殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 ジンギスカンをたらふく食べた後、夕方になるまで「しばらくテント内で休んでいい」と言われた。
 優子ちゃんが「夜はみんなで温泉に入ろうね」と言ってきたので、俺は首をかしげる。

「温泉? そんなものここにあるの?」
「うん、あるよ! 九重山は温泉も有名だよ」
「へぇ~ そうなんだ。山しかない過疎地域かと思ってた……」
「だから、藍ちゃん。一緒に温泉で仲良く入ろうね!」
「……」

 このテント内で今、一緒に過ごしている女子たちを忘れてないか?
 俺と優子ちゃんだけで、温泉に入るわけじゃないだろう。

  ※

 夕方になり、近くに流れている川まで集まれと招集をかけられた。
 川にたどり着くと、炊事場にたくさんの野菜と肉が並べられている。
 各班に分かれて、今晩の料理になるカレーライスを作れと言われた。

 グループの中でも、白ご飯を炊く係と野菜や肉をカットする係、そしてルーを作る係に分かれて行動する。
「水巻さんはミスが多いので、簡単な白ご飯を炊く係が良いわね」
 とミルク先生に勝手に決められた。

 仕方ないので火おこしを始めるが、渡された道具がまさかの”弓切り式火おこし”。
 なんで、こんな原子的な料理体験をさせられるんだよ!
 ムカつきながらも、キコキコと音を立てて火を起こそうと頑張る。

 その間に食材をカットし終えた係が俺に文句を言ってきた。

「おせーんだよ! 早くしろよ、俺たちのクラスが一番遅いじゃねーか!」

 こんの野郎……じゃあ、お前がやってみろや!
 歯を食いしばって、文句を言ってくる奴らを睨んでいると、こちらに向かってくる少年がひとり。
 褐色肌のツンツン頭。鬼塚だった。
 紫のクッソ、ダサいジャージがよく似合う。

「水巻、貸してみろよ。やり方が違うんだよ」
「いや、でも……鬼塚は食材をカットする係でしょ?」
「俺のやる分は終わったから、手伝うよ。そっちの方が早く終わるだろ」
「う、うん」

 ちょっとだけ、こいつのことを頼りになる男として見てしまった。
 道具を鬼塚に渡すと、すぐに火がついた。

「うわっ、すごい!」
「水巻はこういうの初めてだろ? 俺は小学生のころ、ボーイスカウトに入ってたからさ」
「へぇ……鬼塚って、けっこうすごいんだね」

 そう言って、彼の大きなブラウンの瞳を見つめる。
 すると、鬼塚は頬を赤くして視線を落とす。

「も、もうこれで、自分でできるだろ? あとはひとりでやれよな」
「うん、ありがとう。鬼塚」
「別にいいって……」

 なんか調子の狂う奴だな。

 炊事場に移動して、かまどに火を点ける。
 白米の入った飯ごうをゆでるため、俺は竹筒を口にくわえて、勢いよく息を吹き出す。
 すると、かまどから灰色の煙がこちらに押し寄せて来た。
 目にしみるし、息苦しい。ぜんそく持ちの藍ちゃんの肉体じゃ、この作業はきついかも……。

「ゲホッ……ゴホッ……」

 いかん、発作が起き始めたかもしれない。
 そう思った瞬間に、誰かが俺の背中に触れて来た。

「水巻、お前はぜんそくがあるから、こんなのできねぇよ」

 振り返ると、両手に軍手をつけた鬼塚が立っていた。

「それ、貸しな。俺が代わるよ」

 そう言って、俺の持っていた竹筒をぶんどる。
 頬を赤くしながら、藍ちゃんの唇がついた竹筒を加えて、息を吹き出す。
 火力が一気に上がった。

「えほっえほっ……ほら、お前はここにいるなよ。また発作がでるぞ?」
「う、うん……」
 
 鬼塚が代わってくれたおかげで、うちの白ご飯はどの班よりも早く出来上がった。
 カレーのルーもできたから、木製のテーブルで夕ご飯を食べることになった。
 回復した俺は川の流れる音を聴きながら、何度もおかわりをする。

「先生、またおかわりしていいですか?」
「水巻さん。あなた、もう5杯目よ……」
「いやぁ~ 自分で作ったカレーは美味しいなと思って」