父さんが母さんで、母さんが父さん!?
 訳がわからない……つまり、俺があのクソ女神に美少女への転生を願ったから、家族も性別が逆になったというのか。
 色々としんどすぎるわ、このパラレルワールド。

 じゃあ、アレか。俺の知っている奴らはみんな性別が逆になっている世界なのか……。
 そんなことを考えながら、自室のドアを出ようとしたら、机の近くに貼ってあるカレンダーに目が入る。

「なっ!?」

 俺が住んでいた世界では、西暦2020年だったはず。
 なのに、このカレンダーは1995年と書いてある……。
 そういえば女神が転生する前に、37歳の俺が美人に転生しても年増だから、時を巻き戻すとか言ってたな。
 だからか!? あべこべの両親が若くなっていたのも!

 ちょっと待てよ……じゃあ、元の世界で隣りの部屋で暮らしていた兄さんは?
 俺とは違い、立派に大学を卒業し一流企業に勤めて、結婚までして子供が3人いる超リア充な中年のハゲ。
 おそるおそる、自室のドアノブを回し、隣りの部屋をノックしてみる。
 しかし、反応が無い。

 ひょっとして、一階のリビングにいるのだろうか?
 ゆっくりと、階段を降りていくと玄関が見えてくる。
 そこには一人の小さな少女が立っていた。

「あ、藍ちゃん!? 今日は起きられたんだね。待っているから、一緒に行こうよ」

 と優しく微笑む。
 まさか……この子が兄さん!?
 めっちゃ小さくなって、男らしさがどこにも無いじゃないか。

 前世ではモテモテ男だったのに。女々しさ、百倍だ。
 玄関まで降りてくると、お互いの身長差に驚きを隠せない。
 俺は女体化したと言っても、身長だけは前世と変わらず、165センチぐらい。
 しかし、目の前の女体化した兄さんと言ったら、小学生ぐらいの超低身長。

「藍ちゃん? どうしたの? ボーっとしちゃって……」
 
 と首をかしげる兄さん。
 実の兄弟だったが……ちょっと可愛い。
 眼鏡をかけ、頬に少しそばかすがあるけど、真面目そうな学生みたいだし。
 黒髪のショートヘアというのも、好印象だ。
 前世だったら、このまま部屋に連れ込みたいが、股間は役立たず。
 
「あ、あの……兄さん。ごめん、俺のせいでそんな姿に」
「え? お兄さん? 藍ちゃんの家って、お姉さんだけでしょ?」
「いや、そういう意味じゃなくて、俺が女体化を望んだから……」

 話が嚙み合ってない。
 どうやら、その光景を見ていた父さんじゃなかった……お母さんが俺の頭を軽く引っ叩く。

「あいたっ!」
「何をやってんの、藍。寝ぼけているのかしら? お姉ちゃんなら、もうとっくのうちに高校へ向かったでしょ」
「え、高校?」

 そうか。俺と兄さんは年が離れているから、1995年なら俺は中学1年生。
 兄さんは高校2年生か……。
 じゃあ、この目の前にいるセーラー服を着た女の子は、一体誰なんだ?

「あ、あの……ごめん。あなた、誰だっけ?」
「えぇ~ 酷いよぉ! 幼稚園の時から一緒だった優子だよ! ”桃川(ももかわ) 優子(ゆうこ)”」
「ゆう、こ……?」

 マジで誰だっ! 前世では、小学校で引きこもりになったから、中学の友達とか皆無だし。
 それに、こんな女の子。クラスにいたかな……。