殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 お姉ちゃんから渡されたお金を持ち、ジャージの上着だけ羽織ってグラウンドを出る。
 階段を登って、学校の正門まで歩いて行くと、何やら泣き声が聞こえて来た。

「え……? 家に忘れ物を取りに行っただけですよ?」
「それでもルールはルールでしょ。さあ、頭を出して」
「は、はい……」

 見れば、うちの担任であるミルク先生がジャージ姿でバリカンを手に持ち、男子生徒の頭を刈っていた。
 素人なので、剃り残しが目立つ。
 坊主にされた男子は泣きながら、グラウンドに戻っていく。
 対して、女子はと言うと……。

「おい、お前! 学校の外に出たろ!?」

 女子バスケ部の顧問である”コル●ス”先生が、竹刀を持って叫ぶ。

「はい……」
「じゃあ、歯を食いしばれ!」

 次の瞬間、パーンという音が校舎に鳴り響く。
 叩かれた女子は片耳を手で押さえ、ふらつきながらグラウンドに戻る。

 もしかして、学校外に出ただけで、丸坊主か鼓膜を破られるのか!?
 嫌だ、そんなのまっぴらごめんだ。
 しかし、お腹空いたしな……どうしよう。

 その場で悩んでいると、ミルク先生が俺に気がついて近寄ってきた。

「あ、水巻さん。どうしたの? 学校から出たらダメだからねぇ~ 危ないよ?」

 と言いながら、笑顔でバリカンを取り出す。
 これは、脅しなのでは……?
 
「いえ、ちょっと道を間違えちゃって……」
「そうなんだ。今年は結構、うちの生徒が外に出たみたいだから、こうやって注意してるんだけどねぇ」

 なんて語っているが、目の前ではコル●ス先生による体罰が繰り返し行われている。
 空腹状態は辛いが、ここは我慢することにしよう。

  ※

 自分の教室に一旦、戻ろうかと思い、武道館の近くを歩いていると、小さな少年に声をかけられた。
 鬼塚の弟、翔平くんだ。

「藍お姉ちゃん、何しているの?」
「え? 私は……」

 言いかけている際中に、隣りに座っていた鬼塚と目が合う。
 あれ以来、彼とは口を聞いてない。
 同じ空間にいるだけで気まずい。しかし、弟の翔平くんが俺の腕を掴んで離さない。

「お姉ちゃんも一緒に、お昼ご飯を食べようよ!」
「でも、それはさすがに悪いから……」
「別に俺は構わないぜ? 水巻、さっきお前のお姉さんに会ったけど、おばさんが病気で弁当を作れなかったんだろ?」
「うん……」

 なんで、今日だけ以前のように話してくれるのだろう?
 調子が狂う。
 お前から急に距離を取ったくせにさ……。

「ほら、おかわりはたくさんあるから」
 
 そう言うと、大きな水筒のコップとラップに包まれたおにぎりを俺に差し出す。
 めっちゃ、おいしそう。思わずよだれが出て来た。
 雑にラップを取ると、おにぎりにかぶりつく。

「う~ん! これ、めっちゃおいし……」

 とは言えなかった。
 なぜなら、おにぎりの具がおかしかったからだ。
 噛めば嚙むほど、ねっとりとした甘さが口の中に広がる。
 これは……チョコレート?

「お、鬼塚……これってチョコなの?」
「え? そんなバカな!? うわっ……本当だ。悪い、水巻。シソを入れたつもりが間違えたみたいだ」
「……」

 他のおにぎりの中身もアメやら、わたがしやらお菓子が大量に混入していた。
 ちなみに、おにぎりに使われる塩も砂糖になっている。
 鬼塚は慌てて、鶏の唐揚げを俺にくれたが、隣りで座っていた翔平くんが耳打ちしてきた。

(最近のお兄ちゃん。バイトばかりして寝てないから、間違えたんだよ)

 それを聞いた俺は、翔平くんに耳打ちで返す。

(バイトってどんなことしているの?)
(今は新聞配達とスーパーの品出し、あと畑のお手伝いだね)