼な話だと思いませんか。
 ……でも、もうどうしようもないんでしょうね。残念だけど。変な尾鰭も付いてるし、本当のことを知る人も、みんないなくなっちゃったし』