春休みに入り、俺は初代ポケモンの”赤と緑”を交互に遊んでいた。
主にベッドの上でポテチを食べながら、寝転がってゲームボーイのボタンに触れるからベタベタしてしまう。
大嫌いな勉強は放置のまま。二年生に向けての課題など出されたが無視して遊んでばかり。
ある日、ベッドの上でポケモンを遊んでいると、お姉ちゃんが部屋に入って来た。
「あ~いっ、あんたさ。辞書持ってない?」
「え? 辞書? そんなのお姉ちゃんも持ってるでしょ」
「ん~ 重たくて高校の帰り道に駅のホームで捨てた気がするなぁ」
そんなもん、駅のゴミ箱に捨てるなよ。
駅員の人が重たくて苦労するだろ……。
「ところで何に使うの?」
「もちろん、これっしょ」
そう言って、お姉ちゃんはニッコリ微笑むとミニスカートのポケットから安全ピンを取り出した。
「ん? 安全ピンでなにするの?」
「もちろん、ピアスのため耳に穴を開けるんだよ!」
「え……」
~10分後~
「本当にやるの? お姉ちゃん……失敗しても怒らないでよ」
「少しずれても怒らないよ。早くやっちゃって」
そう言って、鼻歌交じりに瞼を閉じるお姉ちゃん。
耳たぶの裏側に黒く汚れた消しゴムを置き、俺は安全ピンを手に持ってお姉ちゃんの耳に軽く刺す。
そして反対側の手で辞書を持ち、金づちを打つように振り下ろすのだ。
「おっ、入った入った」と喜ぶお姉ちゃん。
俺は恐怖から倒れそうになってしまうが、お姉ちゃんがそれを許さない。
「ほら、反対もしてよ」
そう言われるので仕方なく、反対側もしてあげた。
ちゃんと耳に安全ピンが貫通したのを、藍ちゃんの部屋のドレッサーで確認して喜ぶお姉ちゃん。
貫通したら針をカバーで留めて完成らしい。
「うしっ! これで穴が塞がらなくなったら超いい感じっしょ!」
「あのさ……ちゃんと病院とかでやればいいのに、なんで私にやらせたの?」
「そんなの決まってんじゃん! お金がないからでしょ」
「とはいえ、色々と危険だよ。次は自分でやってね……」
「嫌だよぉ! 次もやってよね。今後に予定してるのは、口と鼻とヘソね」
もう勘弁してくれ。
※
春休みが終わり、新しい学期、学年に進級することになった。
残念なことにお友達の優子ちゃんとは引き離されて、別々のクラスに。
とは言っても、俺と隣りのクラスなのでいつでも会える距離なのだが、優子ちゃんは泣いて怒っていた。
「藍ちゃん! 私、休み時間の度にそっちへ行くから……」
「ま、まあ無理しないで」
しかし、俺も優子ちゃんと離れたことでちょっと不安点もある。
それは一年の時と同じく、隣りに座っているのが鬼塚だからだ。
なんで、こいつはいつも一緒にいるんだ? 気持ち悪い。
1年7組の”ねーちゃん先生”からバトンを渡されたのは、小柄でぽっちゃりした若い女教師だった。
教壇に立つが身長が低いため、胸元から下は見えない。
「え~ 今日からあなたたちの担任の教師になります。一年間、この2年4組を盛り上げていこうねぇ!」
なんて意気込んでいるが教室は静まり返っている。
それにしても、この教師。
デカい……いやデカすぎる。身長は低いのに胸が異常なまでに突き出ている。
藍ちゃんがHカップだぞ? じゃあそれより大きいこの先生のサイズは一体なんだと言うのだ。
「じゃあ自己紹介を始めようか? 私は見た通り身長が低いのがコンプレックスでね。だから言うじゃない? 牛乳をいっぱい飲めば背が伸びるって……それを試したらこんなにまん丸になって、あんな噂を信じなきゃ良かったわ!」
と豪快に笑うが、その揺れで自身の大きな胸が暴れまくっている。
そうか、牛乳を飲んでも身長に行かず、全部に乳へ行ったんだな……。
よし、今日からこの先生のことは”ミルク先生”と呼ぶことにしよう。
先生の自己紹介が終わると、次は順番に生徒たちの自己紹介が始まる。
俺の順番になったので机から立ち上がり、「好きなことと苦手なことを話せ」と言われたのでとりあえず話してみた。
「水巻 藍です。好きなことは食べること全般で、苦手なことは学ぶこと全般です」
そう言ってイスに腰を降ろすと、教室全体が笑いの渦に包まれる。
「はははっ! 食べること全般とか女らしくねぇ!」
「学ぶことが苦手とか、学校に何しに来ているの?」
なんて爆笑を取ってしまった。
しかし、ひとりだけ笑ってない生徒がひとりいた。鬼塚だ。
「別にそこまで笑うことじゃないだろ? 俺はそういう水巻、嫌いじゃないぜ?」
「へ?」
う~ん、1996年の中学生たちのお笑いが分からないな。



