殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 体育祭は無事に終わり、俺と鬼塚の入っている黄色組は最下位で終わった。
 黄色組の責任者である中年の女性教師が「反省会をしよう」と、閉会式が終わっても帰らせてくれない。
 他の赤組と青組の生徒たちは自分たちのイスを持って、グラウンドから離れていくのに、俺たちは団長の言葉を待っている。
 だが、その団長を務める三年生の男子と女子は泣いて、なかなか言葉が出てこない。

「お、俺たちは負けました……しかも、最下位です。全部、自分の責任です。ううう……」
「女子も私の応援が足りなかったと思っています……」

 なんなんだ、このおめでたい奴らは?
 たかが体育祭ぐらいで、よくこんなに泣けるな……もう終わったんだから、早く帰してくれよ。

「ごめんね、みんな。この子たち、最後の運動会なのよ。やっぱり色んな思いを抱いて、体育祭に挑んだのだと思うの」

 どうでもいいわっ! 早く終われよっ!

 気がつけば、空が暗くなり、ポツポツと小雨が降り始めた。
 体操服とブルマが濡れて、地味に寒い。

「本当にっ! 今年は自分のせいで、みんなを巻き込んでごめんなっ!」
「来年こそ、みんな頑張ってね……」

 もう良いから、早く解散しろよ。

  ※

 結局、団長たちの話が長すぎて、体操服がずぶ濡れになってしまった。
 ジャージを着て、寒さを紛らわせる。
 もう他の組の生徒たちは、下校したようだ。

 俺と鬼塚は同じ黄色組だから、二人してイスを教室に戻す。
 机に置き手紙が残されていた。
 優子ちゃんからで「お姉ちゃんと先に帰るから、ごめんね」だそうだ。

 仕方ないので今日はひとりで帰るかと、カバンを肩にかけて帰ろうとしたら、鬼塚に声をかけられた。

「水巻、よかったら……一緒に帰らないか?」
「え?」
「雨で体操服が濡れたろ? 俺のバイクに乗せてやるよ」
「バイク……?」

 ~数分後~

 学校から少し離れたところに貯水池がある。
 そのフェンス裏に彼の言うバイクが停められていた。違法駐車だが……。
 以前、弟の翔平くんを乗せていたスクーターかな?

「ほら、お前のヘルメット」

 差し出して来たのは、ピンク色のヘルメット。
 クソダサいな。
 それにしても、このスクーターって原付バイクだよな? 法律上、二人乗りしても良かったけ。

 鬼塚がスクーターのシートに浅く腰を降ろし、その後ろに俺を乗せると言う。
 道路を走り始めたが、どう考えても重量オーバーなので、スクーターは時速20キロも走れない。
 コトトトッ……とゆっくり走るが、これなら歩いた方が早いんじゃないか。

 走りながら、鬼塚が「こんなバイクで悪いな」と叫ぶ。
 意味が分からないので、俺は「別に何とも思わないよ」と返した。
 すると、彼がボソッと呟く。
 
「いつか、もっと大きなバイクに乗せてやるからな……」
 
 なんかよく聞こえなかったのだが、こいつは俺がバイク好きだと勘違いしてないか?

 自宅の前に着くと、俺はスクーターから降りる。
 乗り心地が悪すぎて尻が痛むけど、一応鬼塚には礼を言っておく。

「あ、ありがとね……助かったよ」
「いや、気にしなくていいよ。このバイクも借り物だし」
「え? 借り物なの?」
「うん、新聞配達の店長から無料で借りてるんだ。ガソリンは俺持ちだけどさ……」

 と彼が恥ずかしそうに鼻の頭を掻いていると、背後に金髪のギャルが現れた。

「あのさ。家の前でエンジンをかけっぱなしに、しないでくれる?」

 鬼塚の後ろにモンスターの”ばく●んいわ”……じゃなかった俺のお姉ちゃんが立っていた。
 何やら機嫌が悪そうだ。ヘルメット姿の鬼塚を睨んでいる。

「す、すみません! 水巻のお姉さん……」
 
 急いでスクーターのエンジンを切って、ヘルメットを取る鬼塚。

「あのさ、鬼塚くんって言ったよね? あんた、まだ中二でしょ。なんで原付に乗ってんの?」
「いや、これは……バイト先で借りたので」
「関係ないでしょ! 法律はどうなってんの? 無免許じゃん。それに藍を乗せて帰って来たよね」
「はい……それがなにか?」
「なにかじゃないでしょ!? あんた、原付で二人乗りはできないじゃん。それに藍は女の子なのよ、あんたが事故って顔に傷でもついたらどうすんの!」
「ご、ごめんなさい」

 このあと、鬼塚はしばらくお姉ちゃんに叱られていた。