突然わき道から飛び出してきた子供を轢いてしまった。すぐに救急車で病院に運ばれたが亡くなってしまった。

 信号無視やスピード違反をしていたわけでもない。周辺の確認を怠らず運転をしていたが事故は起きてしまった。

保険会社からは揉める原因になるからと、今後は直接会っての謝罪は避けてもらえないかという話もあり、事故に関することは謝罪の気持ちを伝えることも含めて保険会社の方で対応をしてもらった。だから被害者家族の顔を見たのは事故があった日の一度きりだけで以降は会っていない。ちなみに賠償金は近くに子供の両親がいたことから親の監督責任も影響して保険屋の予測よりは減ったらしい。轢いてしまった子供の顔は忘れることはできなかったが、救急車に一緒に乗っていった子供の両親の顔は今ではうっすらとしか覚えていない。

 だから始めはあの男が誰なのか気にもしなかった。

 あの男を最初に見かけたのは事故があってから一年を迎えようとする一か月前だった。ある日の仕事の帰り道、信号待ちの横断歩道の向かい側で青と白のボーダーのトレーナーを着た見知らぬ男が私の方を睨んでいることに気づいた。信号が青になり横断歩道をみんなが渡り始めても男は移動することなく、じっと私を睨み続けていた。その日は関わりたくない気持ちが強かったので振り返ることなく足早に帰ったが、次の日もその次の日も青と白のボーダーのトレーナーを着た男は同じ場所に立って私を睨み続けていた。あまりにも気持ち悪く、仕事の帰り道のルートを変更したところ、男の姿は見えずホッと一安心したのを覚えている。しかし、3日後変更したルートに男は立っていた。この時になってようやく青と白のボーダーのトレーナーに見覚えがあることに気づく。あれは轢いてしまった子供の父親が事故当時来ていた服装だ。あの事故以外は恨まれるような人生を歩んできたつもりはない。顔をはっきりと覚えていないので断言はできないが、睨んでいることからもあの子供の父親に違いない。事故当時の服を着つづけているのもわざとだろう。怒りが収まらなくて私に嫌がらせを始めたに違いない。

 事故のときにお世話になった弁護士に相談するとストーカー行為に繋がるかもしれないとの話だった。弁護士から得た助言通りまずは警察に相談をしてみたが、子供の父親の顔を覚えていないため私自身が断言できないこと、嫌がらせを直接受けたわけでもなく、防犯カメラに映らないような位置に立っているためこれといった証拠がなく、積極的に動けないとのことだった。見回りを強化するとのことで話はいったん終わった。

ストーカー行為の証拠として写真、動画、録音が有効とのことで、明日には電器屋に行って防犯のための準備をしたい。