殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 映画を見終えて、まだ地元へ帰るには早い時間。
 腕時計の針は午後3時に近いし、小腹が空いたのでおやつを食べたいな。
 鬼塚とエスカレーターへ乗ってこのあとをどうするか、話し合う。

「なあ、大体カナルシティの中は見て回ったと思うけど……水巻はどこか行きたい所ないのか? 別に中洲とかでもいいぜ」
「う~ん、中洲か……」

 そう言えば、中洲ていう土地の名前は、”那賀川(なかがわ)”と”博多川”という二つの川に挟まれて、中島と中洲になったらしいな。
 あ、博多川と言えば、この前夜中のテレビで見たばかりだった。
 思い出した俺は鬼塚に「じゃあさ、福岡市民会館に行ってもいい?」と聞くと彼は「別にいいけど」と首を傾げていた。
 よしっ、聖地巡礼だ!

 ~20分後~

 博多川沿いに道のりを歩いて進んでいく。
 俺の記憶が正しければ、市民会館が見える道路脇に”あの立て札”があるはず。
 しっかり証拠として残すために、近くにあったスーパーの”タイエー”でインスタントカメラを購入しておいた。
 ”あの人”が市長になった時、プレミア価格になるかもな……。

 意味がわからない鬼塚は、しばらく歩かされて不満そうだ。

「おい、水巻。こんな所に何があるって言うんだよ?」
「いひひっ、まあ黙ってついておいでよ。特別に良いものを見せてあげる」
「はぁ?」

 鬼塚を無視して道路脇の花壇を探していると、ようやく見つけた。
 ”高塩 宗二郎”アナウンサー直筆の手札だ!

『←博多川 博多湾→ ABCテレビ、高塩 宗二郎アナウンサー』
 と書いてある。

「やったぁ! これだ!」

 テンションが上がった俺は鬼塚にインスタントカメラを渡して、シャッターを押すように頼む。
 高塩アナのサインを指差して、その場で腰を屈めるとピースする。
 鬼塚は何枚かシャッターを押してくれたが、かなり機嫌が悪い。

「水巻、さっきので7枚目だぞ? もういいだろ?」
「あともうちょっと撮ってよ! この写真がすんごい一枚になるかもしれないんだよ」

 俺がそう言うと、彼は顔を真っ赤にして肩を震わせる。

「そ、そんなに俺との一日が楽しくなかったのかよ……」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「俺とカナルシティで遊ぶより、お前はあんなチャラついた新人アナの方が好みかよ!」
「ええ!? 好みというか、おもしろい人だなって」
「ああ、そうかよ! じゃあ何枚でも写真を撮れよ!」

 怒らせてしまった……別に悪気は無かったのに。
 でも、このサインはなかなかレアだぞ。
 そうだ! せっかくだから、この並行世界の人たちにヒントを与えておこう。
 花壇に刺さった立て札をずぼっと地面から抜くと、バッグからマジックを取り出す。
 そして、高塩アナの名前の隣りに小さく書き足しておいた。

『いつか福岡市長に立候補するかもしれません』

 よし、これでやりたいことは全部できたな。そろそろ帰るとするか。
 このあと、博多駅まで鬼塚はずっと口を聞いてくれなかった。

 翌日、鬼塚の機嫌は良くなっていたが、高塩アナの話を持ち出すと必ず怒るようになってしまう。
 しまいには「俺だって、博多川の水ぐらい飲めるぜ!」と張り合うようになってしまい、申し訳なく思った。