春になり,雪の残る山肌から山菜が顔を出すと再び集落が現世へとその姿を現した。
家々は重たい雪で完全に潰されて,大きな柱が辛うじて残っていたが,そこに人がいるとは想像すらできないほどすべてが消え失せていた。
唯一,立派な造りの村長の家から細長い煙が立ち昇り,白い煙が雲とつながっているように見えた。
それはまるで先祖の住む常世と現世をつなぐ細い糸のようで,糸が垂れ下がるように深く積もった雪に触れると,ゆっくりと煙が消えていくのが幻想的でもあった。
集落のあちこちに放置され凍った遺体は山の動物が処理し,残った部分は土が分解し跡形もなく消え去った。大きな骨は,村長が回収し時間をかけてゆっくりと診療所で粉にして畑に撒いた。
雪がとけても集落を訪れる者はおらず,唯一残った村長は,その後毎年訪れる千年に一度の寒波を一人でやり過ごし,降り積もる雪のなか,そこに集落が存在するかのように行政にさまざまな申請書を提出し続けた。
国勢調査も満足に行われない集落は,村長によって学校や消防施設の維持のために予算が申請され続け,毎年御国から指定口座に一定の額が振り込まれたが,それを確認する者は誰一人いなかった。
そんな誰もいなくなった集落は,何度目かの冬を越え,たった一人の老人のために多額の税金が深山に埋もれた集落の口座に振り込まれ続けたが,使い道のないお金はただただ雪だるまのように膨れ上がっていった。
秋が深まるその年は,いつも年老いた村長が定期的に麓の町に郵便物を回収に来ていたのに,ここ数ヶ月間,村長が現れることがなかった。
麓の人間は,村長が健康のためといって定期的に町に降りてきては集落の者のために肉や魚を大量に買い込む姿を見ていたが,これほど長期間姿を現さないことに不安を覚えた。
話し合いの結果,若い郵便局員が代表して集落の様子を見るついでに溜まった郵便物を届けることになった。本格的な冬が訪れると,数ヶ月間集落に近づくことができなくなるので,その前に溜まった郵便物を届けなくてはならなかった。
秋の空気が冬の寒さに飲み込まれる前に集落へ行こうと,郵便局員は準備をした。そして小さな赤い郵便局の車が集落へ続く山道に入ると,季節外れの粉雪が舞い散るなか何年も誰も使っていない穴だらけの荒れ果てた道を縫うように登って行った。
ガードレールの落ちた崖をゆっくりと通過すると,目の前に転がるいくつもの大きな岩が進路の邪魔をした。
家々は重たい雪で完全に潰されて,大きな柱が辛うじて残っていたが,そこに人がいるとは想像すらできないほどすべてが消え失せていた。
唯一,立派な造りの村長の家から細長い煙が立ち昇り,白い煙が雲とつながっているように見えた。
それはまるで先祖の住む常世と現世をつなぐ細い糸のようで,糸が垂れ下がるように深く積もった雪に触れると,ゆっくりと煙が消えていくのが幻想的でもあった。
集落のあちこちに放置され凍った遺体は山の動物が処理し,残った部分は土が分解し跡形もなく消え去った。大きな骨は,村長が回収し時間をかけてゆっくりと診療所で粉にして畑に撒いた。
雪がとけても集落を訪れる者はおらず,唯一残った村長は,その後毎年訪れる千年に一度の寒波を一人でやり過ごし,降り積もる雪のなか,そこに集落が存在するかのように行政にさまざまな申請書を提出し続けた。
国勢調査も満足に行われない集落は,村長によって学校や消防施設の維持のために予算が申請され続け,毎年御国から指定口座に一定の額が振り込まれたが,それを確認する者は誰一人いなかった。
そんな誰もいなくなった集落は,何度目かの冬を越え,たった一人の老人のために多額の税金が深山に埋もれた集落の口座に振り込まれ続けたが,使い道のないお金はただただ雪だるまのように膨れ上がっていった。
秋が深まるその年は,いつも年老いた村長が定期的に麓の町に郵便物を回収に来ていたのに,ここ数ヶ月間,村長が現れることがなかった。
麓の人間は,村長が健康のためといって定期的に町に降りてきては集落の者のために肉や魚を大量に買い込む姿を見ていたが,これほど長期間姿を現さないことに不安を覚えた。
話し合いの結果,若い郵便局員が代表して集落の様子を見るついでに溜まった郵便物を届けることになった。本格的な冬が訪れると,数ヶ月間集落に近づくことができなくなるので,その前に溜まった郵便物を届けなくてはならなかった。
秋の空気が冬の寒さに飲み込まれる前に集落へ行こうと,郵便局員は準備をした。そして小さな赤い郵便局の車が集落へ続く山道に入ると,季節外れの粉雪が舞い散るなか何年も誰も使っていない穴だらけの荒れ果てた道を縫うように登って行った。
ガードレールの落ちた崖をゆっくりと通過すると,目の前に転がるいくつもの大きな岩が進路の邪魔をした。



