優子ちゃんとお姉ちゃんに手を振って、別れを告げる。
あれほど俺にベッタリだった優子ちゃんだが、意外と別れを惜しむことなく笑顔で機嫌が良かった。
お姉ちゃんが言うには「さっき撮った藍ちゃんとのツーショット写真が上手く撮れているか、気になるらしいんよ。今からスーパーの”バキバキ屋”へカメラを出しに行くんえ」だそうだ。
じゃあ上手く撮れてなかったら、俺はまた優子ちゃんの家に行って撮り直ししないとダメなのか?
とりあえず、自宅に向かって旧三号線の歩道を歩くことにした。
まだ朝の10時だし、もうちょっと外で遊んでみたいな。
そう思った俺は自宅から、少し遠回りになる中学校側へ向かう。
以前、鬼塚の弟。翔平くんと”ミニモーターカー”の大会で俺は準優勝した。
あれから、しばらく模型屋には顔を出していない。
久しぶりにあの店で新作の”ギャンプラ”をチェックするのも面白いかもな。
この世界では売れないプラモデルでも、あとでプレミア価格になる可能性もあるし……。
※
中学校近くの交差点で、信号が変わるのを待っていると。
近くから甲高い少年の声が聞こえて来た。
「お兄ちゃん! あと、もう一回でいいからやらせてよ!」
「翔平……そう言って3回目だぞ? お前、ゲーセンだけでお小遣い無くなっても知らないぞ」
ん? この聞きなれた少年たちの声は。
ふと、その声の持ち主に視線をやると……。
「あ、藍お姉ちゃん!」
「翔平くん?」
目が合ってしまった。
「水巻? お前、なんでこんなところに……」
そこには、懐かしい少年の姿があった。
ツンツン頭に褐色肌の鬼塚 良平が立っていたから。
折れた右腕も治ったようで、ギブスを外した手でこちらに手を振っている。
信号が変わるのを待っていたのに、俺は近くにある家電量販店へ向かうことにした。
その駐車場で鬼塚兄弟が何やら話している。
鬼塚の右腕も気になったので、声をかけることに。
「二人とも、こんなところで何をしているの?」
そう問いかけると、おかっぱ頭の弟。翔平くんが先に答えてくれた。
「聞いてよ! 藍お姉ちゃん、最近新しいゲームセンターがここにオープンしてさ! ”ファイティングパイパーズ”があるんだよ!」
うわっ……懐かしいゲームタイトルが出て来た。
「翔平、だからってお前。今月のお小遣いを全部使うことはないだろ?」
と兄の鬼塚が苦言を漏らす。
まあ、お兄ちゃんとしては使いすぎを止めたいのだろう。
しかし久しぶりに見た彼の姿だが、みすぼらしいな……。
以前に俺とイタリアンレストランを一緒に食べた時と同じく、中学校から支給されている紫のジャージに下はデニムのショートパンツ。
寒くないのか? いや、我慢しているのかもな。弟の翔平くんはダッフルコートを着ているし。
「そうだ! 藍お姉ちゃんも一緒に新しいゲームセンターで遊んでいこうよ!」
「え? 私も?」
「うん、前に家でゲームやったし、ゲームセンターでも遊べるんでしょ?」
「そ、それは……」
~10分後~
翔平くんに誘われて、そのままオープンしたばかりのゲームセンターに入ってみた。
彼のハマっている3D格闘ゲームを一緒にプレイしたけど、ボロ負け……。
もう500円ぐらい使っているけど、一回も勝てない。
「藍お姉ちゃん、弱いよぉ~」
「おかしいな……コントローラーのせいじゃないかな?」
「そんなことないよ! 単純に藍お姉ちゃんの練習が足りないんだって!」
なんか今日の翔平くんは妙に興奮しているな。
「まだやろう」という彼を見て、俺は追加の硬貨を出すため財布に触れようしたら、背後にいた鬼塚が声を荒げる。
「翔平! お姉ちゃんにお金を出させすぎだ! あとはお前が一人で遊んでいろ!」
「うっ……わかったよ」
振り返って、俺が鬼塚に「いいの?」と尋ねてみたが、どこか様子がおかしい。
何やら頬を赤らめて身体をもじもじとさせている。
「あ、あのさ……水巻さえ良かったらさ。”あれ”を一緒にやらないか!?」
「へ?」
「最近、稼働し始めたばかりのあのゲームなんだけど……」
そう言って、恥ずかしそうに彼が指を差す方向を辿ってみると。
その先にあったのは、縦長のピンク色の機体。元祖”プリント俱楽部”だ。
俺、前世ではプリクラを一度も撮ったことないんだよな……初めてをこいつと撮るのかよ?



