2024/09/04 木曜日

 ちなみせんせいなかないで。
 だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。あのね、ほんとうだったからね、ちゃんとこのびるのしたにいるってわかったからね、なにもこわいことなんかないんだよ。
 ちゃんといるんだよ、ほんものなんだよ。ちたにせんせいはなかなかしんじてくれなかったけど、ちゃんとほんとうにいたんだよ。
 あのね、ここね、そういうところだったんだって。
 そういうばしょだったんだって。
 ちたにせんせいはしらなかったかもしれないけど、だからあんまりここにひとはいなくって、でもそれがわるいことだったわけじゃなくって。
 せんせいはやさしかったから、がっこう、うまくいけないわたしたちにもやさしかったから、わたしはちからになってあげたいの。だいじょうぶ、みんなみんなみんなみんな、ちたにせんせいのみかた、わたしたちのみかた、なにもこわいことなんてないからだいじょうぶ。
 したへ、いって、したへいって、またうえにもどって、うえでがんばって。
 きにしなくていいんだよ、せんせいはこわがらなくていいんだよ、きっとだいじょうぶなんだよ。みんないいこだからきっとなんとかなってくれるんだよ。

 だからいってみよう、まず、したへ。
 したへいって、さいごにのぼろう。

 そうしたらきっとたすけてくれる。はなえちゃんがたすけてくれる。はなえちゃんはおともだちがだいすきだから、みんなにやさしくしてくれる。みんなとともだちになってくれる。
 だからね、あのね、せんせいもおびえなくていいんだからね。
 わたしたずっといっしょだからね。こわくないからね。いっしょにいるからね。だいじょうぶだからね。

 だからおねがい、せんせい、かなしいかおはしないで。
 ずっといっしょにいられるなら、せんせいはなにもかなしくないし、もうなかなくていいんだからね。
 ここからでていかなくていい。
 ずっとずっとずっとずっと、じゅくのみんなといっしょ。

 はなえちゃん、はなえちゃん、はなえちゃん、はなえちゃん。
 これからもたくさんおともだちがほしいんだよね。

 だから。



 ***



2024/09/05 金曜日

 とりあえず、みんなごめん。
 昨日なんだけど、先に言っておく。マジでバイトがいそがしくて、ブログの更新どころではなかったし、取材もできなかったわけで。
 僕のみならず、マトマトも昨日はみっちりと仕事だった。なんでも、シフト入っていた先輩が急にインフルになって出てこられなかったらしい。マトマトが急遽ヘルプで呼ばれて朝から出勤することになった、というわけだ。こういう時、シフト制の仕事っていうのもなかなか大変だなと思う。
 ちなみにマトマトは今居酒屋の店員やっていて、僕はコンビニの店員している。僕の場合、なるべく仕事は夜に入れるようにしている。やっぱり夜勤の方が給料がいいからだ。あと、場所にもよるけれど来る人が少ないので、仕事量が少なくて個人的にラクっていうのもある。
 あと、やっぱり若い女の子に夜中の店員をやらせるのはちょっと、っていうのがあるんだろう。僕くらいの年の男は夜にシフト入れますって言うとめっちゃくちゃ歓迎されるのだ。

 ……はい、本当にすみません。
 現実逃避はやめようと思います、ハイ。

 みんなも気づいての通り。昨日、うちのブログになんか妙な記事が投稿されていた。平仮名ばっかりで、ものすっごく読みづらいやつ。結論から言うと、僕は投稿した覚えなんてない。どうやら誰かが一時的に、僕のブログを乗っ取ってくれたらしい。平仮名ばっかりというのがなんともイカしているというか、頼むから何かを伝えたいならもうちょっと読みやすくしてくれやと思う。
 不気味だが、とりあえずパスワードとかは変えたので、もう二度とないと信じたい。
 同時に、ちょっと気になる内容なのは確かだ。このブログ、ひょっとして怪奇現象だったりするんだろうか?何やら、気になるキーワードが出てくるのだ。
 そう、僕達ロボコがリクエストを受けて調査している、痣春ビルについてである。一昨日の記事で、僕達が話していたことを覚えているだろうか?一部抜粋させてもらうんだが。

『実際、このビルに昔入っていた個人の学習塾の先生と生徒が、まるっと行方不明になるって事件が起きてるらしい。相当昔の話だし、本当かどうかはわからんけどな』
『ほうほうほうほう。呪われたビルかもしれない、と。学習塾の先生と生徒で無理心中?それから呪われたパターンかよ?』

 コピペしました、ハイ。
 まあこんな会話をしたわけだ。これが、痣春ビルにあるという噂である。
 そして僕とマトマトはあの日六階で、それっぽい塾の痕跡を発見している。601号室にあった『千谷学習塾』。閉鎖のお知らせ、なんて張り紙があったってことは、あそこにあった塾はなんらかの理由で潰れてしまったってことなんだろう。急なお知らせだったみたいだから、何か突然トラブルに見舞われたとかなのかもしれない。それが、神隠し事件、であるのかもしれない。
 で、だ。
 もう一度はっきり言うが、昨日のブログの記事は僕の自作自演ではない。本当に違う。そうだとしたらあまりにもチープがすぎる。ホラーを演出するならもうちょっと上手くやります、いやいやほんとうに。
 昨日のブログ記事の気になる箇所を、こちらにコピペさせてもらおうと思う。これだ。
 読みづらいと思うから、下に漢字変換したものも併記しておく。



『ちゃんといるんだよ、ほんものなんだよ。ちたにせんせいはなかなかしんじてくれなかったけど、ちゃんとほんとうにいたんだよ』

 ちゃんといるんだよ、本物なんだよ。千谷先生はなかなか信じてくれなかったけど、ちゃんと本当に居たんだよ。



『ちたにせんせいはしらなかったかもしれないけど、だからあんまりここにひとはいなくって、でもそれがわるいことだったわけじゃなくって』

 千谷先生は知らなかったかもしれないけど、だからあんまり此処に人はいなくって、でもそれが悪いことだった訳じゃなくって。



 ちたにせんせい。多分、これあの塾の塾長の先生だった、とかじゃないだろうか。小さな塾なら、自分の名前が塾にくっついているのはなんらおかしなことじゃない。
 あの文章はそのまま受け取るならば、千谷先生、とやらに向けた生徒の女の子のメッセージであるように思われる。まさか、僕とマトマトがあのビルに入ったことで、僕に何かが乗り移ってきたとでもいうだろうか?その存在が、あのブログ記事を投稿させたとでも?
 はっきり言って、到底信じられることじゃない。僕自身何かに取り憑かれている感覚なんてないし、あのビルから出てきてから家とか職場とかで何かトラブルがあったわけでもない。電車や車に轢かれそうになるとか、極端に運が下がっている気配があるわけでもなし。
 まあ、それでも。
 これがもし本当に、オバケが投稿させたものだったとしたら――面白い、と思ってしまうのは確かだ。
 実際僕達は、エレベーターから降りてくる妙なものを見ている。真っ黒な影。とても人間にしか見えなかった影。さすがに見間違いなんてことはないだろう。僕達は紛れもなく幽霊を見たんだ。あるいは妖怪とか、神様とか、そういうものなのかもしれない。ならばもう、この一件は本物だと判断して、本格的に調査を開始するべきではなかろうか!

 僕達がやるべきことはいくつかある。
 一つ、あのビルについて徹底的に調べること。特に、千谷学習塾という塾について、何か情報がないか洗うこと。もしあのブログの内容が本当に幽霊からのメッセージならば、彼女たちはいなくなる前に何かトラブルを抱えていた可能性が高いはずだ。
 二つ。はなえちゃん、というのは誰なのかを知ること。ブログに書かれていた『ちゃんといる』『ほんとうにいる』というのはそのはなえちゃんとやらなのか?



『はなえちゃん、はなえちゃん、はなえちゃん、はなえちゃん。
 これからもたくさんおともだちがほしいんだよね。』



 これだ。
 幽霊のお友達になるなんてもう、嫌な予感しかしないわけで。これがひょっとしたら、神隠しに遭って死んでしまうとか行方不明になってしまうとかそういうことなのではないだろうか。そのはなえちゃん、とやらがあのビルにいて友達とやらを求めているなら、まだまだ行方不明者が出る可能性は高い。実際、リクエスト者いわくあのビルに入ってから出てこない人が多いという。その人達が本当に消えてしまったなら、なんとしてでも助ける方法を見つけなければいけないだろう!まさに、僕達みたいなオカルト系動画配信者の出番ではなかろうか?
 それと、三つ。
 当たり前だが、もう一度あのビルを確かめなければいけない。結局、階段で地下一階へ行くチャレンジをしないまま戻ってきてしまった。それに、六階へエレベーターで上がるとどうなるのかについても確認していない。――あの黒い影は、エレベーターで地下から上がってきたように見えた。あのエレベーターは、何か特別な通路か何かになっている、なんてことはないだろうか?
 正直本物っぽいものを見てしまって、びびっているのは確かだ。でも、ここでイモ引いたら男じゃないだろう!って意地もある。最近、ブログの閲覧数もぐんぐん伸びている。コメントで、早く続きが知りたい、動画化はまだかと書き込んでくれた人本当にありがとう。やっぱりロボコとしては、その期待に応えないわけにはいかないと思う。
 それに、僕だけじゃなくてマトマトも今回の調査、かなり乗り気になっている。
 あのビルの中で撮影した映像。エレベーターから出てきた黒い影の映像はばっちりカメラに収めることができた。現在動画として編集中だ。そのうちアップすることができると思う。多少画質調整して見やすくするのと、あと僕らのしょうもないやり取りが「入ってしまっているのとで少し時間をもらうが、気長に待っていてくれると嬉しい。
 あれの正体を僕達の手で突きとめるなんて、想像しただけでわくわくしてしまう。

 とまあ、今日はあんまり実の無い内容で申し訳なかった。とりあえず、引き続き調査は続行していく。
 明日は二人とも時間を取れそうなので、お互いネットで調査した内容を照らし合わせつつ、また痣春ビルに赴こうと思う。
 もう一度、あの幽霊のような存在に出会えればいいのだけれど。