「いやぁ~ 気持ち良い! な? ここのショーは、一番前の席に限るだろ」

 そう言って、俺に微笑む鬼塚。だが、いつもと雰囲気が違う。
 あ、ずぶ濡れになって、前髪が全部下りているからだ……。
 いつもツンツン頭だから気がつかなかった。
 こいつ、男のくせして小顔だし、目も大きいから前髪を下ろすだけで可愛く見えてしまう。

「聞いているか? 水巻」
「え……? あ、うんうん」

 声をかけられて、慌てて視線を下ろすと。偶然、彼の胸元に目が行く。
 白いタンクトップはびしょ濡れで、中が透けて見える。
 つまり、鬼塚の小さな”(つぼみ)”が丸見えな状態。

 それを見た俺は思わず、生唾を飲み込む。
 前世ではいじめられていたから、憎くて仕方なった。
 だから、こいつの顔を思い出すと殺意しかわかなかったのに……。
 女体化したせいか、鬼塚の幼い身体を見ると胸を打つ音が激しくなってしまう。

 それにしても、なんて可愛らしい(つぼみ)なんだ。
 小麦色に焼けた肌とは違い、ピンク色で美しい。
 美少女であるこの藍ちゃんでも、負けてしまう気が……。

 しばらく、俺が鬼塚の身体へ釘付けになっていると、彼が突然怒り始めた。

「おいっ! 水巻、お前早く身体を隠せよ! ほ、他の奴らが見ているぞ!」

 と顔を真っ赤にして、俺の胸元を指差す。
 彼がなぜこんなに怒っているのか理解できない。

「なんのこと?」
「み、水巻の胸が……透けているっことだよっ!」

 そう言われて、ようやく自身の胸元に視線を下ろすと。
 確かに彼の言う通り、ふくよかな胸の谷間が丸見えだった。
 急いでカーディガンを着て隠してみたが……どうやら、もう遅かったようだ。

 周りにいた観客は、みんな俺の胸に釘付け。
 中には、ビデオカメラで撮影するお父さんまで……。

「水巻、こっちに来い!」
「うん……」

 俺って、ちょっと隙がありすぎる女子なのかな?

  ※

 鬼塚に連れられて、一階まで逃げて来た。
 いくらカーディガンで隠しているとはいえ、中のワンピースはまだ濡れている。
 「ハンカチで、身体を拭きたいから」と鬼塚に説明して、女子トイレに逃げて来た。

 なぜ逃げたかと言うと、胸の高鳴りが治まらないからだ……。
 この藍という少女はまだ幼いのに、身体はもう大人。と言っても過言ではない。
 痩せているのに、胸だけはちゃんと発達してる。
 彼女の胸が大きすぎるせいか、心臓の音がすごくうるさい。

 女子トイレに設置してある鏡を見ながら、濡れた胸元をハンカチで拭う。
 鏡に映っているのは、自身の胸なのに。先ほど目に入った彼の小さな蕾が忘れられない。

 俺は一体、なにを考えているんだ?
 あんな奴の身体なんてどうでも良いはずなのに……。なんで繰り返し、頭の中で思い出しているんだ?
 ふと、鏡に映る自分の顔を見つめてみると、真っ赤だ。

「クソ……こんな顔じゃ、しばらくトイレから出られないよ」

 このあと、顔の色が正常に戻るまで30分もかかってしまった。


 トイレから出てくると、廊下でボーッと天井を眺める少年を見つけた。
 鬼塚だ。濡れていたタンクトップは、どうやらもう乾いているようだ。
 これで俺も理性を保てる。

「あ、ごめん。鬼塚、トイレが混んでいて……」

 俺が声をかけると、彼は「別に構わない」とそのままレストランへ行くことになった。
 ずっと気になっていたのだが、それは鬼塚が背負っているナップサックのこと。
 たぶん、小学校の授業で作った手作りの物だろう。

「ねぇ、そのナップサック。何が入ってんの?」
「あ、これか? 今日のお昼ご飯だよ」
「お昼ご飯……? レストランに来たから、そこで注文するんじゃないの?」
「はぁ!? そんなもの高いに決まってんだろ! だから俺が弁当を作って来たんだ。ちゃんと水筒とお菓子も持ってきたしな」
「……」

 小学校の遠足かよ? というか、お前は俺のお母さんじゃないだろう。