殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 お母さんが言うには「ブラジャーも高いんだから、パンツは今のままで大丈夫」とお揃いにすることは却下された。
 しかし……前世も童貞のまま死んだ俺からすると女の子の下着は、絶対にお揃いの方が可愛い。
 もうお母さんは会計を済ませて、他の売り場に向かってしまった。
 ブラジャーが入ったビニール袋を俺に渡して。

 気になった俺は先ほど接客してくれたおばさんに、パンツの値段を聞いてみる。

「あ、あのさっきブラジャーを見てもらったんですけど……」
「あら~ どうしたの?」
「さっきの黄色いブラジャーと同じデザインの……パンツていくらなんですか?」

 恥ずかしさから、頬が熱くなる。
 しかし、おばさんは笑うことなく、真面目に対応してくれた。

「さっきのだよね? 3000円だよ」
「3000円かぁ……」

 お母さんの言う通り、高いなぁ……。
 でも、初めて買う下着だからこそ、ここは男時代のロマンを優先したい。
 女の子を脱がせて上下お揃いってのが、俺の中の理想だからな。

「どうする? 無理して買わなくていいよ? あれだったら、取り置きとかもできるし」
「い、いえ! ください!」

 今俺が持っている財布の中には、ちょうど3000円入っている。
 払う分には良いが、今後しばらく我慢しないとな。

「そっかぁ~ まあお揃いにした方が気分上がるもんねぇ」
「で、ですよねぇ~!」

 俺とおばさんは話しながら、カウンターに移動する。
 会計を済ませると、おばさんが先ほどのブラジャーが入ったビニール袋にパンツも入れてくれた。
 丁寧に対応してくれたおばさんに俺は頭を下げて、その場を去ろうとした瞬間だった。

 甲高い男の子の叫び声が聞こえてきた。

「あ、藍お姉ちゃんだ!」

 近くのおもちゃ売り場にひとりの少年が立っていた。
 こちらを指差して、嬉しそうに笑っている。

「翔平くん?」

 俺がその名前を発した瞬間、少年はこちらに向かって走って来た。

「藍お姉ちゃん、久しぶり! こんなところで何をしているの?」

 まずい、こんな女性下着売り場が買い物していたところを、翔平くんの兄に知られたら……。
 翔平くんに遮られて、店員のおばさんもどうしていいか困っている。

「こらっ、翔平! 勝手に売り場を離れるなっていつも言ってるだろ!?」

 とうとう、その本人が現れてしまった。
 相変わらずのツンツン頭で中学校から支給されている紫色のジャージに、真冬だというのにデニムのショートパンツを履いている。
 だから、小麦色に焼けた太ももが目に入るのだけど。

「だって藍お姉ちゃんが見えたからさ」
「え? 水巻が……」

 俺の顔を見た鬼塚は手を挙げて優しく微笑むが、すぐにその笑みは消え失せてしまう。
 それは俺が女性の下着売り場にいて、尚且つ店員のおばさんから購入したビニール袋を渡されそうとしていたから。
 何も知らない翔平くん以外は、全員その場で固まってしまう。
 しかし、何かを察した鬼塚は機転を利かせて、翔平くんの腕を掴みその場から立ち去ろうとする。

「ちょっと、挨拶ぐらいしていこうよ! お兄ちゃん!」
「う、うるさい! 今はダメだ……」
「なんでダメなの? ねぇ、なんで?」
「とにかく、今は話したらダメなんだ!」

 俺が下着売り場で買い物をしていたので、鬼塚は気を使い弟の翔平くんを連れてどこかへ消えてしまった。

 その場に残された俺は、目の前に立つおばさんの顔を見つめる。
 苦笑いして「またのお越しをお待ちしております」と言われた……。
 しばらく下着の買い物はしたくないな。