殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 映画が始まるで、しばらく古い予告編を見せられることになった。
 どれも見た映画ばかりでつまらない。まあこの並行世界では最新作だからな……。
 鬼塚に買ってもらったポップコーンをひとりでボリボリと食べ続ける。
 隣りの席にいたカップルの若いギャルがそれを見て、ドン引きしていた。

「おい、水巻。スカートにポップコーンを落としてるぜ……」

 そう言うと暗い中、鬼塚が恥ずかしそうに俺の足元に手をやる。
 ワンピースの上に落ちていたポップコーンのくずを取ると、デニムのショートパンツからポケットティッシュを取り出す。
 そしてくずをティッシュの中に包んで、ポケットの中に入れいていた。

 まさかと思うが帰って藍ちゃんの香りがついたポップコーンを舐めまわしたりするのだろうか?
 いや、優子ちゃんじゃあるまいし。

 そんなことを考えていると、本編が始まった。
 農場にもらわれた子ブタの”バイブ”が持ち前の優しさで牧羊豚として育っていく内容だ。
 観ていてとても眠たい。
 ポップコーンを食べ終えて、今はホットドッグとナチョスを同時に楽しんでいる。
 この食べ物がなければ寝ていたな……だって俺の隣りに座る彼女なんて冒頭から、いびきかいているもん。

 鬼塚はどうなんだろ? 気になった俺はふと隣りに座る彼の顔を覗き込む。

「うう……なんて優しい豚なんだ。良い奴だな、バイブ」
「……」
 
 この映画で泣けるのか?
 食べ物も無くなったし、眠たくなってきた。
 ちょっと、売店におかわりを買ってこようかな。

 ~60分後~

 あまりにも退屈すぎて、ポップコーンのおかわりを三回も買って来ちゃった。
 こんな子供向けの映画の何がいいのかね?
 鬼塚は終始ハンカチ片手に涙をボロボロと流していた。

「本当にいい豚だな、バイブは……」

 その発言を聞いて、悪い豚なんているのか? と考えてしまった。
 だって所詮、豚は豚だろう。食っちゃ寝てを繰り返す、怠惰の極みみたいな生き物だから、悪いことができないと思うけど。
 あれ? なんか最近の俺も似たような生活を送っているような……。

 映画が終わって、スクリーンの中が明るくなる。

「いやぁ~ おもしろかったな、このピッグていう作品」
「え……? 私にはちょっと難しい映画だったかな。感情移入しづらいていうか」
「はぁ!? 俺、女の子がこういうの好きだって言うから、この映画の前売り券を母ちゃんに頼んだぜ!」
「そうなの……私はそんなに女の子らしくないから」
「じゃあ、水巻はあまり楽しめなかったんだな?」
「まあ鬼塚には悪いけど、うん」

 素直に答えると、その場でうなだれる鬼塚。

「そうだよな、水巻を普通の女の子として見たら良くないよな。俺がバカだった……」
「ま、まあね……それに普通の女の子って誰と比較してるの?」
「え? お前も知ってるだろ。鞍手(くらて)だよ、鞍手 あゆみ」

 その名前を聞いた瞬間、背中に悪寒が走る。

「あ、あゆみちゃんの名前がなんで今出て来るの!?」
「そんなに驚かなくても良いだろ。いやぁ、あいつ最近グレてるじゃんか。去年、この映画が発表された時、俺に言って来たんだ」

 もう展開が読めて来た。わかってはいるが。確かめたいので恐る恐る聞いてみる。

「なんて言ってきたの?」
「あいつがさ、『良平くん、来年にこの豚の映画を一緒に行かないか?』ってな」

 やっぱり、闇落ちする前のあゆみちゃんのセンスだったぁ!

「そ、それでなんて返したの……?」
「当時の俺は部活とか水巻と遊んだりすることで忙しいから、『ひとりで行って来いよ』って言ったよ」
「あゆみちゃんにそんなことを言っておきながら、なんで私にはこの映画を誘ったの?」
「え? カナルシティに来る前、観る映画を迷っててさ。女の子が観たい映画を知りたくて、近所だから朝帰りの鞍手を捕まえて聞いたんだ」
「なにを聞いたの?」
「以前、鞍手が言っていた豚の映画。女の子なら観たがるかって」
「それで……あゆみちゃんは?」
「確か『前の私は普通の女の子だったから、誘われたら行ってたと思う』ってタバコを吸ってたな」
「……」

 ごめん、あゆみちゃん。君が行きたかった映画、俺が取っちゃって。