殺したいほど憎いのに、好きになりそう


 下着売り場のおばさんが言うには、どうしても左胸は心臓があるため、右胸より少し大きいらしい。
 だから、ワンサイズ上のHカップを持って来られた。
 さっそく試着してみたところ、確かにこちらの方が藍ちゃんの胸には合っているようだ。
 左胸だけ……。

「あの……確かに左はサイズぴったりみたいなんですけど。反対の右側が少し大きく感じるのですが?」
「それならパッドを使えばいいよ」
「パッドってなんですか?」
「これだよ。じゃあ一度ブラジャーを外してくれる?」
「はい……」

 そう言うと、ブラジャーを外しておばさんに渡す。
 するとおばさんは慣れた手つきでブラジャーの中に、小さな肌色のクッションのようなものを入れ込む。
 入れ終わったら、また俺にブラジャーを渡してきた。

「これで両方サイズが調整されたと思うよ?」
「はぁ……」

 そんなパッド一つで変わるわけないだろ……と思っていたが、おばさんの言う通りだった。
 二つの大きな胸がようやく綺麗に納まり、固定されている。
 なんという心地良さなんだ。
 
 ブラジャーのサイズは決まったので、あとはパンツ。ヒップのサイズも計ってもらう。
 おばさんが言うには「ヒップは82だから、下着ならSサイズで良いよ」と説明された。
 大きいのか小さいのか、俺には分からん。

 試着室から出て来るとお母さんから聞かれた。

「藍、サイズは分かったの? それから今日買うのよね?」
「うん。お母さんさえ良ければ、買って欲しいかな。サイズがあってないらしいし。あ、私のサイズはHの65らしいよ?」

 サイズをお母さんに伝えると、眉間に皺を寄せて睨みつけられた。

「あんた、13歳なのにそんなにあるの? じゃあちょっと銀行でお金を下ろしてくるわ」
「え? なんで?」
「だってそんなに大きいなら、ブラジャーの値段も高くなるからよ!」
「……」

 胸が大きいだけで怒られるとか、やっぱり巨乳って良いことないんだな。

  ※

 おばさんからお母さんのことを聞かれたので「スーパーのATMに銀行を下ろしに行ってる」と伝えたら。
「じゃあ、その間に色を決めておこうか?」と三つのブラジャーを出して来た。
 どれも綺麗な色をしているし、小さな花の刺繍が可愛らしい……って、男の俺がなぜこんな風に感じるんだ?
 色は三種類。ピンクとブルーにイエローだ。

「値段はどれも一緒だから、好きな色とかデザインで決めたらどうかな?」
「う~ん、どうしよう……」

 俺の中身はただのおっさんだ。いくら女体化したと言っても、男としての自覚は残っている。
 色にもこだわりたい。じゃあ女の子らしいピンクは消去法で捨てよう。そしてブルーというのも、男っぽさが残っている気がする。
 ならば……。

「決めました。イエローにしてください! それからパンツもお揃いの色でお願いします!」

 俺がそう言うと、おばさんはどこか驚いた顔をしていた。

「え? パンツも一緒に買うの?」
「はい、普通お揃いで買うんじゃないですか?」
「ま、まあ人によると思うけど……」

 おばさんは俺が決めたイエローのブラジャーとパンツをカウンターに持って行き、レジを打ち始める。
 するとお母さんがATMから戻って来て、カウンターに並べている下着を見て首を傾げていた。

「あの、今日はブラジャーを買うだけで、パンツは頼んでないんですけど?」
「え? そうなんですか? お嬢さんがお揃いを欲しいと言われたもので……キャンセルされますか?」
「もちろん、キャンセルでお願いします」

 二人の話を聞いていた焦った俺はお母さんの腕を引っ張る。

「お、お母さん! ブラジャーとパンツはお揃いじゃないと可愛くないよ! 一緒に買って!」
「はぁ!? あんた、まだ13歳でしょ? そんな大人みたいなことを言うんじゃありません! 必要ないでしょ?」
「必要だよ! 男の……じゃなかったロマンがないよ。上だけ可愛いブラジャーなのに、パンツだけ綿パンツなの?」
「それで十分でしょ! このブラジャーだけで8千円近くするのよ? パンツまで買ったら1万円以上かかるわ。それに上下お揃いにこだわってるけど、あんた下着姿を見せる相手でもいるって言うの?」
「……いないです」