テレビからは千年に一度の寒波が今年もまたやってくると,この地域を含む広範囲で警戒するようにと繰り返し伝えられた。

 ほぼ毎年,大寒波がくるという警報が出る前から,冬になると水や食料を溜め込むことは集落では当然で,数ヶ月間,降り積もる雪の下で陽の当たらない家の中で過ごすことは年寄りたちにとっては幼い頃から何度も経験していた。

 しかし今年の深雪(しんせつ)は異常に水気を含み,僅かな量でも太い木の枝を折るため,こういった雪を年寄りたちは小霜粗目雪(こしもざらめゆき)霜粗目雪(しもざらめゆき)と地元の言葉で呼んで嫌った。

 濡れた重い雪は何日も降り続き,集落は完全に雪の下敷きになってしまった。あちこちから地鳴りのような音が響き,雪の中から太い木が折れる音がし,雪の重さに耐えられずに家が潰れる音が鳴り響いたが,どんなに大きな音がしてもすべて雪に吸い込まれていった。

 身体の動く者が住む家は,雪の合間から細い煙が立ち昇り,生活していることがわかったが,煙は日を追うごとに細くなり,その数も減っていった。

 やがて白い煙が見えなくなると,重く湿った雪はすべてを覆い尽くし,そこに集落があることすら隠した。