殺したいほど憎いのに、好きになりそう


「いや~! 食った食った~!」

 そう言いながら、自分の腹を撫でまわす。
 カツカレーとハンバーグプレートにから揚げ定食。それにフライドポテトも全て残さず食べたので、藍ちゃんの小さなお腹が膨らんでしまった。
 まるで妊娠している人みたい。

「よく入ったな……」
「まあ、これぐらいはおやつ感覚だよね? 本当ならもっと食べたいけど、こういう所は高いし我慢だね」
「そうだったのか……やっぱり俺が弁当を作った方が良かったんじゃないか?」

  ※

 レストランを出て、しばらく二人で遊園地を歩いてみる。
 食後だし「歩きながら次に入る施設を探そう」と言う話になった。
 
「いや~ それにしても、冬休みに水巻とスペースワールドに来るとは思わなかったよ」
「え? なんで?」
「俺ん家、貧乏だし。年がら年中、翔平の面倒をみるのが当たり前だったから……ってあれは!?」

 いきなり話を中断するのでびっくりした。鬼塚が指差した方向には、一台のキッチンカーが停まっている。
 車の前には、大きなフラッグが飾られていた。
 聞いたことのない食べ物の名前だな。
 
 「ちゅ……ろす? なにあれ?」

 ドーナツみたいな揚げ菓子のような甘い香り。
 その香りを嗅いでいるだけで、お腹が空いてきた。

「水巻、チュロスを知らないのか?」
「うん。初めて聞いた」
「あんなに美味いものを知らないなんて、かわいそうだな。弟の翔平も大好きでさ……そうだ! 一本買ってくるから、半分こしようぜ!」
「はぁ……」

 そう言うと、鬼塚はキッチンカーの前に出来ていた行列の中へ入って行く。
 おごってもらえるなら、ここはしっかり食べておかないとな。

 ~10分後~

「待たせたなっ! ほら、初めてだからシナモンシュガーにしておいたよ」
「あ、ありがとう」
 
 鬼塚は細くて長い星型のドーナツを半分に分けてくれた。
 片方を俺にくれたのだが、こちら側には専用の袋がついている。
 たぶん手を汚すから気を使ってくれたのだろう。

「いただきまぁ~す……あ、これ。うんまっ! うますぎだろっ!」

 あまりの美味さに喋り方が男時代に戻ってしまった。
 だが、鬼塚はそれに気がついてない。
 むしろ俺が喜んで食べている姿を見て、嬉しそうに微笑んでいる。

「だろ? 他にも色んな味があるんだよ」
「マジで!? じゃあちょっとおかわり買ってくるわ!」
「え……?」

 鬼塚をひとり残して、俺は先ほどのキッチンカーに向かう。
 味は5種類。先ほど食べたシナモンシュガー、キャラメル、いちご、バナナ。それとチョコか……。
 俺はチョコが大嫌いなので、それ以外を4つ注文した。

 4本の長いチュロスを両手で抱えて、鬼塚の所に戻る。

「そ、そんなに買ったのかよ……」
「うん! こんな美味しいものを食べたのは人生で初めてだからさ!」

 言いながらも、既にキャラメル味のチュロスにかぶりつく。

「水巻、お前さ……胃もたれしないのか?」
「へ? 全然しないよ」
「そ、そうなのか……」

 チュロスを食べながら、園内をしばらく歩いていると大きな観覧車が見えてきた。
 鬼塚が「せっかくだし乗って行こうぜ」と俺の腕を引っ張る。
 まだチュロスを食べ終えてないのに、仕方ないな……。

 入口の前に二人のスタッフが立っていて、ニコニコと笑っている。
 なんだ? このいかにもセールスしますって顔は? 気持ちが悪い……。

「あのぉ~ そこのペアルックが似合うカップルさん。ちょっといいですか?」

 勝手にカップルと言われたので、鬼塚が激しく否定する。

「お、俺たち! 付き合ってないですっ!」
「そうなんですか~ まだってことですよね? じゃあ記念にこのデジタルカメラで撮影していきませんか?」

 と、かなり大きなデジタルカメラを取り出してきた。
 これはまた懐かしいタイプのデジカメだな……。
 でも、この時代じゃまだ高価なものだったはず。

「え? そのカメラで撮影したら、いつ現像できるんですか?」
「お客様が観覧車に乗っている間に出来上がっております。大きめの写真に現像しますので、一枚1500円しますがどうされますか?」

 高い。俺だったら絶対に買わないぞ……断ろう。
 鬼塚にもそう伝えて、さっさと観覧車の中に入ろうとしたが、彼は頑なに嫌がった。

「せっかくだから、撮影してもらおうぜ! 金なら俺が払うからさ!」
「まあ、いいけど……」

 こうして俺と鬼塚のツーショット写真は、プリクラより大きな写真で現像されたのだった。