殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 それにしても鬼塚のやつ、今日一日の言動を見ても何か様子がおかしい。
 帰りがけに体育館をのぞいてみたが、男子バスケ部の中にあいつの姿はなかった。
 また部活をサボっているのかな? でも、鬼塚は大のバスケ好きだし……いじめも我慢するほど、部活にこだわっていた。
 そんな奴がいきなり休むだろうか。

 帰り際、優子ちゃんは美術部にその画力を買われて、体験入部することになった。
 本人は「美術など興味ない」と断っていたが、部長から「一度コンテストに出してよ」と強引に勧誘されていた。
 俺はひとりで通学路を歩いていると、見慣れたおかっぱ頭の少年を目にする。
 ランドセルを背負って、こちらに近づいて来た。

「あ、翔平くん。久しぶり!」
「藍お姉ちゃんだ! 本当に久しぶりだね。あ、この前にお兄ちゃんと映画を一緒に観たんでしょ? 面白かった?」
「え、映画ね……う~ん、私には難しい作品だったかな」
「そうなんだ。豚さんの映画なんでしょ? だいぶ前、金髪になる前のあゆみお姉ちゃんから、僕も『お兄ちゃんと一緒にどう?』って誘われたからさ」

 また闇落ちする前のあゆみちゃんの情報が流れて来た。
 これ以上、彼女の情報を聞いたら胸が痛む。ここは話を変えるとしよう。

「あ、翔平くんさ。最近お兄ちゃんの様子がおかしいとか思わない? なんかさ、部活をサボっているらしいんだ」
「お兄ちゃんが部活をサボる? そんなことしてないと思うけど……あ! ひょっとして”あのせい”で部活を休んでいるのかも?」

 手のひらを叩いて、何かを思い出す翔平くん。
 しかし、彼が口を開こうとした瞬間、大きな手袋が翔平くんの小さな唇を覆ってしまう。
 誘拐犯かと思った俺は身構える。

「な、なにをするんだよ、あんた!」

 小柄な男だった。銀色のヘルメットを被って、こちらを睨んでいる。
 ゴーグルをつけているため、人相までは分からない。
 原付のスクーターにまたがり、暴れる翔平くんを抑えつけようとしていた。

「うるせぇな……水巻。今日、見たことは学校の先生やみんなには内緒にしてくれ」

 そう言ってゴーグルを取って見せると、大きなブラウンの瞳が露わになる。
 誘拐犯だと思った男は鬼塚だった。

「お、鬼塚っ!? なんで、こんなことをしてんの?」
「水巻には関係ないだろ。うちの問題なんだから……じゃあ、今日のことは誰にも言わないでくれよな」

 何を思ったのか、バイクのフットスペースに翔平くんを座らせると、その場を走り去ってしまう。

「なっ……くそ! 鬼塚のやつ、なにがしたいんだよ!」

 俺には関係ないって何様だよ! 去年、バスケ部でのいじめも、自分じゃ解決できなかったくせに。
 ムカつく……けど、それよりも胸が痛む。
 一体、なんなんだ? この気持ちは。