殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 鬼塚が保健室から出て行き、俺はひとり残される。
 ふと、彼が先ほどまで眠っていたベッドに手をあてると、まだ温もりが残っていた。
 ムカつくから、ふて寝しよう……。
 
 ~数時間後~

「ちょっと、あなた。なんでここで寝ているの? もう給食の時間よ」
 
 給食という言葉で目が覚める。
 ベッドから起き上がると、先生に「すみません。ぜんそくの発作で休んでました」と嘘をついた。
 先ほどまで休んでいたとは思えない速さで廊下を走る。
 二階まで一段飛ばして上ると、教室に着いた。
 
 扉を開くと、ミルク先生が既にシチューを食べていた。

「あら、水巻さん。体調が悪かったんじゃないの?」
「発作だと思ったら、発作じゃなかったみたいです! あの、私の給食は?」
「ごめんね、あなたが体調悪いと思ったから、隣りのクラスにあげちゃった」
「そ、そんなぁ……」

 ショックから床に両手をついてしまう。背後から俺の姿を見れば、ブルマだから、はみパンしているかも。
 だが、そんなことはどうでも良い。今日の給食が食べられないなんて……。
 つまらない学校で、唯一の楽しみなのに。
 俺が落ち込んでいると、ひとりの少年が近づいてきた。

「お、俺は、もうお腹いっぱいだからやるよ……」

 頬を赤らめて、鼻をかく褐色の少年。鬼塚だった。
 ふて寝する原因になったのはこいつのせいなのに、なにを恥ずかしがっているんだか。
 俺も頭に来ていたので、鬼塚の提案を断る。

「いらない! 別にお腹すいてないもん」
「は? 水巻なら、この量でも足りないだろ?」
「なに、その言い方。私が大食いみたいじゃん!」
「そんな……別にそういう意味で言ったんじゃないのに」
「じゃあ、どういう意味で言ったの? 保健室でも私が心配してたのに、押し倒すし」

 ついヒートアップして、表現方法を間違えてしまった。
 俺が「押し倒す」と言ってしまったので、ミルク先生やクラスメイトがざわつく。

「保健室で、鬼塚くんが水巻さんを押し倒したの?」
「いやぁ! 最低、鬼塚くん!」
「水巻さんがかわいそう」

 こういう時、女子で良かった。完全に俺の味方だ。
 周囲からのブーイングにより、慌てる鬼塚。

「ち、違う! あれは水巻がしつこいから、この手を使ったら倒れて……」

 鬼塚の発言が更に誤解になり、女性陣からのブーイングは増していく。

「最低、水巻さんのせいにしている!」
「言い訳より、先に謝りなさいよ!」
 
 気まずさから、鬼塚は教室から走り去っていく。
 逃げたな……まあ、でも鬼塚があげるって言うんだから、給食は頂いておこう。
 鬼塚の机に置いてあるプレートを、自身の机に移動させて手を合わせる。

「いただきまぁーす!」

 そう言った瞬間、ミルク先生がプレートを取り上げる。

「な、なんで?」
「本当なら食べさせたいけど、今いろいろと怖いウイルスが流行ってるじゃない。だから鬼塚くんの口につけたものは、やめておきなさい」
「ウイルスって、なんのことですか?」
「ほら、聞いたことない? ”O157(オーイチゴナナ)”っていうウイルスよ」
「……」

 そう言えば、1996年はそんな大腸菌があったけ。
 なんかカイワレが悪いとか言ってたけど、カイワレ農家がブチギレて、当時の厚生大臣がカメラの前でバカみたいにカイワレを食ってたな。
 おかげで、この日は一日空腹のまま帰ることになった。