この時代の写真撮影をバカにしてしまった俺は、お姉ちゃんから長時間のお説教を食らっていた。
「前々から言いたかったんだけど、あんたさ。かなりの性悪女だよね?」
あらぬ疑いをかけられて、俺は必死に反論する。
「は、はぁ!? 私が性悪女だなんて、どこを見て言ってるの? お姉ちゃんでもさすがにその発言は許せないよ!」
「だってさ……男の子がプリクラを誘っているのに『金の無駄遣い』とか言うわりに。その子が連れていってくれたイタリアンレストランで、7000円以上も使わせて何もないんでしょ? 鬼塚て子がかわいそうだよ」
この前の”イタ飯屋”でのことを言いたいんだろう。
しかし、あの日の出来事は俺と鬼塚しか知らないはずだ。一体誰から聞いたんだ?
「な、なんでそのことをお姉ちゃんが知ってるの……?」
「あんたは知らないと思うけど、鬼塚くんのお母さんとうちのお母さん。トラック事故以来、しょっちゅう電話する仲なの。だからリビングでおやつを食べてたら、たまたま聞こえたのよ」
「う……」
「悪いことを言わないから、鬼塚くんとプリクラを一緒に撮ってきな。たまには、藍の方から誘ってね」
そう言うとローテーブルの上に置かれていたプリクラをまとめて、ジッパーのついたビニール袋に入れる。
デコったプリクラ帳に貼り終えたけど、余ったプリクラは別途保管するみたいだ。
”ばく●んいわ”みたいな顔してるくせに几帳面だな。
「私の方から誘うって……どうやって誘えばいいの?」
「は? 普通に学校で会ったら、誘ったらいいじゃん」
「いや、なんかちょっと。自分から一度断っておきながら、プリクラを誘うのは恥ずかしいかな……」
「めんどくさい女だねぇ~ 処女みたいで超うざいんだけど!」
どう考えても処女だし、お母さんからは結婚するまで純潔を貫けと言われてるのに。
いろいろと、めんどくさい家庭環境だな。
「でも、恥ずかしいものは仕方ないじゃん……」
「あぁ~ もうわかったよ! なら、これをあげる。そこにもプリクラがあるはずだから、それなら誘いやすいでしょ?」
そう言ってお姉ちゃんが差し出したのは、二枚の割引券だった。
”スペースワールド 冬の割引券”と書いてある。
あ、そう言えばそんな名前の遊園地が福岡にはあったけ?
でも前世じゃ、確かもう潰れてたような……。
~数日後~
お姉ちゃんから鬼塚と一緒にプリクラ撮影をするため、誘いやすいように遊園地の割引券をもらった。
しかし、俺は何日経っても鬼塚を誘えずにいた。
気がつけば年を越し、新年を迎えてしまった。
大体どうやって、「遊園地に行こう」なんて言えばいいんだ? 彼の住んでいるマンションなら知ってるけど……。
いきなりチャイムを鳴らすのも恥ずかしい。
かと言って電話番号は知らないし……いや、待てよ。このアナログな時代なら”クラスの連絡網”っやつが配布されているはずだ!
連絡網の存在を思い出した俺は、二階の自室から飛び出て階段を駆け下りていく。
リビングにある自宅の電話台の下にある棚から、一つのファイルを取り出す。
「あった!」
”真島中学校 1年7組連絡網”とある。
そのプリントにはクラス全員の電話番号が書いてあった。
鬼塚もあるし、優子ちゃんの自宅も。それに今や行方不明のあゆみちゃんの連絡先も……。
電話なら相手の声だけだし、すぐに鬼塚が電話に出てくれるだろう。
そう思った俺は受話器を手に持ち、連絡網を見ながら電話番号を打ち込む。
するとすぐにベル音が聞こえて来た。
『トゥルル……もしもし? どなたですか?』
え? 女の人の声? 間違えて別の生徒に電話したかな。
緊張から喉が渇いてしまい、うまく話せない。
「あ、あの……私、真島中学校の水巻 藍って言います。鬼塚くんの家であってますか?」
俺がそう言った瞬間、相手の声が柔らかくなる。
『あらぁ~ 藍ちゃんだったの? おばさん、誰かわからなくてごめんねぇ』
「いえ……あの鬼塚くんいますか?」
『もちろん、いるよぉ~ ちょっと待っててね。良ちゃん! 電話よ、藍ちゃんから!』
すると、何やらものすごい音が聞こえてきた。
何か物が床に落ちたのかな?
『母ちゃん! 水巻が聞いているのに、俺のことを良ちゃんて呼ぶのはやめてくれよ!』
『別にいいじゃない。藍ちゃんなんだし……』
『もう良いから、早く替わってよ!』
なんだか生活感の溢れる音を聞いてしまったな。
『もしもし水巻? 電話なんて一体どうしたんだ?』
「あのさ……もうすぐ冬休みが終わるじゃん? だから、そのたまたまお姉ちゃんから割引券をもらったから一緒にいかない? スペースワールドへ」
『え……? それって俺と水巻の二人きりでっことか!?』
「無理なら、断ってくれていいよ……」
『いやいや! 絶対に行くから、いつ行くのかだけ教えてくれ!』



