殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 鬼塚は頭から地面に叩きつけられて、意識を取り戻さない。
 周りにいた先生たちが、慌てて担架を持ってくる。
 そっと担架に乗せると慎重に保健室まで連れて行く。

 さすがに心配になった俺も「持病のぜんそくの発作が出た」と嘘を言い、保健室へついて行くことにした。
 こういう時、持病持ちは使えるな……。
 鬼塚をベッドに寝かせた先生たちは、保健室の先生に後を頼んでグラウンドに戻っていく。
 どさくさに紛れて、俺も関係者を装い鬼塚が眠るベッドの隣りに座ることを許された。

 改めて、彼の身体を上から下まで眺めて見るが、中学二年生の割には小さいな。
 赤白帽子は外されて、相変わらずのツンツン頭。手足は小麦色に焼けている。
 寝ているから拝めないが、大きな瞼からは長いまつ毛が生えていた。

「女みてぇな、顔つきだな……こいつ」

 保健室の先生が「ちょっとグラウンドに用事があるから」と去っていたので、今は二人きりだ。

 今気がついたけど、鬼塚の唇って小さくてピンク色なんだ。
 いかんいかん、なんか変な気持ちになってきた……心までも、女になったわけじゃないよな!
 頭の中の邪な気持ちを左右に強く振って振り払う。
 すると、眠っていたはずの鬼塚がうめき声をあげる。

「あいてて……」

 ヤベッ、目を覚ましたようだ。
 何事もなかったかのように振舞う。

「大丈夫、鬼塚?」
「水巻? なんでここに……」
「鬼塚がピラミッドから落ちたからだよ。覚えてないの?」
「あぁ……やっちまったか。まあこれぐらい、どうってことないよ。すぐにグラウンドに戻らないと」

 まだふらついているのに、ベッドから起き上がろうとする鬼塚。
 俺はそれを見て、必死に彼を止める。
 だが、鬼塚は藍ちゃんの小さな手を振り払う。彼の力が強すぎて、俺は椅子から床に腰を落としてしまった。
 ブルマ姿だから、太ももがダイレクトに当たって痛い。

「いたぁ~い!」

 なんて女らしい声で悲鳴を上げると、鬼塚がビクっと身体を震わせた。

「み、水巻がしつこいから悪いんだぞ!」
「悪いってなんだよ! 私だって、鬼塚のことを心配して言ったのに……」

 気がつくと、瞼が熱くなっていた。あれ、俺ってこんなに涙もろかったけ?

「そんなことで泣くなよ……俺のことだから、水巻には関係ないだろ」
「関係ないってどういうこと! なに、そんなに”この前のこと”を怒ってるの?」
「怒ってる? 何の話だよ?」
「わ、私とカナルシティに行ったことで、不満があるんじゃないの?」
「はぁ? あの日のことで俺が? そんなことあるわけないだろ。じゃ、じゃあ、俺はもう練習に戻るから……」

 そう言うと、鬼塚は足早に保健室から去っていく。
 なんだよ……こんなに冷たくしなくても、いいじゃん。
 気がつくと、涙が藍ちゃんの細い太ももにぽとぽと落ちていた。

 鬼塚のバカ。人が心配してやってんのになんだよ、あの態度。