1日目
今日、夢の国から旦那さんと我が家に帰ってきました。
ふたりともに旅の疲れは残っていたけれど、後が面倒になることもあり早々に荷物の片づけを始めることにしました。
そして、旅行用のボストンバックを開いたとき、驚くようなことが起きました。
「だぁあ!」
と鳴きながら、両手を挙げたぬいぐるみのクマが飛び出してきたのです。
ぬいぐるみのクマはバックから飛び出した後は、ぱっちりとしたおめめでわたしたち夫婦に目を合わせると、前足と後足を一生懸命使いながら赤ちゃんのようによちよちと動き出しました。
はたしてわたしはいつの間に夢の国でクマのぬいぐるみを買ったのでしょうか、などと記憶にないことを思い出そうとはしましたが、当然それどころではありません。ぬいぐるみのクマが一人で勝手に動いているのです。あまりの出来事にわたしはしばらく口を開けませんでした。
わたしたちが呆然としている間もぬいぐるみのクマは部屋中を動きながら、何の意味があるのかは分かりませんがときおり壁をトントンと叩いていました。
そんな様子を見ていると、目の前で本当にあり得ないことが目の前に起きていることは理解していましたが、いつの間にかある感情がわたしに芽生えていました。たしかに目の前で起きていることは異常なことです。でも、それ以上にぬいぐるみのクマ、すごくかわいい。
見た目もかわいいけれど、生まれたてのように不自由ながらも一生懸命動き回る姿が特に可愛くてたまりません。気づけば不思議よりも「かわいい」がわたしの中で勝ってしまっていたというわけです。つまり、ぬいぐるみのクマからクマちゃんに変わった瞬間でした。
「名前、付けていい?」
と旦那さんに視線を向けると、初めは困った表情を浮かべていました。直接言わなくてもわたしがクマちゃんと一緒に暮らしたいと言いたいということが伝わったのだと思います。普通に考えれば警察…いや、博物館……分からないけれど国の何かしらの機関にお知らせ案件になるのだとは思います。それを二人の秘密にして暮らそうというのです。こんなファンタジーでしかありえない状況を受けいれるなんてことはなかなかできるものではありません。旦那さんが二つ返事ができないのも仕方ないことだと思います。
しばらくすると旦那さんは仕方ないなという笑みを浮かべて、
「君の好きにすればいいよ」
と言ってくれました。
こうして我が家にクマちゃんが住むことになりました。
そして、最初にわたしからクマちゃんにプレゼントしてあげたいものがあります。
それが名前です。
ぬいぐるみなのでオスかメスかわからないけれど、顔つき的に男の子のように感じ取れます。クマちゃんにどちらなのか話しかけてみたけれど、しっかりとした返事が戻ってくることはありませんでした。
あとはこの子なりの特徴が欲しいところです。
どちらかといえばクマの方から影響するよりも、かわいい雰囲気に合った名前を付けてあげたいかな。なかなか決まらないので旦那さんに相談してみたけれど、結局は一緒に暮らしたいことを望んだわたしが決めることになりました。ふたりで決めたかったのにちょっといけずです。
寝るギリギリまで考えて
「ダースケ」
というクマちゃんの名前に決まりました。
バックから飛び出した時のかわいい「だぁあ」という鳴き声に、男の子だと分かるような名前を足してみました。
名前を聞いた旦那さんは複雑そうな顔をしていたので、もしかしたらクマちゃんのことを女の子だと思っていたのかもしれません。まぁでも、わたしが名前を決めていいと言ったのは旦那さんなので、残念ながら覆ることはありません。
明日からもよろしくね、ダースケ。
2日目
2日目にして大きな問題がやってきました。
ダースケのご飯問題です。
そもそもぬいぐるみなのでお腹が減らないのではというのがあって昨日からご飯を挙げていなかったのですが、予想外なことに目の前のダースケのお腹からは「くぅ~」と虫の声が鳴っていました。動くということはお腹もすくということなんでしょうか。
さっそくご飯を用意しようと思いましたが、ここで大きな問題にぶち当たりました。
クマのぬいぐるみは何を食べるか問題です。
旦那さんに相談したところ、
「ぬいぐるみは分からないけど、クマなら鮭などの生魚になるのかなぁ」
と、台所から調理前のサンマを持ってきてくれました。ちなみにわたしは生臭いのでそのままの魚は苦手だったりします。同じ生でもお刺身なら大丈夫なんですけね。
ついでに肉を食べるかもしれないので鳥のささ身(もちろん生)、わたしからはぬいぐるみということもあり、一口で食べることができるように小さくした毛玉を用意してみました。
3皿を並べて、様子を見てみることにしましたが、ダースケは全てに目を向けはしたけれど、手を付けることはせず、せつなそうな顔をしてわたしたち夫婦を見つめてきました。
あいかわらずお腹からは「くぅー、ぐぅー」と音が鳴り響いています。
なんだか可哀想な気持ちになり、すき焼きにする予定だった牛肉やかつ丼予定の豚肉、姿焼き予定だったイカ、あとは山の幸として子供のおままごとで使うブドウの形をしたプラスチックのおもちゃなども用意しました。けれどダースケがどれがに手を付けることはありませんでした。
何がダメなのでしょうか。ぬいぐるみなのでお腹が減らないというのなら、おなかの音が鳴るということは矛盾していることになります。だからといってクマが食べそうなものやぬいぐるみに合わせたものもダメでした。
そのときです。追加で10皿ほど並べても食べてくれないダースケに悩んでいたわたしに急に一筋の光が差し込んできました。
「もしかして個体じゃなくて液体なのでは?」
液体ならぬいぐるみが口に付けても生地に染み込んでいきます。つまりそれは体に吸収されるということになるのではないでしょうか。
わたしは台所にダッシュし、大皿に水道水をなみなみと入れてダースケの前に置いてみました。
すると、
「だぁ」
と、ダースケは顔全体を水につけて飲み始めました(それとも顔全体から水を生地に吸収しているのでしょか?)
その姿にようやくわたしも安心でき、横にいた旦那さんもほっとできたのか、笑顔を浮かべながらダースケの頭を撫でて、
「もう、おやすみ」
と、ダースケを寝かしつけました。
「君も、もう寝る時間だよ」
わたしもその日はもう寝る時間なので寝ることにしました。
お腹いっぱいになって良かったね、ダースケ。
3日目
ダースケは早起きさんかもしれません。
昨日もでしたが、今日もわたしが起きる頃にはすでにダースケも目を覚ましていました。
でも今日のダースケは様子がすこしおかしいです。
「だぅー、だぅー」
と、わたしが起きてから少し唸るような鳴き声を発しながら苦しそうに震えています。
何があったのか話しかけてみても返事はありません。
お医者さんに連れていくわけにも行かないし、そもそも連れていくにしてもどこの科に連れて行けばいいのか分かりません。当然のことながら小児科ではないし、獣医でもないでしょう。そもそもぬいぐるみなのでどうすればいいのかさっぱりです。ぬいぐるみ屋さんにでも連れて行けばいいのでしょうか。といっても動いているぬいぐるみの姿なんて見たら大騒ぎになるだけでしょうけど。
ダースケのことは心配でしたが、わたしたち夫婦もご飯を食べないと生きることはできません。旦那さんが、
「ご飯できたよー」
と、声をかけてきたので、お隣の部屋で食事をとることにしました。ちなみにおかずは白身魚のフライで、旦那さんの作ってくれた料理はとても美味しかったです。
食事の後に夫婦団らんを過ごしてから、水道水を入れた大皿を持ってダースケがいる部屋に行きました。
部屋に戻ってみると先ほどとは変わり、ダースケは唸ることも震えることもしなくなっていました。おとなしくだるそうに寝ころんでいます。
でもダースケ以外のことでも部屋の光景が違っていました。
ダースケの周りには大小の黄色い毛糸の玉や茶色い毛糸の玉が転がっていました。コロコロといくつも転がっています。
そこでわたしはピンときました。本当に今日は冴えているかもしれません。
わたしの推理が正しければ、この黄色や茶色の毛糸の玉はダースケのおしっこやうんちに違いありません!だから先ほど苦しそうに唸って震えていたのも、シンプルに用を足すために踏ん張っていただけだったのではないでしょうか。
ぬいぐるみからおしっこやうんちが出るのかどうかは知りません。成分を調べたとしても分からないでしょうし、きっとただの毛糸の玉だと判断されるでしょう。なぜならダースケの存在自体がありないわけで、何が起きても誰にも答えは分からないからです。
でもこの状況が証拠となるのではないでしょうか。確信をもって言えます。
しかし、うんちが茶色い毛糸の玉というのはメルヘンでかわいいです。まるで絵本のような世界でなんだかほっこりしていまいます。
だからといって毛糸の玉といえどもダースケにとってはおしっこやうんちに違いはありません。きっと残ったままでは嫌がることでしょう。
片づけようとわたしが手を伸ばすと、
「僕がやるよ」
と、旦那さんはわたしの腕をつかみ、この場から離れるように言ってきました。汚くないから別にいいのにと思いましたが、さすが優しいわたしの旦那さんです。惚れ直すとはこのことでしょう。
わたしが部屋の隅に移動したのを確認すると、旦那さんはちりとりなど道具を使って毛糸の玉を集め、雑巾で床を拭いてから、除菌スプレーを吹きかけていました。そしてダースケにおむつを履かせてくれました。
きれいになった床を確認した旦那さんは、
「そろそろ寝る時間だよ」
とわたしと一緒に寝室に行きました。
病気じゃなくて安心したよ、ダースケ。
4日目
ダースケは思っていたよりも賢いことが分かりました。
どうやらわたしたちの言葉が理解できるようです。
旦那さんはすでにそのことに気づいていたのだと思います。わたしが赤ちゃんにするように言葉かけることに対して、旦那さんはわたしと話すようにダースケに言葉をかけていたのです。それに対してダースケはさすがに言葉を発しないものの、肯いたり、逆に首を横に振っていたりしていました。
そのことを旦那さんに確認すると、「そうだよ」と優しく肯いてくれました。
「お水飲む?」
と、試しにダースケに聞いてみると、その時は必要なかったのか首を横に振りました。
言葉が理解できることは意思疎通することに繋がっていきます。それでもなかなか上手くはいってくれません。
「こっちおいでー」
と、わたしが両腕を広げても、ダースケ自身の意思があるので機嫌が良くなければ来てはくれません。何度も繰り返したのですが、ダースケがわたしの方に向かおうとしてくれたのは16回目のことでした。わたしの後ろで床を踏み抜く音がしてびっくりしたのでよく覚えています。あとで聞いたら旦那さんがジャンプをして着地した音が響いただけだったみたいです。人騒がせな旦那さんです。
「ダースケはなにをして遊びたいのかなぁ」
ダースケは言葉を理解できても発することはできません。なので結局は「はい」「いいえ」しかわたしたちに伝えることができないので、このような具体的な答えが必要な質問には向いていません。
なので、いざ泣きはじめると、その原因が分からないのでどうにもなりません。
抱っこをしてあやそうと思ったのですが、旦那さん曰くかなり重いらしく、わたしではぎっくり腰になってしまうかもしれないそうです。わたしも力に関してはそんなに自信があるわけでもありませんので諦めるしかありません。
仕方なくDVDを差し込み、「おかあちゃんといっしょに」コンサートをテレビに映します。くまのぬいぐるみに効果があるのかは分かりませんが、この手の番組は子供を泣き止ます力があります。最初は反応が薄かったのですが、音を大きくしたら泣き止んでくれました。一安心といったところでしょうか。
あとは旦那さんの方でなんとかしてくれるみたいで、今日のところはおやすみと言われました。
明日も一緒にテレビ見ようね、ダースケ
×日目
今日は3人でお出かけしちゃいます。
誰にも見られないようにダースケにはバックに入ってもらってのお出かけです。
続きの日記は帰ってから書きます。
みんなで楽しもうね、ダースケ
今日、夢の国から旦那さんと我が家に帰ってきました。
ふたりともに旅の疲れは残っていたけれど、後が面倒になることもあり早々に荷物の片づけを始めることにしました。
そして、旅行用のボストンバックを開いたとき、驚くようなことが起きました。
「だぁあ!」
と鳴きながら、両手を挙げたぬいぐるみのクマが飛び出してきたのです。
ぬいぐるみのクマはバックから飛び出した後は、ぱっちりとしたおめめでわたしたち夫婦に目を合わせると、前足と後足を一生懸命使いながら赤ちゃんのようによちよちと動き出しました。
はたしてわたしはいつの間に夢の国でクマのぬいぐるみを買ったのでしょうか、などと記憶にないことを思い出そうとはしましたが、当然それどころではありません。ぬいぐるみのクマが一人で勝手に動いているのです。あまりの出来事にわたしはしばらく口を開けませんでした。
わたしたちが呆然としている間もぬいぐるみのクマは部屋中を動きながら、何の意味があるのかは分かりませんがときおり壁をトントンと叩いていました。
そんな様子を見ていると、目の前で本当にあり得ないことが目の前に起きていることは理解していましたが、いつの間にかある感情がわたしに芽生えていました。たしかに目の前で起きていることは異常なことです。でも、それ以上にぬいぐるみのクマ、すごくかわいい。
見た目もかわいいけれど、生まれたてのように不自由ながらも一生懸命動き回る姿が特に可愛くてたまりません。気づけば不思議よりも「かわいい」がわたしの中で勝ってしまっていたというわけです。つまり、ぬいぐるみのクマからクマちゃんに変わった瞬間でした。
「名前、付けていい?」
と旦那さんに視線を向けると、初めは困った表情を浮かべていました。直接言わなくてもわたしがクマちゃんと一緒に暮らしたいと言いたいということが伝わったのだと思います。普通に考えれば警察…いや、博物館……分からないけれど国の何かしらの機関にお知らせ案件になるのだとは思います。それを二人の秘密にして暮らそうというのです。こんなファンタジーでしかありえない状況を受けいれるなんてことはなかなかできるものではありません。旦那さんが二つ返事ができないのも仕方ないことだと思います。
しばらくすると旦那さんは仕方ないなという笑みを浮かべて、
「君の好きにすればいいよ」
と言ってくれました。
こうして我が家にクマちゃんが住むことになりました。
そして、最初にわたしからクマちゃんにプレゼントしてあげたいものがあります。
それが名前です。
ぬいぐるみなのでオスかメスかわからないけれど、顔つき的に男の子のように感じ取れます。クマちゃんにどちらなのか話しかけてみたけれど、しっかりとした返事が戻ってくることはありませんでした。
あとはこの子なりの特徴が欲しいところです。
どちらかといえばクマの方から影響するよりも、かわいい雰囲気に合った名前を付けてあげたいかな。なかなか決まらないので旦那さんに相談してみたけれど、結局は一緒に暮らしたいことを望んだわたしが決めることになりました。ふたりで決めたかったのにちょっといけずです。
寝るギリギリまで考えて
「ダースケ」
というクマちゃんの名前に決まりました。
バックから飛び出した時のかわいい「だぁあ」という鳴き声に、男の子だと分かるような名前を足してみました。
名前を聞いた旦那さんは複雑そうな顔をしていたので、もしかしたらクマちゃんのことを女の子だと思っていたのかもしれません。まぁでも、わたしが名前を決めていいと言ったのは旦那さんなので、残念ながら覆ることはありません。
明日からもよろしくね、ダースケ。
2日目
2日目にして大きな問題がやってきました。
ダースケのご飯問題です。
そもそもぬいぐるみなのでお腹が減らないのではというのがあって昨日からご飯を挙げていなかったのですが、予想外なことに目の前のダースケのお腹からは「くぅ~」と虫の声が鳴っていました。動くということはお腹もすくということなんでしょうか。
さっそくご飯を用意しようと思いましたが、ここで大きな問題にぶち当たりました。
クマのぬいぐるみは何を食べるか問題です。
旦那さんに相談したところ、
「ぬいぐるみは分からないけど、クマなら鮭などの生魚になるのかなぁ」
と、台所から調理前のサンマを持ってきてくれました。ちなみにわたしは生臭いのでそのままの魚は苦手だったりします。同じ生でもお刺身なら大丈夫なんですけね。
ついでに肉を食べるかもしれないので鳥のささ身(もちろん生)、わたしからはぬいぐるみということもあり、一口で食べることができるように小さくした毛玉を用意してみました。
3皿を並べて、様子を見てみることにしましたが、ダースケは全てに目を向けはしたけれど、手を付けることはせず、せつなそうな顔をしてわたしたち夫婦を見つめてきました。
あいかわらずお腹からは「くぅー、ぐぅー」と音が鳴り響いています。
なんだか可哀想な気持ちになり、すき焼きにする予定だった牛肉やかつ丼予定の豚肉、姿焼き予定だったイカ、あとは山の幸として子供のおままごとで使うブドウの形をしたプラスチックのおもちゃなども用意しました。けれどダースケがどれがに手を付けることはありませんでした。
何がダメなのでしょうか。ぬいぐるみなのでお腹が減らないというのなら、おなかの音が鳴るということは矛盾していることになります。だからといってクマが食べそうなものやぬいぐるみに合わせたものもダメでした。
そのときです。追加で10皿ほど並べても食べてくれないダースケに悩んでいたわたしに急に一筋の光が差し込んできました。
「もしかして個体じゃなくて液体なのでは?」
液体ならぬいぐるみが口に付けても生地に染み込んでいきます。つまりそれは体に吸収されるということになるのではないでしょうか。
わたしは台所にダッシュし、大皿に水道水をなみなみと入れてダースケの前に置いてみました。
すると、
「だぁ」
と、ダースケは顔全体を水につけて飲み始めました(それとも顔全体から水を生地に吸収しているのでしょか?)
その姿にようやくわたしも安心でき、横にいた旦那さんもほっとできたのか、笑顔を浮かべながらダースケの頭を撫でて、
「もう、おやすみ」
と、ダースケを寝かしつけました。
「君も、もう寝る時間だよ」
わたしもその日はもう寝る時間なので寝ることにしました。
お腹いっぱいになって良かったね、ダースケ。
3日目
ダースケは早起きさんかもしれません。
昨日もでしたが、今日もわたしが起きる頃にはすでにダースケも目を覚ましていました。
でも今日のダースケは様子がすこしおかしいです。
「だぅー、だぅー」
と、わたしが起きてから少し唸るような鳴き声を発しながら苦しそうに震えています。
何があったのか話しかけてみても返事はありません。
お医者さんに連れていくわけにも行かないし、そもそも連れていくにしてもどこの科に連れて行けばいいのか分かりません。当然のことながら小児科ではないし、獣医でもないでしょう。そもそもぬいぐるみなのでどうすればいいのかさっぱりです。ぬいぐるみ屋さんにでも連れて行けばいいのでしょうか。といっても動いているぬいぐるみの姿なんて見たら大騒ぎになるだけでしょうけど。
ダースケのことは心配でしたが、わたしたち夫婦もご飯を食べないと生きることはできません。旦那さんが、
「ご飯できたよー」
と、声をかけてきたので、お隣の部屋で食事をとることにしました。ちなみにおかずは白身魚のフライで、旦那さんの作ってくれた料理はとても美味しかったです。
食事の後に夫婦団らんを過ごしてから、水道水を入れた大皿を持ってダースケがいる部屋に行きました。
部屋に戻ってみると先ほどとは変わり、ダースケは唸ることも震えることもしなくなっていました。おとなしくだるそうに寝ころんでいます。
でもダースケ以外のことでも部屋の光景が違っていました。
ダースケの周りには大小の黄色い毛糸の玉や茶色い毛糸の玉が転がっていました。コロコロといくつも転がっています。
そこでわたしはピンときました。本当に今日は冴えているかもしれません。
わたしの推理が正しければ、この黄色や茶色の毛糸の玉はダースケのおしっこやうんちに違いありません!だから先ほど苦しそうに唸って震えていたのも、シンプルに用を足すために踏ん張っていただけだったのではないでしょうか。
ぬいぐるみからおしっこやうんちが出るのかどうかは知りません。成分を調べたとしても分からないでしょうし、きっとただの毛糸の玉だと判断されるでしょう。なぜならダースケの存在自体がありないわけで、何が起きても誰にも答えは分からないからです。
でもこの状況が証拠となるのではないでしょうか。確信をもって言えます。
しかし、うんちが茶色い毛糸の玉というのはメルヘンでかわいいです。まるで絵本のような世界でなんだかほっこりしていまいます。
だからといって毛糸の玉といえどもダースケにとってはおしっこやうんちに違いはありません。きっと残ったままでは嫌がることでしょう。
片づけようとわたしが手を伸ばすと、
「僕がやるよ」
と、旦那さんはわたしの腕をつかみ、この場から離れるように言ってきました。汚くないから別にいいのにと思いましたが、さすが優しいわたしの旦那さんです。惚れ直すとはこのことでしょう。
わたしが部屋の隅に移動したのを確認すると、旦那さんはちりとりなど道具を使って毛糸の玉を集め、雑巾で床を拭いてから、除菌スプレーを吹きかけていました。そしてダースケにおむつを履かせてくれました。
きれいになった床を確認した旦那さんは、
「そろそろ寝る時間だよ」
とわたしと一緒に寝室に行きました。
病気じゃなくて安心したよ、ダースケ。
4日目
ダースケは思っていたよりも賢いことが分かりました。
どうやらわたしたちの言葉が理解できるようです。
旦那さんはすでにそのことに気づいていたのだと思います。わたしが赤ちゃんにするように言葉かけることに対して、旦那さんはわたしと話すようにダースケに言葉をかけていたのです。それに対してダースケはさすがに言葉を発しないものの、肯いたり、逆に首を横に振っていたりしていました。
そのことを旦那さんに確認すると、「そうだよ」と優しく肯いてくれました。
「お水飲む?」
と、試しにダースケに聞いてみると、その時は必要なかったのか首を横に振りました。
言葉が理解できることは意思疎通することに繋がっていきます。それでもなかなか上手くはいってくれません。
「こっちおいでー」
と、わたしが両腕を広げても、ダースケ自身の意思があるので機嫌が良くなければ来てはくれません。何度も繰り返したのですが、ダースケがわたしの方に向かおうとしてくれたのは16回目のことでした。わたしの後ろで床を踏み抜く音がしてびっくりしたのでよく覚えています。あとで聞いたら旦那さんがジャンプをして着地した音が響いただけだったみたいです。人騒がせな旦那さんです。
「ダースケはなにをして遊びたいのかなぁ」
ダースケは言葉を理解できても発することはできません。なので結局は「はい」「いいえ」しかわたしたちに伝えることができないので、このような具体的な答えが必要な質問には向いていません。
なので、いざ泣きはじめると、その原因が分からないのでどうにもなりません。
抱っこをしてあやそうと思ったのですが、旦那さん曰くかなり重いらしく、わたしではぎっくり腰になってしまうかもしれないそうです。わたしも力に関してはそんなに自信があるわけでもありませんので諦めるしかありません。
仕方なくDVDを差し込み、「おかあちゃんといっしょに」コンサートをテレビに映します。くまのぬいぐるみに効果があるのかは分かりませんが、この手の番組は子供を泣き止ます力があります。最初は反応が薄かったのですが、音を大きくしたら泣き止んでくれました。一安心といったところでしょうか。
あとは旦那さんの方でなんとかしてくれるみたいで、今日のところはおやすみと言われました。
明日も一緒にテレビ見ようね、ダースケ
×日目
今日は3人でお出かけしちゃいます。
誰にも見られないようにダースケにはバックに入ってもらってのお出かけです。
続きの日記は帰ってから書きます。
みんなで楽しもうね、ダースケ