____私のなかで「碧」は特別な色。
私の世界のなかでいちばん、きれいに見える色だから。
だから私は、私の見る碧が好き。
私の見る、碧色が大好き。
だけど、それは私だけで。みんなは違う。
そういうのを、何回も経験して。
だから。だからね。
「えーっと、こっち?」
「えっと、そうじゃなくて‥‥‥‥」
これだけで、分かっちゃうんだ。
変な子って思われたこと。
響の表情が、いつもと違った。
固くて、変な子なんだって思ってる、そういう瞳だった。
夕凪いるかに何度も向けられた、「かわいそう」だ。
「____あは、やっぱ、厳しい?」
私は、ずっとこの【私の好きな世界】にいるけど。
その瞬間に、それが私だけで、全部違うんだって、分かる。
普通にならなきゃって。思うの。
そう思えば思うほど、私が私を、普通じゃない子にしてく。
私が、大好きな私から、遠くなってく。
「____バカいるか」
だからずっと、言わないって決めてたのに。
どうしても、無理だった。
響にだけは、知ってほしかった。
私が、夕凪いるかだってこと。
ずっと、そうしないって決めてたのに。
響といると、楽しくて。ずるくて。やめたくなくて。
その碧くてきれいな瞳を、ずっと見ていたくて。
____だから、伝えなきゃって思ってた。
でも、嫌われたら絶対苦しいから、立ち直れないから、言えなくて。
けど、響の大事にしてる天文部は、壊したくなくて。
____私が『碧』を大事にするみたいに、響の『星空』も大事にしたかったから。
「____言っちゃった、なぁ」
ぼす、と、ジンベエザメのクッションに顔を埋める。
私は、私の見てる世界が間違ってることを知ってる。
私の見える黄色や黄土色が、本当は別の色だって。
灰色も水色も青色も、本当は違う色だって。
私の見る碧が、すごくきれいだから。
____ただ、知って欲しかったんだ。
響と、もっと。同じ景色が観たくて。
お気に入りの、クラゲのライトがちらちら光るのを、ぼんやりと眺める。
「なんで言っちゃったんだろ、私ぃ‥‥‥‥‥」はぁ、と憂鬱が空気に溶ける。
こんなんじゃだめだぁ‥‥‥‥って思う、のに。
響、やっぱり、変な子って、思ったかな。
「‥‥‥悩んでてもしょうがない、かぁ」
机に向かって、まだ作ってない箱を開けて。ブロックを組み立てる。
模型、色々考えたけど。100円ショップのこれがいちばんよかった。
「‥‥‥‥‥できた」
人工衛星だ。
ここから見た宇宙は、星が、もっとずっと大きいんだろうな。
たくさんの星がきらきらしてて。きれいだろうな。
____響、会いたいな。
「‥‥‥‥だめだよ、ね」
本当は、もっと明るく話して。終わるはずだった。
だけど、響がとても苦しそうな、悲しそうな表情をするから。
____やっぱり、って、思っちゃったんだ。
____ティロンッ♪
なんだろう。
通知を開ける前に、響だって分かった。
『 天文部は、続けるから 』
その言葉に、なんだか、すごく安心した。
響の好きは、ずっとそのままなんだって。
ちょっと嬉しくなって。
でもまた、私はそこにいられないんじゃないかって、悲しくなって。
「____先生、部室のこれ、貸してくれませんか?」
顧問の先生に頼んで、倉庫みたいになっている部室の隅の望遠鏡を使わせてもらうことになった。
すごく大きいから、分解して持っていって。
組み立ても手伝ってもらったんだ。
「____わぁ」
人生初、望遠鏡‥‥‥‥!!
くる、と振り向くけど。
その姿はなくて。
響がいたら、きっと、すごく喜ぶだろうな。
「わっ、‥‥‥‥‥すごい」
なにを観たらいいか分からなかったから、適当に月を観てみたけど。
響の望遠鏡で見た何倍も、よく観えた。
少しずつ空が青くなってきたら、星がよく観えるようになった。
響と見てた時よりも、たくさん見えてる気がする。
もっとずっと奥の方で、いくつもいくつもきらきら瞬いているのが分かる。
「響、なにしてるかな‥‥‥」
私だけの寂しさを紛らわすように、声にしてみる。
本当は、天文部が休みなこと、分かってた。
だって、先生がびっくりしてたもん。「いつも通り仕事してるから」って、鍵も貸してくれた。
響、塾行ってるんだっけ。上のクラスだし、頭いいんだろうな。
私は、スポーツ推薦って言われたけど。普通にこの学校に入った。
ずっと続けてたけど、実は自信がなかったんだよね。部活でちょっと浮いてたからさ。
勉強は結構ギリギリで、赤点もいくつかあるけど。下のクラスだから、先生もゆるいし。響は、なんだか大変そう。
頭いい大学、行くのかな。
私、考えてみたら、響のこと、ぜんぜん知らない。
____初めて会ったとき。
月明かりが彼の輪郭を照らしていて。すごくきれいな碧だったのを憶えてる。
私の目は、すごく『青』に敏感だから。見れば、すぐに分かっちゃうんだ。
私の世界で、いちばん大好きで。いちばん、目立つ色だから。
私の世界で、いちばん特別な青色のことを、私は『碧』って呼んでる。いちばん好きで、特別な色だから。
あのとき、響と初めて会ったとき。
すごく空が青くてきれいだったから________ここで星を観ている人がいるなんて思わなかった。
ちょっと笑われるかもしれないけど、『運命かも』って思っちゃったんだ。
空の中で、私は夕焼けと夜の空がいちばん好き。
空が暗くなって。光が鋭く淡くなっていって。他の色が影になって、空の色だけになる時間。
____この時間は、私を1人にしないから。
この世界の色は、私の見ている世界と違うんだってことは、夕焼けが『赤い』ことを知ったときに分かった。
みんなとは少し景色の色が違うかもしれないけど。夕焼けで黄色く染まる景色が好き。だんだんと青くなっていく空も好き。
もちろん、晴れた日の、朝の青空も好きだけど。
____それでもこの時間は、いちばん、私が私でいられる。変な子にならない、唯一の時間。
その時間を、こんなふうに使えたら、すごく素敵なんじゃないかって。そう思ったんだ。
響は「部活じゃない」って言ってたけど。それでも、この場所で、同じ景色を見られる時間にいられるんだって思ったの。
「部活、辞めます」
気がついたら、私はチア部の顧問の先生にそう言っていた。
そのとき、ちょうど部室棟の鍵が治ったって話を聞いて。響を探しに行って。
休み時間を使って、部活の申請用紙と入部書類を書いて。
強引だね、ってよく言われる。思いついて、気がついたら行動してる。
でも響は、そんな私をそのまま受け入れてくれて。『天文部』ができた。
正直、星のことは「星座がある」ってくらいの認識でしかなくて。夏と冬の大三角形があるのを知っているくらいだったけど。
一緒に観た月も流れ星も、すごくきれいで。
もっとここにいたいって、思って。
《 天文部は、続けるから 》
私が既読をつけたまま、響とのメッセージはそこで止まってる。
「大丈夫、だよね‥‥‥‥」
____私、響と、一緒にいたい。
あのとき、色の話をしたとき。私が言おうとして、言えなかったこと。
一緒にいられるかどうかは、これから決まるんだって思ったら、言えなかった。
響にこれ以上、私のわがままを押し付けたら、ダメだから。
それから何日か、部室で1人で星を観る日が続いた。
「____なに、観てるの?」そう、聞かれる日まで。
「____お、と」
びっくりした。来るなんて思ってなかった。メッセージも、あれから1度も送ってなかったし。
「なん、で?」
「なんで、って____星が観たかった、から」
「今日、曇りだよ」
「うん」
「星、見えないよ?」
「いるかに、会いたくなったから」
暗がりの中で、響が微笑んだのが見えた。
「僕は、変でいいと思う____僕も、変、だし」
「僕の瞳が碧かったり、光が眩しいのと同じで。いるかの世界の色がちょっと違うのも、"いるかの普通"なんだなって」
泣きそうになった。そんなふうに言ってくれるなんて、思わなくて。
私の髪のことも、『蒼い月』だって言ってくれた。写真を見たら、碧くて、すごくきれいだった。
家族くらいにしかそういう話したことなかったのに、「いるかには、僕ってどう見えるの?」って聞いてきてくれて。
「いるかと天文部続けたい」って言ってくれて。すごく、すごく嬉しくて。
響でよかった、って思った。
私の好きを、好きでいいんだって、言ってくれたから。
私の世界のなかでいちばん、きれいに見える色だから。
だから私は、私の見る碧が好き。
私の見る、碧色が大好き。
だけど、それは私だけで。みんなは違う。
そういうのを、何回も経験して。
だから。だからね。
「えーっと、こっち?」
「えっと、そうじゃなくて‥‥‥‥」
これだけで、分かっちゃうんだ。
変な子って思われたこと。
響の表情が、いつもと違った。
固くて、変な子なんだって思ってる、そういう瞳だった。
夕凪いるかに何度も向けられた、「かわいそう」だ。
「____あは、やっぱ、厳しい?」
私は、ずっとこの【私の好きな世界】にいるけど。
その瞬間に、それが私だけで、全部違うんだって、分かる。
普通にならなきゃって。思うの。
そう思えば思うほど、私が私を、普通じゃない子にしてく。
私が、大好きな私から、遠くなってく。
「____バカいるか」
だからずっと、言わないって決めてたのに。
どうしても、無理だった。
響にだけは、知ってほしかった。
私が、夕凪いるかだってこと。
ずっと、そうしないって決めてたのに。
響といると、楽しくて。ずるくて。やめたくなくて。
その碧くてきれいな瞳を、ずっと見ていたくて。
____だから、伝えなきゃって思ってた。
でも、嫌われたら絶対苦しいから、立ち直れないから、言えなくて。
けど、響の大事にしてる天文部は、壊したくなくて。
____私が『碧』を大事にするみたいに、響の『星空』も大事にしたかったから。
「____言っちゃった、なぁ」
ぼす、と、ジンベエザメのクッションに顔を埋める。
私は、私の見てる世界が間違ってることを知ってる。
私の見える黄色や黄土色が、本当は別の色だって。
灰色も水色も青色も、本当は違う色だって。
私の見る碧が、すごくきれいだから。
____ただ、知って欲しかったんだ。
響と、もっと。同じ景色が観たくて。
お気に入りの、クラゲのライトがちらちら光るのを、ぼんやりと眺める。
「なんで言っちゃったんだろ、私ぃ‥‥‥‥‥」はぁ、と憂鬱が空気に溶ける。
こんなんじゃだめだぁ‥‥‥‥って思う、のに。
響、やっぱり、変な子って、思ったかな。
「‥‥‥悩んでてもしょうがない、かぁ」
机に向かって、まだ作ってない箱を開けて。ブロックを組み立てる。
模型、色々考えたけど。100円ショップのこれがいちばんよかった。
「‥‥‥‥‥できた」
人工衛星だ。
ここから見た宇宙は、星が、もっとずっと大きいんだろうな。
たくさんの星がきらきらしてて。きれいだろうな。
____響、会いたいな。
「‥‥‥‥だめだよ、ね」
本当は、もっと明るく話して。終わるはずだった。
だけど、響がとても苦しそうな、悲しそうな表情をするから。
____やっぱり、って、思っちゃったんだ。
____ティロンッ♪
なんだろう。
通知を開ける前に、響だって分かった。
『 天文部は、続けるから 』
その言葉に、なんだか、すごく安心した。
響の好きは、ずっとそのままなんだって。
ちょっと嬉しくなって。
でもまた、私はそこにいられないんじゃないかって、悲しくなって。
「____先生、部室のこれ、貸してくれませんか?」
顧問の先生に頼んで、倉庫みたいになっている部室の隅の望遠鏡を使わせてもらうことになった。
すごく大きいから、分解して持っていって。
組み立ても手伝ってもらったんだ。
「____わぁ」
人生初、望遠鏡‥‥‥‥!!
くる、と振り向くけど。
その姿はなくて。
響がいたら、きっと、すごく喜ぶだろうな。
「わっ、‥‥‥‥‥すごい」
なにを観たらいいか分からなかったから、適当に月を観てみたけど。
響の望遠鏡で見た何倍も、よく観えた。
少しずつ空が青くなってきたら、星がよく観えるようになった。
響と見てた時よりも、たくさん見えてる気がする。
もっとずっと奥の方で、いくつもいくつもきらきら瞬いているのが分かる。
「響、なにしてるかな‥‥‥」
私だけの寂しさを紛らわすように、声にしてみる。
本当は、天文部が休みなこと、分かってた。
だって、先生がびっくりしてたもん。「いつも通り仕事してるから」って、鍵も貸してくれた。
響、塾行ってるんだっけ。上のクラスだし、頭いいんだろうな。
私は、スポーツ推薦って言われたけど。普通にこの学校に入った。
ずっと続けてたけど、実は自信がなかったんだよね。部活でちょっと浮いてたからさ。
勉強は結構ギリギリで、赤点もいくつかあるけど。下のクラスだから、先生もゆるいし。響は、なんだか大変そう。
頭いい大学、行くのかな。
私、考えてみたら、響のこと、ぜんぜん知らない。
____初めて会ったとき。
月明かりが彼の輪郭を照らしていて。すごくきれいな碧だったのを憶えてる。
私の目は、すごく『青』に敏感だから。見れば、すぐに分かっちゃうんだ。
私の世界で、いちばん大好きで。いちばん、目立つ色だから。
私の世界で、いちばん特別な青色のことを、私は『碧』って呼んでる。いちばん好きで、特別な色だから。
あのとき、響と初めて会ったとき。
すごく空が青くてきれいだったから________ここで星を観ている人がいるなんて思わなかった。
ちょっと笑われるかもしれないけど、『運命かも』って思っちゃったんだ。
空の中で、私は夕焼けと夜の空がいちばん好き。
空が暗くなって。光が鋭く淡くなっていって。他の色が影になって、空の色だけになる時間。
____この時間は、私を1人にしないから。
この世界の色は、私の見ている世界と違うんだってことは、夕焼けが『赤い』ことを知ったときに分かった。
みんなとは少し景色の色が違うかもしれないけど。夕焼けで黄色く染まる景色が好き。だんだんと青くなっていく空も好き。
もちろん、晴れた日の、朝の青空も好きだけど。
____それでもこの時間は、いちばん、私が私でいられる。変な子にならない、唯一の時間。
その時間を、こんなふうに使えたら、すごく素敵なんじゃないかって。そう思ったんだ。
響は「部活じゃない」って言ってたけど。それでも、この場所で、同じ景色を見られる時間にいられるんだって思ったの。
「部活、辞めます」
気がついたら、私はチア部の顧問の先生にそう言っていた。
そのとき、ちょうど部室棟の鍵が治ったって話を聞いて。響を探しに行って。
休み時間を使って、部活の申請用紙と入部書類を書いて。
強引だね、ってよく言われる。思いついて、気がついたら行動してる。
でも響は、そんな私をそのまま受け入れてくれて。『天文部』ができた。
正直、星のことは「星座がある」ってくらいの認識でしかなくて。夏と冬の大三角形があるのを知っているくらいだったけど。
一緒に観た月も流れ星も、すごくきれいで。
もっとここにいたいって、思って。
《 天文部は、続けるから 》
私が既読をつけたまま、響とのメッセージはそこで止まってる。
「大丈夫、だよね‥‥‥‥」
____私、響と、一緒にいたい。
あのとき、色の話をしたとき。私が言おうとして、言えなかったこと。
一緒にいられるかどうかは、これから決まるんだって思ったら、言えなかった。
響にこれ以上、私のわがままを押し付けたら、ダメだから。
それから何日か、部室で1人で星を観る日が続いた。
「____なに、観てるの?」そう、聞かれる日まで。
「____お、と」
びっくりした。来るなんて思ってなかった。メッセージも、あれから1度も送ってなかったし。
「なん、で?」
「なんで、って____星が観たかった、から」
「今日、曇りだよ」
「うん」
「星、見えないよ?」
「いるかに、会いたくなったから」
暗がりの中で、響が微笑んだのが見えた。
「僕は、変でいいと思う____僕も、変、だし」
「僕の瞳が碧かったり、光が眩しいのと同じで。いるかの世界の色がちょっと違うのも、"いるかの普通"なんだなって」
泣きそうになった。そんなふうに言ってくれるなんて、思わなくて。
私の髪のことも、『蒼い月』だって言ってくれた。写真を見たら、碧くて、すごくきれいだった。
家族くらいにしかそういう話したことなかったのに、「いるかには、僕ってどう見えるの?」って聞いてきてくれて。
「いるかと天文部続けたい」って言ってくれて。すごく、すごく嬉しくて。
響でよかった、って思った。
私の好きを、好きでいいんだって、言ってくれたから。



