マリンワールドから歩くこと、約2時間。
 ようやく、地元である”真島(まじま)”が見えて来た。
 鬼塚の家は俺の自宅よりも遠いのに「暗くなるから」と一緒に着いて来てくれた。
 自転車はパンクしてるのに、無理しちゃって……。

「じゃあ、今日は本当にごめんな。水巻、その帰りがこんな形になって……」
「自転車は仕方ないよ。でも、楽しかったし、お弁当もすごく美味しかったかな」
「そ、そっか……じゃあ、また明日、学校でな」
「うん」

 自分もヘトヘトだろうに、よっぽど嬉しかったんだろうな。
 前世ではこんな関係になれなかったのに……俺が女だから、優しくしてくれるのか?
 あいつが恋人とか、絶対に嫌だけど。こういう友達としてやり直すなら、楽しいかもしれない。


「ただいまぁ~」

 2時間も歩きっぱなしで、倒れそうだけど……。全身、汗でベトベトしているから、早くお風呂に入りたい。
 玄関にスニーカーを投げ捨て、洗面所へ向かう。
 着ていた服は全て、脱衣かごに投げ入れる。もちろん、下着もだ。
 どうせ、後でお母さんが畳み直して、洗濯機で洗ってくれるから。

  ※

「はぁ~ サッパリしたぁ~」

 素っ裸で浴室から出て来ると、近くにバスタオルが置いてあることに気がつく。
 きっと、お母さんが俺のために置いてくれたんだろう。
 ありがたく、そのバスタオルで全身を拭いていると……何やら足音が近づいてくる。

「藍っ! あ、あんた……これは一体どういうことなの!?」
「へ?」

 タオルで顔を拭いているから、目の前が見えない。
 この声はお母さんか。
 とりあえず、バスタオルを胸から巻いて、話を聞くことに。

「どうしたの? 私、まだ服を着てないんだけど」
「服って、あんたね。じゃあ、”これ”は本当に……つ、使ったってことなの!?」

 お母さんは顔を真っ赤にして、ビニール製の小さな袋を俺に突き出した。
 これは、すごくキラキラしたコンドーム!?
 鬼塚がお菓子と間違えて、数ミリ開封してしまったんだ。
 あの後、俺がすぐにカーディガンのポケットに直したけど、摩擦(まさつ)とかで更に切り口が開いてしまっている。

「いいっ!?」
「なに、その反応!? あんた、汗だくで帰って来て、すぐにお風呂へ入るなんて……」
「違うよ! 私はそんなこと何もしていないよ!」

 女体化したからって、すぐに男とするか!?
 それになんで、相手が鬼塚とかマジで無いし……。

「じゃあ、なんで少し開いているの? お母さん、いつも言っているわよね? ”初めて”は結婚まで守れって!」
「え?」

 そんな話、初めて聞いたけど。
 前世では男だったし……。

「藍、あなた女の子でしょ? 女の子は結婚するまで処女であるべきよ! 純潔でありなさい」
「はぁ……」
「そりゃあ、あんたがもし男の子だったら、好きにしたら良いわ。童貞とかさっさと捨てたらいいの。でも女の子ならそれは絶対に守るべきなの」
「お母さん。それってさ、性差別じゃない?」
「関係ないっ! あんたは私の娘なんだから、親ならみんなそう思います!」

 藍ちゃん、なんでモテないか分かってきたわ。
 この両親に育てられたら、そりゃ受動的な人生になりますよ。
 毒親すぎて、マジでハードモードだな。