2023年6月。
 とある心霊番組がお蔵入りになりました。
 今回、私はその経緯を説明しようと思います。
 一連の経緯を公開するのは、ある種の供養です。
 どうか必ず最後まで読んでください。
 よろしくお願いします。

 私の職業は構成作家です。
 件の心霊番組の制作に関わったのは、知人の紹介がきっかけでした。
 プロデューサーの三島さんと何度か話をして、彼の熱意に押し負ける形で仕事を受けることにしました。
 報酬は決して高くなかったのですが、当時はスケジュールに余裕があり、金銭的にもやや切迫していました。
 今ならばきっと受けなかった仕事だと思います。

 私は脚本として参加しました。
 まず最初に、三島さんとディレクターの加藤さんの三人で意見を交わし、心霊番組の方向性を決めていきました。
 三人の中で心霊系に詳しいのは加藤さんでした。
 ホラーというジャンルが大好きで、映画やドラマを見漁っていたそうです。
 私達は加藤さんの意見や趣味嗜好をベースに打ち合わせを進めました。

 その結果、『霊能者と呪物の対決企画』という内容に決定しました。
 ただし番組は全面的にヤラセ前提……厳密にはそういう体のフィクションです。
 所謂モキュメンタリーと呼ばれるものを作ることになりました。
 番組の各所に意味深な伏線を張り巡らせて、視聴者による考察を促す。
 昨今のSNS文化に適したスタイルであり、企画はすんなりと通りました。

 私はさっそく番組の脚本を執筆し、大筋が出来上がったところで提出しました。
 こちらも特に大きな修正もなく完成しました。
 番組スタッフは、手分けして放送に使う呪物の収集を始めました。
 もちろん用意する呪物は偽物です。
 大半はリサイクルショップで調達するか、百均の商品をそれっぽく加工した物でした。
 チープな感じは否めませんでしたが、それはそれで雰囲気があったと思います。

 並行して演者の募集も開始しました。
 私も面接官として参加し、自分の脚本に合う方を探しました。
 別に丸投げしてもよかったのですが、せっかくの機会なので同席させてもらったのです。

 オーディションの序盤は退屈でした。
 素人から役者の卵まで様々な人が出てきましたが、特筆するような方はいません。
 マイナーな地方テレビの低予算番組ですから、予想通りの状況ではあります。
 流れが変わったのは、終盤に一人の男性が出てきた時です。
 その男性は自称・霊能者でした。