殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 伝説のマンガ家兄弟、岸本先生たちとラーメンをすすりながら、俺は将来の夢を二人に聞いていた。

「あの、岸本先生の夢はさっき聞いたんですが……弟のセイシ先生はどんな夢があるんですか?」

 俺の問いに割り箸の動きが止まってしまう。
 なにかまずいことでも聞いたかな?

「夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある! それは……ある男へ必ず復讐することだ」
「えぇ!?」

 今の話を岸本先生の描いた大人気忍者マンガと比較すると、その対象は?
 俺が隣りに座る岸本先生の方に目をやると……。

「なんだってばよ? アイ。オレの顔になんかついてっか?」
「いえ……」

 俺と岸本先生が話していると、セイシ先生が眉間に皺を寄せる。

「おい! アイと言ったか? いいか、オレの復讐ってのは生半可なもんじゃない。相手に屈辱を与えた上で、絶望に突き落とす行為だ」
「え……それを誰に対して、復讐する気なんですか?」
「聞きたいか? それはな……」

 本当は聞きたくない! でも岸本先生の身に関わることかもしれないし。

「よく聞け、アイ。オレの復讐する相手はな……親父だ」
「へ? お父さん?」
「そうだ。親父はオレとマサシのために美大の高い学費を払ったんだ。この屈辱を黙って受け入れるわけないだろう!」

 興奮しているのか、右手で拳を作ってカウンターに叩きつける。

「屈辱……? 要はお父さんに対して、申し訳ないという気持ちなんですか?」
「フンッ! 女のお前に何がわかる? オレは必ずマンガ家として成功し、必ず親父に学費を返してみせる」
「良いと思いますよ、とても親孝行で……」

 俺がそう言うと、セイシ先生の頬を真っ赤になり、視線を床に落とす。

「やっぱり、お前……うざいよ」

 それを聞いた俺は、また岸本先生に「ここからなんですね?」と話を振るが「どういうことだってばよ?」と首を傾げていた。

  ※

 全員でラーメンを10杯以上食べ終え、三人とも店を出る。
 のれんをくぐる際、大将が岸本先生たちに声をかけていた。

「お前ら、必ず天下取って来いよ!」と。

 それに対して、岸本先生はこう答えていた。

「当たり前だってばよ! もし連載が始まったら、この店をモデルに出すぜ! 大将もな!」
「フンッ、ウスラトンカチのくせして……」

 なんだかんだ言って、二人とも仲が良いんだな。そう考えていたら、岸本先生が俺に背中を向けてこう言った。

「アイも元気でな! オレとセイシはこれから、超急いで駅に走らないといけないからよっ!」
「そうだ。オレとマサシは今から激しい修行が待っている。アイ、いじめに屈するな。お前ならこの世界でもやれるはずさ」

 と別れの言葉を頂いて、二人は駅に向かって走り出した。両腕を後方へ伸ばしたまま……。
 俺が二人の後ろ姿を見て感動していると、誰かが声をかけてきた。

「藍ちゃん、こんなところにいたの? 探したんだよ」

 美大で講義を受けていたはずの優子ちゃんだった。

「あ、ごめん。ちょっとお腹すいてラーメンを食べてたんだ」
「ふ~ん、でもさっきの変なコスプレの人たちは誰? 相当ヤバい人でしょ?」
「な、なんてことを言うの!? 後の週刊少年チャンプのレジェンドになる人だよ!?」
「はぁ? 藍ちゃんてたまに変なことを言うよねぇ~ 後の市長だの芸人だの、おまけに今度はチャンプのマンガ家でしょ……」

 この目は信じてもらえてないな……。