簡単に内部の構造を説明しておく。
入ってすぐがエントランス――ではあるのだが、正直狭すぎてそんな印象はない。硝子扉を開けて中に入ると(自動ドアじゃないのだ。古いビルだからだろうか)、すぐ右手にメールボックスが並んでいる。ポストにはそれぞれ、このビルに入っている会社や個人?っぽい名前が掲示されていた。いくつかのポストは大量のチラシが突っ込まれたままになっているので、もう使われていない部屋ってやつなのだろう。
真正面にエレベーターがあり、その左横には『変電室』と書かれた白い扉がある。関係者以外立ち入り禁止とあるし、鍵もかかっていて入れそうにない。右側にもドアがあって『101』と書かれているけれど、他に企業名などを記したプレートはかかっていなかった。今はどこの会社にも個人にも貸し出されていない部屋なのかもしれない。
ビルの構造はビルというより、小さな小さな縦長のマンションに近い雰囲気だった。101とか部屋番号が書いてあるせいだろう。部屋はそれぞれ、各階二つずつしかないようだ。
エレベーターの右横には非常階段と書かれた扉があり、後ろには内階段があるという構造。内階段は上にも下にも伸びているから、階段で地下にも行けるということなんだろう。
さて、面倒くさい説明はこれくらいにして、エレベーターに乗ってみようと思う。
マトマトと一緒にエレベーターを呼び出し、まずは二人で乗ってみることにする。
「せっまあああああ!」
「狭い!めっちゃ狭い!うお、これ四人乗りとか嘘やん……!?」
マトマトが目を白黒させていた。それもそのはず、エレベーターがめちゃくちゃ狭かったのである。
僕とマトマト、二人乗ったらもうぎゅうぎゅうだ。ボタン上の積載量によると、一応四人乗りということになっているらしいが――いや、重量はともかく体積的にコレ、四人も乗るのは無理ゲーだろう。ていうか、本音を言えば二人で乗るのもちょっときついくらいだ。僕達がどっちも成人男性だからというのもあるかもしれないが。
「タカや、俺ぁ野郎とこんなくっつき合う趣味ねえんだけどよおー」
「奇遇だな、僕もだ。でもエレベーターの調査なんだから仕方ないじゃん……」
「今度からは一人で乗るう……!」
ぎりぎり、真四角の箱の対角線上、すみっこに立てばお互いの体が触れずに済む。
僕達はお互い文句を言いながらエレベーターの内部を観察し、写真を撮影して――まず、あることに気付くのだった。
「……ナニコレ?」
さっきも説明したが、このビルは六階建てで、地下が一階あり、さらに屋上があるという構造である。
1から5のボタンは、特に何もおかしい点がなかった。問題は地下一階と六階だ。
地下一階のボタンは、何故か緑色のガムテープがバッテンに貼られて封印されてしまっている。六階のボタンは普通に押せる状態ではあったが、ボタン横に妙な文字が書かれているのだ。それも、赤い油性ペンで、である。
『屋上侵入禁止。
絶対入るな』
そんなこと言われたら、興味を持ってしまうのが人間ではなかろうか。多分屋上には、六階まで行って階段でも登らない限り入ることができないのだろう。
「侵入禁止ってなんだろな?」
マトマトがにやにや笑いながら言う。
「もしや、屋上に何か封印されしやばい物体でもあるのか!?」
「そんな、エクゾディアみたいに言うなし」
しかも微妙にネタ古いし、と笑う僕。ああ言い忘れていたが、僕もマトマトも遊戯王ファンなので、時々カード用語が飛び出す。なお、ルールがぐっちゃぐちゃだった原作時代からの生粋のファンである。
「普通に考えるなら、危ないから入るなってやつじゃないか?ほらフェンス外れてたりしたら事故が起きるだろ?」
僕は真面目な意見を言う。自分でもつまんない考えだとは思うけど。
「誰かうっかり事故って落ちたとか、飛び降り自殺に利用されたとかそういうことがあったのかもよ。六階の屋上から落ちれば、普通は死ねるんだろうし。あと、不法侵入した半グレとかヤンキーのたまり場になったらめんどくさいだろ。まあ、僕らも不法侵入と言われたら否定できないけどさ」
「……タカ、オカルト系ユーチューバーだよね俺ら。なんでそんな夢のない意見しか言わないの?」
「幽霊とか黒魔術とかが夢のある意見なんかい、お前は」
そんな漫才みたいなやり取りをしながら、まずは地下一階のボタンを触ってみることにする。ガムテープで封印されているのはボタンが壊れているからなのかもしれないと思ったが、押してみると普通にエレベーターは下へ動き出したのだった。これは単純に、フロアが今誰にも使われていないから入ってほしくないだけ、なのかもしれない。
謎のボロボロ雑居ビル。こういう場所の、封印された地下に行くなんてなんとも燃えるものである。何もないなら別にいい。真っ暗で打ち捨てられた駐車場とか、それはそれで探検すれば絵になるというものだ。
ところが、そんな僕等を待っていたのは、予想外の結果だった。
「……え?」
エレベーターは地下一階まで降りて、止まった。そしてドアは開いたのだが――そこには、何もなかったのである。
あったのは、灰色のコンクリートの壁だけ。降りることさえできない。エレベーターの出口があるはずの場所が、完全に埋められてしまっていたのだ。
「な、なんじゃこりゃ……?」
「あれ、あれ?これマジでコンクリ?降りられなくね?」
「降りられませんよ、ええ……」
思わず丁寧語になってしまう僕。エレベータードアは確かに開いているのに、これはいかに。
思わず手を伸ばして、コンクリートを触ってみる。ひんやりと冷たい感触。つるつるとした表面は、いたって普通の打ちっぱなしのコンクリートの壁だ。なんで、こんな何もない場所で停止するのだろう。ボタンがガムテープで封印されてしまっていたのは、何もなくて降りられなくて危ないから、ということだったのだろうか。
もしそうなら、地下一階には停止しない処理でもした方がずっと安全だと思うのだけれど。
「……なあ」
その時僕達は、特にボタンを押していなかった。次第におかしいと思ったらしいマトマトが、僕の肩を叩いてくる。
「エレベーターのドアってさ。……何も押さないでほっとくと、そのうち閉まるはず、だよな?……こんなに長く開いてるもん、だっけ?」
「……うん」
何かが、おかしい。
さっき僕達が一階から乗り込んだ時も、わりとすぐにドアは閉まってしまった気がする。なのに、どうしてこのコンクリで埋められた地下一階に降りてドアが開いてから、一向に扉が閉まる気配がないのだろうか。
まさか故障してしまったのでは、と僕は背中に冷たい汗を掻いた。子供の頃のトラウマを思い出してしまう。外に出られない、降りられない場所。こんな狭いところに、マトマトと二人で閉じ込められるだなんて洒落にもなっていない。
「な、なんか嫌な予感……」
マトマトがひっくり返った声で言った。
「う、上に戻ろうぜ、タカ」
「あ、ああ」
言われるまでもない。僕が閉まるボタンを押そうとした、まさにその時だった。
ドン。
「へ、あ……?」
コンクリートの壁の向こうから、何かを叩くような音。最初は気のせいだと思った。しかし、何かがぶつかるような音は、そのまま断続的に響いたのである。
ドン。
ドン。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン――。
それはまるで、拳をゆっくりと打ち付けるような、乱暴なノックでもするような音だった。しかも、段々とリズムが早くなってくる。
やっぱり、何かおかしい。あの壁の向こう、封印された地下一階には、何かがいるのではないか。
「く、くそっ……!」
僕は今度こそ『閉』ボタンを押した。反応がなかったらどうしようかと思ったが、幸いにしてドアはすぐに動いてくれた。
「よ、よかっ」
良かった、と言いかけた時だった。急に、エレベーターの籠全体がガタガタと揺れ動いたのである。
「うわああああ!?」
「やばばば、ばば、ばばっ」
マトマトが何やら変な声を上げて慌てている。あるいは、ちょっと楽しんでいるのだろうか。
ガタガタガタガタ。
ガタガタガタガタ。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――!
「や、やべえっ!」
ドアは、異常なほどゆっくりと閉まった。しかも、ドアが閉まると同時に、緩慢な動作で上へ上昇し始めたのである。この時僕はまだ、他のボタンを何も押していなかったにも関わらずだ。
そして。
チン。
甲高い音ともに、再びドアが開いた。いつの間にかエレベーターの異常な揺れも止まっている。その先にあった景色は――さっきまで自分達が見ていた通り、一階の狭いエレベーターホールだった。
「や、やべえ……」
僕がなんとかエレベーターの中から這い出すと、後ろをちらちら振り返りながらマトマトも出てくる。そして、言った。
「今のなんだ?すげくね?超すげくね、タカ!これ、いい動画になりそうじゃね!?久しぶりにホンモノ引いたかもしれなくねー!?」
「げ、元気だね、お前……」
まあ、確かに自分達はそういうものを求めて取材していたのは事実である。怪奇現象が起きたら喜ぶべきだし、そういう映像を撮ることができればきっと動画も面白いように回ってくれることだろう。
しかし、問題は。
「あれ、怪奇現象じゃなくて、エレベーターの故障じゃないの……?」
これである。
僕としては、幽霊とかオカルト現象は撮影してみたいものの、うっかり老朽化したエレベーターに巻き込まれて事故に遭うとか、そういう方向のトラブルはご免なのだ。あのエレベーターは相当古かったし、残念ながらその可能性が半分以上あるような気がしてならない。
しかも。
「それと、マトマトお前……ビデオカメラのスイッチ、入れてた?」
「……ア゛」
「お前なあああああ!せっかく面白いもの見つけても、撮影できてなかったら意味ないじゃん、この馬鹿、馬鹿!」
「ああああああああああああああああああ!」
頭を抱えて絶叫するマトマト、その真っ赤な頭をひっぱたく僕。
まあ、そういう僕もうっかりスマホで写真撮影するのを忘れてしまっていた。そのへんは、本当にファンの皆様に申し訳ないと思う。
次はちゃんと撮影してブログにも写真を載せるから、許してほしい。
入ってすぐがエントランス――ではあるのだが、正直狭すぎてそんな印象はない。硝子扉を開けて中に入ると(自動ドアじゃないのだ。古いビルだからだろうか)、すぐ右手にメールボックスが並んでいる。ポストにはそれぞれ、このビルに入っている会社や個人?っぽい名前が掲示されていた。いくつかのポストは大量のチラシが突っ込まれたままになっているので、もう使われていない部屋ってやつなのだろう。
真正面にエレベーターがあり、その左横には『変電室』と書かれた白い扉がある。関係者以外立ち入り禁止とあるし、鍵もかかっていて入れそうにない。右側にもドアがあって『101』と書かれているけれど、他に企業名などを記したプレートはかかっていなかった。今はどこの会社にも個人にも貸し出されていない部屋なのかもしれない。
ビルの構造はビルというより、小さな小さな縦長のマンションに近い雰囲気だった。101とか部屋番号が書いてあるせいだろう。部屋はそれぞれ、各階二つずつしかないようだ。
エレベーターの右横には非常階段と書かれた扉があり、後ろには内階段があるという構造。内階段は上にも下にも伸びているから、階段で地下にも行けるということなんだろう。
さて、面倒くさい説明はこれくらいにして、エレベーターに乗ってみようと思う。
マトマトと一緒にエレベーターを呼び出し、まずは二人で乗ってみることにする。
「せっまあああああ!」
「狭い!めっちゃ狭い!うお、これ四人乗りとか嘘やん……!?」
マトマトが目を白黒させていた。それもそのはず、エレベーターがめちゃくちゃ狭かったのである。
僕とマトマト、二人乗ったらもうぎゅうぎゅうだ。ボタン上の積載量によると、一応四人乗りということになっているらしいが――いや、重量はともかく体積的にコレ、四人も乗るのは無理ゲーだろう。ていうか、本音を言えば二人で乗るのもちょっときついくらいだ。僕達がどっちも成人男性だからというのもあるかもしれないが。
「タカや、俺ぁ野郎とこんなくっつき合う趣味ねえんだけどよおー」
「奇遇だな、僕もだ。でもエレベーターの調査なんだから仕方ないじゃん……」
「今度からは一人で乗るう……!」
ぎりぎり、真四角の箱の対角線上、すみっこに立てばお互いの体が触れずに済む。
僕達はお互い文句を言いながらエレベーターの内部を観察し、写真を撮影して――まず、あることに気付くのだった。
「……ナニコレ?」
さっきも説明したが、このビルは六階建てで、地下が一階あり、さらに屋上があるという構造である。
1から5のボタンは、特に何もおかしい点がなかった。問題は地下一階と六階だ。
地下一階のボタンは、何故か緑色のガムテープがバッテンに貼られて封印されてしまっている。六階のボタンは普通に押せる状態ではあったが、ボタン横に妙な文字が書かれているのだ。それも、赤い油性ペンで、である。
『屋上侵入禁止。
絶対入るな』
そんなこと言われたら、興味を持ってしまうのが人間ではなかろうか。多分屋上には、六階まで行って階段でも登らない限り入ることができないのだろう。
「侵入禁止ってなんだろな?」
マトマトがにやにや笑いながら言う。
「もしや、屋上に何か封印されしやばい物体でもあるのか!?」
「そんな、エクゾディアみたいに言うなし」
しかも微妙にネタ古いし、と笑う僕。ああ言い忘れていたが、僕もマトマトも遊戯王ファンなので、時々カード用語が飛び出す。なお、ルールがぐっちゃぐちゃだった原作時代からの生粋のファンである。
「普通に考えるなら、危ないから入るなってやつじゃないか?ほらフェンス外れてたりしたら事故が起きるだろ?」
僕は真面目な意見を言う。自分でもつまんない考えだとは思うけど。
「誰かうっかり事故って落ちたとか、飛び降り自殺に利用されたとかそういうことがあったのかもよ。六階の屋上から落ちれば、普通は死ねるんだろうし。あと、不法侵入した半グレとかヤンキーのたまり場になったらめんどくさいだろ。まあ、僕らも不法侵入と言われたら否定できないけどさ」
「……タカ、オカルト系ユーチューバーだよね俺ら。なんでそんな夢のない意見しか言わないの?」
「幽霊とか黒魔術とかが夢のある意見なんかい、お前は」
そんな漫才みたいなやり取りをしながら、まずは地下一階のボタンを触ってみることにする。ガムテープで封印されているのはボタンが壊れているからなのかもしれないと思ったが、押してみると普通にエレベーターは下へ動き出したのだった。これは単純に、フロアが今誰にも使われていないから入ってほしくないだけ、なのかもしれない。
謎のボロボロ雑居ビル。こういう場所の、封印された地下に行くなんてなんとも燃えるものである。何もないなら別にいい。真っ暗で打ち捨てられた駐車場とか、それはそれで探検すれば絵になるというものだ。
ところが、そんな僕等を待っていたのは、予想外の結果だった。
「……え?」
エレベーターは地下一階まで降りて、止まった。そしてドアは開いたのだが――そこには、何もなかったのである。
あったのは、灰色のコンクリートの壁だけ。降りることさえできない。エレベーターの出口があるはずの場所が、完全に埋められてしまっていたのだ。
「な、なんじゃこりゃ……?」
「あれ、あれ?これマジでコンクリ?降りられなくね?」
「降りられませんよ、ええ……」
思わず丁寧語になってしまう僕。エレベータードアは確かに開いているのに、これはいかに。
思わず手を伸ばして、コンクリートを触ってみる。ひんやりと冷たい感触。つるつるとした表面は、いたって普通の打ちっぱなしのコンクリートの壁だ。なんで、こんな何もない場所で停止するのだろう。ボタンがガムテープで封印されてしまっていたのは、何もなくて降りられなくて危ないから、ということだったのだろうか。
もしそうなら、地下一階には停止しない処理でもした方がずっと安全だと思うのだけれど。
「……なあ」
その時僕達は、特にボタンを押していなかった。次第におかしいと思ったらしいマトマトが、僕の肩を叩いてくる。
「エレベーターのドアってさ。……何も押さないでほっとくと、そのうち閉まるはず、だよな?……こんなに長く開いてるもん、だっけ?」
「……うん」
何かが、おかしい。
さっき僕達が一階から乗り込んだ時も、わりとすぐにドアは閉まってしまった気がする。なのに、どうしてこのコンクリで埋められた地下一階に降りてドアが開いてから、一向に扉が閉まる気配がないのだろうか。
まさか故障してしまったのでは、と僕は背中に冷たい汗を掻いた。子供の頃のトラウマを思い出してしまう。外に出られない、降りられない場所。こんな狭いところに、マトマトと二人で閉じ込められるだなんて洒落にもなっていない。
「な、なんか嫌な予感……」
マトマトがひっくり返った声で言った。
「う、上に戻ろうぜ、タカ」
「あ、ああ」
言われるまでもない。僕が閉まるボタンを押そうとした、まさにその時だった。
ドン。
「へ、あ……?」
コンクリートの壁の向こうから、何かを叩くような音。最初は気のせいだと思った。しかし、何かがぶつかるような音は、そのまま断続的に響いたのである。
ドン。
ドン。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン――。
それはまるで、拳をゆっくりと打ち付けるような、乱暴なノックでもするような音だった。しかも、段々とリズムが早くなってくる。
やっぱり、何かおかしい。あの壁の向こう、封印された地下一階には、何かがいるのではないか。
「く、くそっ……!」
僕は今度こそ『閉』ボタンを押した。反応がなかったらどうしようかと思ったが、幸いにしてドアはすぐに動いてくれた。
「よ、よかっ」
良かった、と言いかけた時だった。急に、エレベーターの籠全体がガタガタと揺れ動いたのである。
「うわああああ!?」
「やばばば、ばば、ばばっ」
マトマトが何やら変な声を上げて慌てている。あるいは、ちょっと楽しんでいるのだろうか。
ガタガタガタガタ。
ガタガタガタガタ。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ――!
「や、やべえっ!」
ドアは、異常なほどゆっくりと閉まった。しかも、ドアが閉まると同時に、緩慢な動作で上へ上昇し始めたのである。この時僕はまだ、他のボタンを何も押していなかったにも関わらずだ。
そして。
チン。
甲高い音ともに、再びドアが開いた。いつの間にかエレベーターの異常な揺れも止まっている。その先にあった景色は――さっきまで自分達が見ていた通り、一階の狭いエレベーターホールだった。
「や、やべえ……」
僕がなんとかエレベーターの中から這い出すと、後ろをちらちら振り返りながらマトマトも出てくる。そして、言った。
「今のなんだ?すげくね?超すげくね、タカ!これ、いい動画になりそうじゃね!?久しぶりにホンモノ引いたかもしれなくねー!?」
「げ、元気だね、お前……」
まあ、確かに自分達はそういうものを求めて取材していたのは事実である。怪奇現象が起きたら喜ぶべきだし、そういう映像を撮ることができればきっと動画も面白いように回ってくれることだろう。
しかし、問題は。
「あれ、怪奇現象じゃなくて、エレベーターの故障じゃないの……?」
これである。
僕としては、幽霊とかオカルト現象は撮影してみたいものの、うっかり老朽化したエレベーターに巻き込まれて事故に遭うとか、そういう方向のトラブルはご免なのだ。あのエレベーターは相当古かったし、残念ながらその可能性が半分以上あるような気がしてならない。
しかも。
「それと、マトマトお前……ビデオカメラのスイッチ、入れてた?」
「……ア゛」
「お前なあああああ!せっかく面白いもの見つけても、撮影できてなかったら意味ないじゃん、この馬鹿、馬鹿!」
「ああああああああああああああああああ!」
頭を抱えて絶叫するマトマト、その真っ赤な頭をひっぱたく僕。
まあ、そういう僕もうっかりスマホで写真撮影するのを忘れてしまっていた。そのへんは、本当にファンの皆様に申し訳ないと思う。
次はちゃんと撮影してブログにも写真を載せるから、許してほしい。



